陸海空の自衛隊幹部候補を養成する防衛大学校(神奈川県横須賀市)では毎年秋、学園祭や体育祭に当たる開校記念祭が催される。…
陸海空の自衛隊幹部候補を養成する防衛大学校(神奈川県横須賀市)では毎年秋、学園祭や体育祭に当たる開校記念祭が催される。外部との交流が限られる防大が地域に開かれる「ハレの日」の華は、壮烈な棒倒しだ。
防大生は4学年の約2千人が四つの大隊に分かれ、それぞれ同じ宿舎で集団生活を送る。開校記念祭の棒倒しもこの四つの大隊で競われ、150人対150人の精鋭同士がぶつかり合う。
各大隊の「棒倒し総長」を中心に早くから戦略を練り、チームをまとめ上げて優勝をめざして準備を重ねる。
防大の担当者は「将来の幹部自衛官として飽くなき勝利を追求する気概や、旺盛な気力、体力および強固な団結心を育成するとともに、企画力・指導力の向上につながっている」とその意義を強調する。
「防衛大学校五十年史」(2004年発行)によれば、棒倒しは1953年の防大の創設当初から実施されていた。同年11月に第1回の校内運動会が久里浜仮校舎グラウンドで催され、翌年の第2回には棒倒しが行われている。
歴史をたどれば、棒倒しは海軍兵学校の発祥とされる。1899(明治32)年、広島・江田島の海軍兵学校を皇太子が訪れた際に生徒たちが棒倒しを披露している。以後も、旧海軍の幹部候補生たちは、名物競技となった棒倒しに熱中した。
1945年の終戦で海軍兵学校は解体され、士官養成の役割は民主主義の下で防大に受け継がれた。棒倒しには、一競技の枠を超えた伝統の重みがある。
危険を伴うだけに、競技への参加は男子学生のみに限られてきた。ただ、変化もある。棒倒しのような女子競技を求める声を受け、2024年秋の開校記念祭で女子学生による「棒引き」が初めて実施された。
初年度は30人対30人で、12本の棒を自陣に引き込み合って得点を競った。得点によって異なる色が塗られ、参加者には直前まで配置が明かされない。棒倒しと同様、やはり戦略がものを言う。担当者によると、「女子学生同士の縦と横のつながりが強化され、大隊内の更なる融和団結を図ることができた」という。
防大が初めて女子学生を受け入れたのが1992年のこと。30年以上の時を経て、新たな伝統が生まれようとしている。(清水優志)