4万人を超えるファンが詰めかけ、熱気に満ちた東京・国立競技場──。エディージャパンが今季国内ラストゲームで、歴史的勝利…

 4万人を超えるファンが詰めかけ、熱気に満ちた東京・国立競技場──。エディージャパンが今季国内ラストゲームで、歴史的勝利にあと一歩と迫った。

 2027年10月にオーストラリアで開催されるラグビーワールドカップまであと2年。世界ランキング13位のラグビー日本代表は今秋、格上国とのテストマッチ5連戦が控えている。10月25日、その第1戦目となる「リポビタンDチャレンジカップ2025」で、世界ランキング7位のオーストラリア代表をホームに迎えた。


日本代表を引っ張るベン・ガンター(左)とワーナー・ディアンズ(右)

 photo by Saito Kenji

 オーストラリア代表の愛称「ワラビーズ」との対戦成績は0勝6敗。ワールドカップ優勝2回を誇るラグビー大国に勝ったことは一度もない。この日の試合も前半はアタックする機会がほとんどなく、自陣に釘付けになってしまった。ただ、イエローカードを2枚出しつつも3-14で折り返せたのは、組織的なディフェンスが機能していたからだ。

 今年8月、かつて神戸製鋼HC(ヘッドコーチ)やアメリカ代表HCも務めたギャリー・ゴールド氏がディフェンス担当コーチに就任。エディージャパンの守備に新たなテコ入れを図った。

 結果、オーストラリア戦ではタックル成功率95%(211/221回)という驚異的な数字をマーク。20回タックルした選手がひとりでもいれば賞賛に値するところ、先発したFWの8人中7人が20回以上というすさまじいデータを叩き出すことに成功した。

 このディフェンスでの粘りによって、試合の流れは日本に傾いていく。後半はオーストラリアを上回る2トライを奪い、4点差まで詰め寄った。残り18分──ワンチャンスで逆転する可能性も見えてきた。しかし、オーストラリアが必死で守るゴールラインは遠く、惜しくも15-19でノーサイドとなった。

 悔しい結果に終わったものの、7度目のワラビーズ挑戦で最少失点&最少得点差という内容について、エディー・ジョーンズHCは胸を張った。

「世界のトップに対して、戦えるようになった。あらゆるエリアで渡り合うことができるようになった。12カ月前にはできなかったが、今はできる。彼ら(日本代表メンバー)は勇敢で若く、確実に成長している」

【リーチに次ぐキャップ数】

 ジョーンズHCはメンバー全員の奮闘を称えた。ただそのなかでも、先発したふたりの外国籍選手を特筆しておきたい。

 まずひとりはLOワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)。37歳のリーチ マイケルに替わり、今夏に行なわれたパシフィック・ネーションズカップからキャプテンを務めているニュージーランド出身の23歳だ。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 23歳4カ月でのキャプテン就任は戦後最年少。ディアンズは父の仕事で14歳の時に来日し、千葉・流通経済大柏高校を卒業後、大学に進学せずに東芝ブレイブルーパスに入団した。

 入団当初から高卒とは思えない存在感で、早々にチームの主軸となってリーグワン2連覇に大きく寄与。日本代表では19歳で初キャップを獲得し、23歳にしてすでに28キャップ。今回選ばれたFWのなかでは、90キャップのリーチに次ぐキャップ数である。

 ジョーンズHCはディアンズをキャプテンに任命した理由について、リーチの強い推薦があったことを明かしたうえで、「ワーナーはまだ若いが、パフォーマンスや選手としての力量をさらに高めるために、『キャプテン』という責任がきっかけになると思った」と説明する。

 また、海外のレフェリーと英語で交渉できる点も大きい。日本語も堪能なので、多彩なルーツを持つ選手が集まる代表チームにおいて、繊細なコミュニケーションが取れることもキャプテンに選ばれた理由のひとつだろう。

 ディアンズは今、心身ともに充実している。リーグワンで優勝を果たしたあと、プライベートではパートナーの日本人女性に国立競技場でプロポーズして結婚。そして来シーズンは故郷ニュージーランドのハリケーンズに期限付き移籍し、スーパーラグビーにも挑戦する。

「世界でベストのLOになりたい!」

 常にそう宣言しているディアンズは、着実にその階段を上がっている。

【日本の国歌は私の国歌】

 そしてもうひとり、紹介したい外国籍選手はFLベン・ガンター(埼玉ワイルドナイツ)。身長195cm、体重120kgの見事な体躯を誇るオーストラリア出身の28歳だ。

 ガンターは母の祖国タイで生まれ、1歳から養父母のもとオーストラリアで育った。高校卒業後はオーストラリアでプロ選手を目指すも契約には至らず、軍隊に入隊しようと考えていた。しかし軍隊に申請する2週間前、縁があってワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督(当時)に誘われて2016年に来日。そこからずっと日本でプレーを続けている。

「子どものころは、いつか自分が(ワラビーズに選ばれて)オーストラリアの国歌を歌う日が来ることを望んでいた」という。しかし2021年10月のオーストラリア戦で初キャップを獲得し、2023年のワールドカップのスコッドにも選ばれた今では、「日本の国歌は、私の国歌となっています。そのことをとても誇りに思っています」と語る。

 2023年ワールドカップは残念ながらピッチに立つことが叶わなかった。しかし、2027年ワールドカップを「最終的なゴール」と定め、今は研鑽を積む日々を送っている。

 今回のオーストラリア戦では、後半21分に4点差に迫るトライも挙げた。

「あれはすばらしいチームトライでした。たまたま適切なタイミングで(自分が)適切な場所にいただけです。本当は(直前にボールを持っていたSH藤原)忍に与えられるべきトライで、僕はただフィニッシュを任されただけ」

 ガンターはこのワラビーズ戦でも21回のタックルを決めたように、本来はタックルやジャッカルを武器とする守備の人だ。

「守備でチームを助ける方法として、タックルが自分の役割だと感じています。日本代表のアタック力はすばらしい。だから僕はディフェンスで存在感を高めて、相手の勢いを止めることに集中しています。これからも続けます。これがこの国への恩返しの方法です」

【2015年よりも優れたチーム】

 ガンターは明るい性格で、ムードメーカーとしてもチームに貢献している。ディアンズと同じく日本語を使いこなして、チームメイトと幅広いコミュニケーションを取っている。

「日本語を話すことで、日本の文化にリスペクトを示すことができると思います。日本人と外国人のギャップをなくすために、コネクトするために言葉は大事です」

 チームの一体感を増すために、ガンターは「背中で引っ張っていければ」という心意気で、公私ともに仲のいい主将ディアンズをサポートする。

 オーストラリアには惜敗したものの、さらなる進化を示すことができた2年目のエディージャパン。代表チームはこれからヨーロッパ遠征に出発し、11月1日は世界ランキング1位の南アフリカと、8日は同2位のアイルランドと対戦する。

 「このチームは(ワールドカップで南アフリカを下した)2015年よりも優れたチームだと思います。選手はさらに成長する可能性を秘めている。私たちは勝利を信じて欧州へ向かいます」(ジョーンズHC)

 ラグビー日本代表は、アイルランドを撃破した2019年ワールドカップ以来となる「金星」を奪うことができるか。