ジャパンはこの敗戦を糧に這い上がるしかない(C)Getty Images ラグビー日本代表(世界ランキング13位、以下ジ…

ジャパンはこの敗戦を糧に這い上がるしかない(C)Getty Images

 ラグビー日本代表(世界ランキング13位、以下ジャパン)のオータムテストマッチシリーズ2戦目が南アフリカ代表スプリングボクス(世界ランキング1位)との間で行われ、ジャパンは7-61で大敗を喫した。両国代表の通算対戦成績はジャパンの1勝3敗となった。

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 現地時間の11月1日夕刻に行われたこの試合の舞台は、イギリス・ロンドンにあり「サッカーの聖地」と言われるウエンブリースタジアム。開催都市、試合場こそ違うが、イングランドは2015年のW杯予選プールでジャパンが初対決の南アフリカ代表に勝利し、俗にいう「ブライトンの奇跡」という、スポーツ史上最大とも言われる番狂せを演じた地である。前週のオーストラリア戦ではタフで強固なディフェンスで最後まで相手を追い詰め、15-19という大善戦を演じて意気上がるジャパンが、「ブライトンの奇跡」ならぬ「ウエンブリーの歓喜」を演じてくれるのではないかという期待を密かに持っていたファンは多かったのではないだろうか。

 しかし開始後5分で、日本のファンのそんな淡い期待は粉々に打ち砕かれる。昨シーズンの戦いではそれなりに守れていたラインアウトモールをあっさりと粉砕され、先制トライを奪われてしまったのだ。

 そして前半13分にはSOサシャ・ファインバーグ=ムンゴメズルにハイパントを上げられ、キャッチを試みた李承信が空中で競り負けてボールを確保できず、そのままファインバーグ=ムンゴメズにトライを奪われた。

 ジャパンのストロングポイントを叩き折ったトライと、弱点を的確についたトライを連続して奪われてしまった。この後のジャパンはほぼ防戦一方と言わざるを得ない状況が続いた。試合全体を通じ、ポゼッション、テリトリーともに4:6の割合で負けていたのだが、試合を観ていた限りでは8割方は相手が支配していた印象で、端的に言えば手も足も出なかった場面ばかりが目立った。

 ランプレーを仕掛ければ、相手にスチールを喰らう。それではということでキックを使えば、チェイスの体制が整っておらず、いたずらに相手にカウンターアタックのチャンスを与える結果に終わることが多かった。それでも、ジャパンは心折られたようには見えなかった。簡単に諦めてしまわないメンタルが育ってきたのは、第二次エディージャパンの一つの成果ではあると思う。

 前半27分に相手トライライン前で攻め込んでのラインアウトでは、デザインしていた「決めムーブ」を発動させ、トライライン寸前にまで迫ったが、最後の最後でHO佐藤健次からNo.8リーチ・マイケルへのパスがインターセプトされチャンスは潰えた。ラインアウトからは何か仕掛けて来ると読んでの南アフリカ代表のディフェンスはさすがだった。

 もし「ウエンブリーの歓喜」が実現する可能性があるとすれば、試合終盤まで多くとも2トライ差、すなわち10点以内くらいのビハインドで追いかけられた場合だろうと予測していたのだが、前半終了時点での得点差は26点。事実上この時点で、勝敗については諦めざるを得ない状態だった。

 後半最初のトライを奪ったのも南アフリカ代表だった。ジャパンの守備の要、ベン・ガンターがシンビンで不在という有利な状況を見事に活かし切った南アフリカ代表は、「勝つためには、現状況下で何が必要か」についての認識がフィールド上のプレーヤー全てに見事に共有化されていた。

 やられっぱなしのジャパンは後半10分過ぎに、ようやく「らしさ」を見せた。相手トライライン前まで攻め込むと、エディージャパンの「順目、順目に攻める」という基本方針を覆して、SH藤原忍の好判断で、よりゲインが可能なポイントを求めて、順目、逆目にとらわれない柔軟で素早いパス回しを見せたのだ。

 そして、スピードに対応しきれなくなった相手プレーヤーが反則を犯すと、ボールの一番近くにいたFB矢崎由高がすかさずクイックタップでインゴールを陥れた。点数的には「一矢報いた」に過ぎなかったが、一連のスピーディーな攻撃からの流れで奪ったこのトライこそが「超速ラグビー」の真骨頂だったように思う。このトライのようなシーンを数多く見せられれば、強豪国相手の勝利も不可能ではない、という期待を感じさせてくれた時間だった。

 継続課題であるハイボール処理の拙さ、ラインアウトの精度の低さに加え、この試合ではスクラムで劣勢に立たされる場面も目立った。一矢報いたトライの他は反省点ばかりの一戦だったが、下を向いている暇はない。来週には南アフリカ代表に勝るとも劣らぬ強豪アイルランド戦が控えているし、その後は、2027年W杯での戦いを有利に進めるために、絶対に勝利したい、ウエールズ、ジョージアとの対戦が控えている。今回の敗戦を活かし、残り試合の全勝を期待したい。

[文:江良与一]

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