10月24日、神戸。サントリーサンバーズ大阪とのSVリーグ開幕戦、超満員になった「GLION ARENA KOBE」で…
10月24日、神戸。サントリーサンバーズ大阪とのSVリーグ開幕戦、超満員になった「GLION ARENA KOBE」で、西田有志(大阪ブルテオン)はどこか達観したような明るい表情だった。
「試合前から足を攣(つ)っていて......」
西田はそう振り返っている。不測の事態が起きた自分をたしなめながら、状況を楽しんでいるようだった。今年は代表での戦いを休み、心身ともに作り直してきた。そのなかで気負いがあったのかもしれないが、逆境にあっても少しも焦っていなかった。
「半年ぶりの公式戦、これだけの観客のなかで緊張もありましたかね。でも、全員が苦しいなかでも各々が向き合うことができて。"ブルテオンの戦いはこれだ"というのを見せられました」
今シーズンからキャプテンに就任した西田はこともなげに言った。試合のなかで、尻上がりに調子を上げていた。14得点を挙げ、そのうちバックアタックは6得点だった。セットカウント3-1と逆転勝利に貢献した。ケモノのように飛翔し、左腕を振り下ろし、拳で胸を叩く、その勇姿は彼だけのシルエットだ。
新しい西田の物語が開帳した。
サントリーサンバーズ大阪戦でスパイクを打ち込む西田有志(大阪ブルテオン) photo by Kyodo news
サントリー戦、序盤はややおとなしかった西田が、徐々にコンディションをフィットさせていく。そしてアタックを決めるたび、チームが沸き立った。彼自身が感情を解放して喜ぶのはあるだろうが、熱情を伝播できることこそ、最大の才能だ。
もっと言えば、それはコミュニケーション力につながる。とりわけ、フランス代表アントワーヌ・ブリザールとの結びつきで顕著だった。
ブリザールは、フランス代表で二度の金メダルを勝ち取った世界屈指のセッターである。長身で空中を制し、スパイカーの選択肢を広げることができる。センスと経験の融合もあって、世界トップのイアルバン・ヌガペトのようなスパイカーを操ってきた変幻は尋常ではない。しゃがみ込むような無理な体勢でもオーバーでトスを上げ、直前まで待ってノールックでトスを上げ、トリッキーなパスを連発する。
【キャプテンとして落ち着きを与える】
西田も足を攣りながら、ブリザールのトスを楽しんでいるようだった。とにかく予定調和がない。もっとも、自らトスをもらうためにアンダーで上げたボールを、ブリザールがバックから2アタックで決めたシーンは、西田もさすがに呆気に取られたという。
「あれはたまたまですね。アントワーヌも(スパイクを)打てる選手ですけど、自分が戻したパスは、"(自分にトスが上げられる)アプローチを取れるパスの高さで出したら彼がそこにいて、気づいたら打っていた"という。あれを狙ってできたら、やばいチームです」
西田は肩をすくめて言い、満席の会見場では笑いが起きた。それだけ高いレベルのトリックプレーだった。トスを上げるのが仕事のセッター、ブリザールがスパイカーの西田に上げず、自ら即興でバックアタックするのだから、味方をも欺くほどだ。
「自分にとって、2アタックは珍しくありません。西田のいいセットでした。いいタイミングで来て、打てそうだったので」
ブリザールは平然と語った。それが普通の感覚なのだろう。次元の違うセッターが入ったことは、西田にとっても進化の触媒になるはずだ。
キャプテンになった西田は、とことん落ち着いていた。たとえばマッチポイントでは、サーブに向かう甲斐優斗にこう声をかけている。
「最後の1点、思いきっていけ」
振りきった甲斐のサーブは、唸りを上げて代表リベロの小川智大を襲い、それが勝利の一撃になった。
しかし、翌日の試合では、ブルテオンはサントリーにセットカウント1-3で敗れている。1、2セットを立て続けに失い、3セット目で目覚めたように巻き返し、4セット目もやや優勢でデュースになったが、25-27で落とした。
「1 、2セットは劣勢で、そこから打開し、3セット目はやるべきことができて収穫があった。確かに結果はついてきませんでしたが、そういうこともあるっていうのは想定内。自分にとっては過程が(最後に)ものを言うと思っているので、楽しみながら成長したいですね」
西田は冷静に試合を振り返った。レギュラーシーズン44試合の長丁場、焦りは禁物だ。
【髙橋藍と火花を散らした】
「最善は尽くしています。去年のチームだったら、あの展開で3セット目に(調子を)戻せなかったかもしれません。今は、どの選手が出ても(この状況を)作れる自信があります。完成度はまだまだですし、これからですが、"試合で1点を取る"というところの準備で、できない意識があるなら、それを少しずつ払拭し、できるマインドになるように......」
西田は言葉を選んで語ったが、求道的、哲学的なアプローチと言えるだろう。
彼はコートで本能的な衝動を見せる。それが人気の源泉と言える。少しもおちゃらけて見えないのは、そこに芯が通っているからだろう。
対戦相手の髙橋藍とは対照的な求心力を持った選手だ。
「西田選手の存在は刺激になります。迫力のあるバレーボールが一番魅力ですよね。あれだけパワフルなスパイクはなかなか打てない。ジャンプサーブや豪快なスパイクは、自分にもできないもので。迫力でお客さんを惹きつける魅力がある選手ですね」
今年3月に行なったインタビューで、髙橋は西田についてそう語っていたが、ふたりは違うキャラクターでありながら、コインの表裏のように結びついている。日本男子バレー界が生んだ寵児と言える。今回の開幕2連戦でも、ふたりは火花を散らしていた。
サントリーとの第2戦の第4セット、西田はブリザールのトスをクロス、ストレートに打ち分け、半ば覚醒する。バックアタックでは一度トスが来なくても、続けて動き直し、豪快に決めた。そしてサーブは髙橋を狙い、会場の声援が爆発するようなエースを奪い取った。24点目のセットポイントもブロックアウトで取った。
だが、この日は髙橋がデュースでの強さを見せた。結果にアプローチする王者の強さか。開幕節は痛み分けとなった。
もっとも、西田は"最後に栄光に浴する道"を進んでいる。
「全員で来週の練習から『クオリティを上げていこう』って話しています」
記者会見で西田は、低いトーンで言った。結果以上に過程を追求し、結果も導き出す。そう腹をくくっているように見えた。