<令和7年度秋季四国地区大会:英明2ー1明徳義塾>◇25日◇準決勝◇坊っちゃんスタジアム 準決勝2日前、高知県須崎市。ド…

<令和7年度秋季四国地区大会:英明2ー1明徳義塾>◇25日◇準決勝◇坊っちゃんスタジアム

 準決勝2日前、高知県須崎市。ドラフト会議を目前に控えた明徳野球道場では明徳義塾の選手たちが秋季四国大会準決勝を想定した練習に取り組んでいた。

 ピリッとした空気の中、起こり得るあらゆる場面を想定したノック、ケースバッティング。フリーバッティングでは英明の冨岡 琥希(2年)、吉川 輝(2年)両左腕を頭に描き、同時に2か所左腕手投げでのバント練習も行われた。そして馬淵 史郎監督は練習終盤にピッチングマシンを並べた前でこう告げる。

「すまんが藤森がドラフト指名された時の会見会場に行ってくれるか。これからメンバー全員でバント練習するから」。「特打ち」ならぬ「特バント」である。

 その翌日の坊っちゃんスタジアム。公式割り当て練習を終えた明徳義塾の前で響いていたのは香川 純平監督、柳生 健太部長をはじめとしる英明指導者たちの声。肝心の選手たちといえば、シートノックでもケースバッティングでも随所にミスを繰り返す。「いつも通りですねえ」。指揮官からも思わず苦笑いが漏れた。

 が、試合は水物。開始早々のアクシデントが準備段階では明徳義塾有利と思われた状況を一変させる。1回表、マウンドに立った明徳義塾の左腕・松下 泰誠(1年)。最速135キロのストレートは120キロ前後。明徳野球道場で魅せていた落差の大きいスライダーもない。何とか打者4人12球を投げ無失点に抑えたものの、異変は明らかであった。

 その理由は試合後、馬淵監督によって明かされる。「試合前のブルペンで左肩の前から『ブチっ』と音がして。そこから全然投げられないようになった。『次の投手の準備があるからなんとか初回だけ行ってくれ』と言って終わった後、松下に聞いたら『もうこれ以上投げられません』と。あれでチーム全体が浮足立ってしまったねえ‥…」

 だが、そこは四国から全国に名を轟かせている名門校。2回表から緊急登板した1年生左腕・藤本 優善は最速136キロのストレートとスライダー。120キロ前後のフォークを駆使し3回表こそ失策で先制点を与えたものの、その後は粘り強く0を並べることに。「松下よりストレートに重さがあるし、フォークもいいものを持っている」と後輩たちの応援に訪れていた北海道日本ハムファイターズ5位指名・藤森 海斗(3年)も認めるポテンシャルの一端を示した。

 また新チームでセンバツ以降、藤森に奪われていた正捕手の座に再び就いた里山 颯馬(2年)も常時1秒8台の全国トップクラスの肩をイニング間に誇示しつつ藤本のリードに奮闘。脚力不足の課題はまだ残すものの、NPB複数球団スカウトの前で精一杯のプレーは見せた。

 そんな明徳義塾を最終的に凌駕したのは英明の「普段着野球」である。指揮官が「神経質な部分がある」と表する最速141キロ左腕・冨岡 琥希(2年)は、雨が次第に激しくなる中「ロジンバッグなどで対策した」持ち前の細やかさを発揮しつつ、ピンチの場面にあっては冷静に明徳義塾の戦略を想定。4回裏一死満塁でのスクイズを封じるなど出力量を巧みに出し入れしながら1失点で8回までを投げ切った。

 そして9回表を迎える英明の円陣が解けた瞬間「俺まで回せ!」と叫んだのは3番・松本 一心(2年)。香川大会決勝戦で本塁打を放つなどチームナンバー1の長打力を誇る男は、願い通り回ってきた二死一、三塁の絶好機で「あえて厳しいコースを待って初球でいいスイングで左翼線にファールできたので、自信をも持ってスイングできた」と、打球は三塁ベースを強襲する勝ち越し内野安打となった。

 その裏は冨岡がこの日最速の138キロを出す気迫全開の投球で打者3人から2奪三振を奪い、145球3安打7奪三振7四死球(うち申告故意四球2)1失点完投勝利。香川監督が「全てを尊敬している」と話す馬淵監督率いる明徳義塾を破り、3年ぶり4度目のセンバツ出場へ大きく近づいた。

 試合後「ピンチにも動じず落ち着いてやってくれました」と選手たちを称えた香川監督。そこで思い出した。2023年のセンバツ。前年近畿大会4強で優勝候補の一角だった智弁和歌山を初戦で破ったのは香川 純平監督率いる英明だったことを……。