西武・鳥越裕介コーチインタビュー(後編) 2025年シーズン開幕に向けた春季キャンプ後半、西武の編成トップに就いた広池浩…

西武・鳥越裕介コーチインタビュー(後編)

 2025年シーズン開幕に向けた春季キャンプ後半、西武の編成トップに就いた広池浩司球団本部長はシートノックを眺めながら、チームが変わってきた手応えをつかんでいた。

 選手たちは大きな声を出し、1球1球にチャージをかけて全力で送球し、これぞプロ野球という雰囲気を感じられたからだ。


鳥越コーチが期待を寄せる村田玲音

 photo by Koike Yoshihiro

【今も語り継がれる伝説のシートノック】

「でも、私にとってはまだ最低ライン。私の上司である鳥越(裕介)ヘッドもそう感じておられました」

 そう話したのは、今季から就任した大引啓次内野守備・走塁コーチだ。オリックス、日本ハム、ヤクルトで13年間プレーしたあと、日本体育大学などアマチュアチームを指導してきた大引コーチにとって、シートノックにおける上記の姿勢は当然のものだという。

 大引コーチには、現役の頃から「理想」と掲げるシートノックがある。2010年代中盤以降のソフトバンクだ。サードの松田宣浩、ショートの今宮健太、セカンドの本多雄一、ファーストの中村晃や李大浩が見せたシートノックは、今も球界で語り継がれているほどだ。

 それを選手たちと一緒につくり上げたのが、内野守備・走塁を担当した鳥越コーチだった。

「2011年に優勝したけど、12、13年に勝てなかった経験もあったからじゃないですか。『これをできなければ負けますよ』ということができなかった時に負けて、『やっぱり勝つためにはやらなければいけない』となった。ちょうどいい年齢の子たちと、二軍から一緒にやってきた選手たちがいたのは非常に大きかったかもしれない」

 2006年に現役引退し、翌年から指導者になった鳥越コーチは当時40代前半で、選手たちと年齢が近かった。

「私も若かったですしね。キャンプ中の投内連携も、かなりピリピリさせましたから。絶対に試合で失敗させたくないと思ったので。サファテに一回キレられそうになりました」

 ソフトバンクは秋山幸二監督のもと、2012年に3位、翌年は4位に終わると、そのオフに西武からデニス・サファテを補強した。メジャーリーグで4年、広島と西武で計3年の経験を誇る剛腕リリーバーだ。

 サファテが鳥越コーチに苛立ちをむき出しにしたのは、ある年の春季キャンプで投内連携を行なっていた時だった。

「はい、もういっちょ」

 うまくできなかったサファテに、鳥越コーチは追加を課した。それでもうまくできないと、「はい、もういっちょ」と繰り返しやらせた。鳥越コーチはプライドの高い"助っ人"を日本人選手と同じように扱い、できるまでやらせようとしたのだ。

「外国人でも、勝つためには関係ないじゃないですか。そうしたら、サファテがカッとなった。ノックの前に投げる時、『やべぇ、オレにぶつける気かな』と思いました。でも、『頭以外は絶対避けへんぞ』って」

 周囲の空気も緊張するなか、サファテは思いきり右腕を振った。キャッチャーミットのど真ん中に、150キロの剛球が突き刺さる。

「ドーンって来て、『あっ!』て差し込まれました(笑)。すべてわかっているサファテは次の日、すぐに謝りに来ました。そういうチームだったので、あの頃はやっぱり強かったでしょうね。そういう外国人のリーダーがいたので」

【チーム再建のカギになるリーダーの存在】

 2014年に覇権奪還したソフトバンクは日本シリーズも制すと、工藤公康監督が就任した翌年も日本一に輝く。同監督のもと、2017年から4年連続日本一を成し遂げた。

 一方、鳥越コーチは2018年から井口資仁監督に請われてロッテへ。2年連続Bクラスに沈んだが、2020年は2位に導いた。

 どの球団にも浮沈はあるものだ。かつて負けていたチームが勝てるようになるためには、どんな要素が大切になるのだろうか。

「まずはリーダーですね。しっかりしたリーダーがいることが、やっぱり条件かな。引っ張っていく人がいるか、いないかで、全然違うのではと思います」

 そう言うと、「昔の"スポ根"(※「スポーツ根性もの」の略語。)のランニングシーンを思い出してほしい」と続けた。

「一緒に走っている選手同士で『行くぞ』となって、ともに走っていくのか。僕らコーチが『おい、走れ』と言って走らせるのかで、全然違うと思う。そういった意味でも、リーダーは選手ロッカーでもリーダーシップを発揮してくれる。選手のなかに強烈なリーダーが欲しいですね」

 鳥越コーチが今季着任した西武は、外野手のレギュラー不在という課題をずっと抱えていた。ショートの源田壮亮、セカンドからサードに転向した外崎修汰はチームを長らく支えてきたが、いわゆるリーダータイプではない。

 球団再建には、野手のリーダー不在が大きな課題だ。鳥越コーチはこう見ている。

「候補は誰ですかね。今のところ、西川愛也くらいしかいないかなと思っています。でも彼は、まだ自分で精いっぱい。本来であれば外崎、源田がもっとやってほしいですけど、ちょっと物足りないですね。どちらかというと、今までリーダーの下にくっついていく[光白1]ようなタイプの選手だと思うので。彼らは彼らなりには頑張っていますけど」

【次代のリーダー候補は?】

 立場が人をつくるという意味では、今季活躍したルーキーも期待される。

「渡部聖弥が(打線の)真ん中を打つので、そのタイプであれば、彼なんかもと思いますけどもね。ネビンがいるうちに、(誰かが)リーダーになってほしいと思います」

 球団史上最悪の91敗を喫した昨季から巻き返しを図るうえで、新たな風を吹かせたのが来日1年目のタイラー・ネビンだった。守備練習ではカバーリングの確認を欠かさないなど、野球に取り組む姿勢でも多くの選手に影響を与えている。チームメイトは敬意をこめ、「ネビンさん」と呼ぶほどだ。

 ただし、ネビンはアメリカ人である。どうしても言葉の壁が立ちはだかる。NPBのチームには、日本人のリーダーが不可欠だ。鳥越コーチが続ける。

「ネビンにはリーダーの姿勢があるので、ライオンズはこれから面白くなってきますよ。ただ、ちょっと弾が足りないですね。自分に自信を持っていない子が多いので、その自信を持たせたいと思います。ちょっと良かったら、自信じゃなくて過信するのか、調子に乗るのか。ハセ(長谷川信哉)なんてその典型だと思います。彼なりには非常に頑張っていると思いますけど」

 高卒5年目の長谷川は波の大きさが課題だが、攻守で高いポテンシャルを示した。同4年目の滝澤夏央も出場試合数、安打数で自身のキャリアハイを更新したが、ふたりともまだ自分のプレーに集中すべき段階だ。

 球団再建中の西武には、そうした選手が多くを占めている。そんななかで鳥越コーチの目を引いたのが、大卒2年目で197センチ、115キロの大型打者、村田怜音(れおん)だった。一軍登録された7月16日から抹消される8月25日まで、おもに5番でチャンスを与えられた。

「コツコツと、いいと思ったことはずっと続けられる子です。できる、できないは別として。すぐにできる子もいるけど、彼は時間がかかる子です。ただし走り方にしても、春のキャンプで見たら、冬の期間だけでまったく変わっていました。夏に見た時には、もっとよくなっていた。ただ、(成長スピードが)ちょっと遅いんですけどね。でも去年の秋のキャンプで知り合い、ゆっくりですけど、すべてにおいてずっと右肩上がり。それは彼の非常にいいところなのかなと思います」

 外野のレギュラー不在で始まった今季、西川が大きな成長の跡を残し、ルーキーの渡部聖弥はクリーンアップに座った。滝澤も攻守で大きな飛躍を果たし、長谷川や村田のように短期的ながらポテンシャルを示した若手もいる。

 このなかから、誰が次代のリーダーになるのか。あるいは、ほかの選手が出てくるのか──。球団再建には、もう少し時間がかかるだろう。

 ただし、すでに種はまかれ、出始めた芽もある。あとは、美しい花を咲かせるだけだ。