10月26日、名古屋。新シーズンが幕を開けたSVリーグ、優勝候補の一角ウルフドッグス名古屋は古豪の広島サンダーズを本拠…
10月26日、名古屋。新シーズンが幕を開けたSVリーグ、優勝候補の一角ウルフドッグス名古屋は古豪の広島サンダーズを本拠地に迎え、セットカウント3-0(25-22、27-25、25-19)で快勝を収めた。前日の開幕戦で、2-3とフルセットの末に敗れた借りを返した形だった。
試合後の記者会見室に入ってきたウルフドッグスの宮浦健人(26歳)は、大きな体を小さく畳み、ゆっくりと椅子に座ると背筋を伸ばした。シャワーを浴びてから来たのか、少し濡れた髪の毛を左手でバサバサと空気を送って乾燥させる。寝癖のように跳ね上がった髪をなでつけ、セット完了だ。
宮浦は、自分のペースで動く。しかし、少しも無礼や不遜さはない。むしろ可愛げがあるように映る。律儀で、おおらかさがあるのだ。
「昨日の敗戦から、今日は勝てたのでほっとしています。でも、個人のパフォーマンスとしては満足していません。これからもっとチームにフィットしていかないといけないので、練習をするしかないなと」
宮浦は低い声で言った。言葉に飾りがない。言い回しはありふれたものだが、彼が使うと妙に真実味が出る。
2025-26シーズン、日本代表オポジットの宮浦はどんなスタートを切ったのか?

新天地、ウルフドッグス名古屋での活躍が期待される宮浦健人photo by WOLFDOGS NAGOYA
サンダーズ戦の宮浦は1セット目からフィットしていた。ブロックアウトを取って2-1とする。これで獲得したサーブで、熊本・鎮西高校の後輩である水町泰杜が見事なエースを奪うと、満員の場内が活気づいた。序盤の優勢を固めると、宮浦は7点目を、剛腕をふるってエースで決める。さらに9点目は自らサーブで崩したあと、アタックにも成功した。
9-3と広げたリードが、試合全体の趨勢を決めることになったのか。前日の負けを引きずらず、流れをつかんだ。
「昨日の負けから最初が大事で、流れをつかむポイントになったので、序盤に走れてよかったなって思います。サーブは監督(ヴァレリオ・バルドヴィンHC)からも、『ミスを気にせず、どこに打つかも、打ちたいところへ、いいサーブを打っていこう』と言われているので、腕を振ったことで、結果として(いい方向に)出たってところです」
【「もう、信じているんで」】
宮浦、水町という二枚看板の人気選手が活躍することで、会場のボルテージが自然と上がった。セットポイントでも、水町がレシーブし、宮浦がブロックを弾き飛ばす豪快なスパイクを叩き込んだ。
2セット目も、宮浦は18-18から連続ブレイクに成功した。サーブで崩し、水町や山崎彰都がスパイクを決める。そして宮浦は再びエースを取って21-18とすると、咆哮を上げた。すぐに質朴な侍のような顔つきに戻るのだが、その弁(わきま)えた姿が彼らしい。一度は24-24と追いつかれたが、貯金の猶予が効いたのか、セット連取に成功した。
「強いサーブはひとつ自分の武器であるんですけど......このチームに入って、バリエーションを持ってサーブ練習をしているところです。緩急をつけてやっていけば、もっとサーブが武器になっていくと思います」
そう振り返る宮浦は、30.4%と高いサーブ効果率を誇った。エースだけではない。ボールの回転や落とす場所を調整し、サンダーズの堅牢な守備を崩していた。
もっとも、宮浦が新天地で輝くのはこれからだろう。
今シーズン、宮浦はジェイテクトSTINGS愛知からウルフドッグスに移籍してきた。コンビネーションを合わせる時間も十分ではない。また、長丁場のSVリーグをチャンピオンシップ決勝まで戦ったあと、休む間もなくネーションズリーグをフルで戦い、さらにフィリピンでの世界バレーも出場。ほとんど休みもない状況で、この試合でアタック決定率は50%を叩き出したが、アタックラインの踏み越しのようなミスも目立っていた。
「今はこのチームで"よりスピーディな攻撃をやっていこう"とトライ段階なので、今後はシーズン序盤よりはいいものを見せられるようになっていくと思います。今はもったいないミスも出ますけど、出たものに対して改善していくというか......。一貫して継続してやっていきたいですね」
宮浦は、実直に言う。オポジットとしてはセッターとの関係性も重要で、深津英臣とのコネクションをどこまで仕上げられるか。左利き同士のコンビの相性は、多くのボールゲームで良好だ。
「おみさん(深津)が左利きだからどうこう、っていうのはなくて、もう、信じているんで、スーパーセッターだから」
宮浦はそう言って、少し戯(おど)けた。彼はお世辞を言うタイプではない。進むべき道筋が見えているのだろう。
「(宮浦にはトスを)上げやすいですし、自信を持ってやっていきたいと思いますね」
深津も、宮浦とのコンビには太鼓判を押していた。その信頼関係こそ、プレー熟成の出発点だ。
昨シーズンまで、ウルフドッグスのオポジットはニミル・アブデルアジズだった。ニミルはビッグサーバーとして暴れまわり、最多得点、最高決定率で初代SVリーグMVPに輝いた。宮浦はその代わりではない。プレースタイルも違うだろう。しかし、攻撃のエースであるオポジットとして"最後を託される存在"であることは同じだ。
ちょうど1年前のインタビューで、宮浦はこう語っていた
「世界のトップ選手がSVリーグに集まって、とくにオポジットというポジションは外国人が占めるようになってきました。だからこそ、そのなかでチームとしては優勝を目指し、個人としてもオポジットというポジションで一番になれたらって思っています。もっともっと強くなりたい」
宮浦は朴訥な男だが、その"欲"だけは隠さない。そのギャップが、日本人オポジットの威風を際立たせるのだ。