蘇る名馬の真髄連載第20回:タマモクロスかつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウ…
蘇る名馬の真髄
連載第20回:タマモクロス
かつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)。2021年のリリースと前後して、アニメ化や漫画連載もされるなど爆発的な人気を誇っている。ここでは、そんな『ウマ娘』によって再び脚光を浴びている、往年の名馬たちをピックアップ。その活躍ぶりをあらためて紹介していきたい。第20回は、1988年にGⅠを3連勝し、オグリキャップとも熱戦を繰り広げたタマモクロスを振り返る。

天皇賞・秋でオグリキャップ(左)との「芦毛対決」を制したタマモクロス(右)
photo by Kyodo News
『ウマ娘』のタマモクロスは、とにかく気力とハングリー精神に満ちた性格の持ち主だ。小さい頃、金銭的に恵まれない環境で育ったこともあり、気の強さが芽生えたという。
こうしたキャラクターは、モデルとなった競走馬・タマモクロスの生い立ちを反映している。たとえば「金銭的に恵まれない環境で育った」というプロフィールについては、タマモクロスを生産した錦野牧場が、同馬の活躍を前にして経営難で倒産した背景が関係しているのだろう。
そんな競走馬・タマモクロスを語るうえで欠かせないのは、オグリキャップとのライバル関係だ。なかでも、2頭の初対決となった1988年のGⅠ天皇賞・秋(東京・芝2000m)は、大きな盛り上がりを見せた。
タマモクロスは、デビューから順風満帆だったわけではない。4歳(現3歳。※2001年度から国際化の一環として、数え年から満年齢に変更。以下同)の秋までは8戦1勝と、下級クラスでもがく日々が続いていた。
しかし、9戦目に7馬身差の圧勝劇を演じて2勝目を挙げ、続く条件クラスの特別戦でもまたも後続に8馬身差をつけて大勝すると、一気に秘めた能力が開花。すかさず挑んだ初重賞のGⅡ鳴尾記念(阪神・芝2500m)でも6馬身差で完勝した。以降、GⅢ京都金杯(京都・芝2000m)、GⅡ阪神大賞典(阪神・芝3000m)を勝って重賞3連勝を飾り、さらにはGⅠ天皇賞・春(京都・芝3200m)、GⅠ宝塚記念(阪神・芝2200m)まで制覇し、一躍トップホースへと上り詰めた。
向かうところ敵なし。そんななかで挑んだのが、10月の天皇賞・秋だった。ここで初めて、オグリキャップと戦うことになる。
一歳下のオグリキャップは、地方競馬の笠松競馬でデビュー。驚異の8連勝を含め、12戦10勝(2着2回)という圧巻の成績を引っ提げて、4歳春に中央競馬へ移籍した。舞台が変わっても勢いは衰えず、中央で重賞6連勝を達成。地方時代と合わせて14連勝の快進撃を見せたのである。そうして挑んだのが、天皇賞・秋だった。同馬にとって初めてのGⅠ戦となった。
7連勝中のタマモクロスと、14連勝中のオグリキャップ。2頭の芦毛の対決に、ファンは心躍った。当日のオッズは、オグリキャップが2.1倍の1番人気、タマモクロスが2.6倍の2番人気で続いた。完全な一騎打ちムードだった。
ゲートが開くと、タマモクロスは積極的な競馬を見せる。それまでは後方にポジションを取ることが多かったが、この時は好スタートから2番手につけた。一方、オグリキャップは13頭中8番手と、中団の後方からレースを進めた。
タマモクロスはそのまま2番手をキープし、直線を迎える。オグリキャップはその3馬身ほど後ろにおり、大外に出して追撃を開始した。
どちらが連勝を伸ばすのか、場内が大熱狂した直線。オグリキャップは少しずつ外から加速し、同じ芦毛のライバルを追いかける。最内にいたタマモクロスは、残り300mあたりで先頭に立つと、徐々に外へと進路を取っていく。まるでオグリキャップに馬体を併せにいくかのように。
しかし、レースは2頭が並びかけることなく終わった。タマモクロスが最後まで力強い伸びを見せ、ライバルを寄せつけずに押しきったのである。オグリキャップは、宿敵から1馬身4分の1差の2着だった。
その後、2頭はGⅠジャパンカップ(東京・芝2400m)に進み、タマモクロスは2着、オグリキャップは3着。勝ったのは、外国馬のペイザバトラーだった。
続くGⅠ有馬記念(中山・芝2500m)でも、直接対決が実現。ここでついにオグリキャップが一矢報いて勝利を決めた。2着に敗れたタマモクロスは、このレースをもって引退。日本中の競馬ファンを魅了したライバル関係は幕を閉じた。