接戦を演じたジャパンは、確かな前進を感じさせた(C)産経新聞社 ラグビー日本代表(世界ランキング13位、以下ジャパン)の…

接戦を演じたジャパンは、確かな前進を感じさせた(C)産経新聞社

 ラグビー日本代表(世界ランキング13位、以下ジャパン)のオータムテストマッチシリーズ5連戦、「ジャパン試練の5連戦」の初戦が、オーストラリア代表ワラビーズ(同7位)を国立競技場に迎えて10月25日に行われ、ジャパンは15-19で敗れ、黒星スタートとなった。両国代表の通算対戦成績はジャパンの0勝7敗となった。

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 試合終了の瞬間までどちらに勝利が転がり込むかわからない、文字通りの接戦にジャパンは惜しくも敗れた。手に汗握るような接戦を演出したのは、なんといってもジャパンのディフェンス力。度々ディフェンス不備が指摘されていたサマーシリーズ、パシフィックネーションズカップが嘘のように、巨漢揃いのオーストラリア代表に次々とタックルが突き刺さった。その数、実に221回。しかも成功率96%という恐るべき高率で、フィジカル勝負での圧勝を目論んだオーストラリア代表と堂々と渡り合った。

 圧巻だったのは前半15分過ぎからのジャパントライライン際の攻防。途中、繰り返しの反則でチャーリー・ローレンスにイエローカードが出されるというピンチに見舞われながらも、次々とピック&ゴーを仕掛けてくるオーストラリアFW陣を約5分の間跳ね返し続けた。そして、最後はオーストラリア代表が根負けしてBKに展開したところを鋭いタックルで相手を倒し、スティールを仕掛けて反則を誘って、ついにトライラインを割らせなかった。これほどの強力なジャパンのディフェンスを観たのは初めてのことだ。今までは少々頑張っても、最後は相手チームの奔流を止められずにトライを奪われる場面ばかりだったが、ディフェンスシステムの再構築と、それを遂行するだけのフィットネスをつけるためのハードワークが効力を発揮してきたというところだろうか。

 この攻防の後、ジャパンの選手には明らかに疲れが見えた。前半20分の段階ではボールポゼッション、テリトリーともに2:8の割合で圧倒的にオーストラリア代表に負けており、ここ数年のジャパンであれば、この時点でゲーム終了までのフィットネスを使い切ってしまっていてもおかしくなかった。実際に前半終了間際には、オーストラリア代表に自陣深くまで攻め込まれ、トライラインを越えられた場面が2回あった。ただしこの2回ともトライに持ち込む以前にオーストラリア代表に反則があってキャンセルとなり、前半の後半から後半の立ち上がりにかけて大量失点し、試合の趨勢を決められてしまうという「いつか観た光景」をなぞることはなかった。

 それどころか、後半は攻め疲れたオーストラリア代表を尻目にジャパンの方がモメンタムを生み出していた。後半12分にラインアウトから「決めムーブ」を発動させ、オーストラリア代表のトライラインに迫ると、最後は竹内が相手防御のど真ん中を突破してトライ。17分にはオーストラリア代表にトライを取り返されはしたものの、21分には、やはりラインアウトからブラインドWTB長田智希がエキストラマンとしてSO李承信のすぐ左をすり抜けるというサインプレーでトライライン前に迫り、最後は密集の混戦からFLベン・ガンターがトライして15-19まで迫った。終了間際まで1トライ以内の点差、かつジャパンのフィットネスが衰えていない状況から、2015年のW杯における南アフリカ相手の「ブライトンの奇跡」再来の可能性を信じながらのラスト20分あまりだったが、最後の最後であと一歩届かずノーサイド。実に悔しい惜敗だった。

 届かなかったあと一歩は、まず、相手陣深くでのラインアウトでミスが出たこと。ジャパンの2本のトライはいずれもラインアウト起点であり、確実に取った上でもう一つ「決めムーブ」を見せて欲しかった。もう一つは、一頃に比べ減ってはいるものの、まだノックフォワードが度々観られること。雨天での試合でスリッピーな環境ではあったものの、せっかくの攻撃の流れが断ち切られた場面が目についた。いずれも今後の継続課題として、修正策を講じ、練習に励んでいただきたい。また、BKが素早くワイドに展開してのスピード勝負が観られなかった点も不満だ。相手をもう少し振り回してスタミナを奪うことができていれば、勝敗の結果が逆になったかもしれない。

 以前からの課題ということでいうと、ハイボール処理についてもまだ不安が残る。この試合では相手SHがコンテストキックを蹴ると予想される状況では、身長があり、フィジカルも強いナンバーエイト、リーチ・マイケルがキック処理に回っていたが、キャッチに正確性を欠いていたし、リーチの代わりにディフェンスラインに入るべき選手との連携ミスで穴が空いてしまう場面も散見された。修正にはまだまだ時間が必要だろう。

 個人的に最も目立った選手はHO江良颯。ルーズボールにいち早く反応して確保する場面が何度も見られたし、タックル回数も多かった。後半には115kgの巨漢、ロバートソンに強烈なタックルを見舞ってダメージを与え、退場に追い込んでしまった。フィールドプレー、スクラムは素晴らしいのだから、ラインアウトのスローの精度をもう少し上げて欲しい。

 ジャパンは11月2日には世界ランク1位の南アフリカと、11月8日には同3位のアイルランドと対戦する。オーストラリア代表との試合の惜敗がまぐれではないことを証明するような熱戦を期待したいし、その後に続くランキングが接近しているウエールズ、ジョージアにはぜひ勝っていただきたいものだ。

[文:江良与一]

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