『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載vol.2(6)サントリーサンバーズ大阪 甲斐孝太郎 前編(連載5:SVリーグ初…

『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載vol.2(6)

サントリーサンバーズ大阪 甲斐孝太郎 前編

(連載5:SVリーグ初代王者のサントリーで、204cmのミドルブロッカー鬼木錬が抱いていた迷い>>)

【リリーフサーバーで出て勝った試合は「楽しい」】

 2024-25シーズン、SVリーグ初代王者に輝いたサントリーサンバーズ大阪で、オポジットの甲斐孝太郎(23歳)はリリーフサーバーとして存在感を放った。途中出場で、勝負の流れを引き寄せた。

「サンバーズは、選手ひとりひとりが役割をわかっているのが強みだと思います」


昨シーズンはリリーフサーバーとして活躍したサントリーの甲斐

 photo by Naoki Morita/AFLO SPORT

 甲斐は言う。多弁ではない。しかしひとつひとつの言葉を吟味し、正確に伝えようとする誠実さを感じる。役目にも従順なだけに、リリーフサーバーも任せられるのだろう。

「最初は、途中から出場する難しさがありました。リーグ序盤は自分のサーブが打てなくて。でも試合を重ねるごとに、リリーフサーバーでどうやったら試合に溶け込めるのかがわかってきました。ルーティンを工夫したら、メンタル面も変わって、後半は自分のサーブが打てるようになったんです」

 まずはコートに入る時、トスを上げるルーティンを作った。それで「今日の会場はこんな感じか」と空気を肌で感じられた。すると、自然と気持ちは落ち着き「あとは攻めるだけ」と切り替わったという。

 サーブひとつをとっても、甲斐のバレーボール人生が投影されている。

「小さい頃から、ずっと試合に出ていましたから......」

 甲斐は、リリーフサーバーで結果を出すまでには時間が必要だったことを明かしている。いきなり試合に入り、一本のサーブを決める。その仕事を託されることは、スタートからコートに入ることとは異質だ。

「自分的には『試合を決める』『流れを持ってくる』のが、すごく面白いと思いました。リリーフサーバーで出て勝った試合は『楽しい』と感じます」

 甲斐はそう言って、人のよさそうな笑顔を浮かべた。

【リリーフサーバーを極めたその先】

 小・中・高、大学とずっとスパイクを託されてきた選手なだけに、リリーフサーバーは難しさもあったはずだが、不満などおくびにも出さない。

 そこで意地悪く、質問した。

――同じオポジットのライバル、(ドミトリー・)ムセルスキー選手とのポジション争い、彼に嫉妬したりしなかったんですか?

 すると彼は、明るく笑って答えた。

「ムセルスキーは大きな存在で、なかなか勝てないとは思っています。そんななかで自分はチームにどう貢献するか。そこに気持ちは向いています」

 シーズンを通じ、その専心があったからこそ、リリーフサーバーとしてひとつの境地に辿り着けたのだろう。

「自分にとってのベストゲームは......シーズン最後のアジアチャンピオンズリーグ準決勝(アル・ラーヤン戦)ですかね。1セット目のセットポイントを自分のサーブで取ることができました。勝てば世界クラブ選手権に行ける試合で、積み上げたものを出せた。結局、試合は(フルセットの末に)負けましたけど、個人的に次のシーズンにつながる試合だったと思っています」

 甲斐は言葉に熱を込めた。その充実感を手がかりに、新シーズンに挑む。きっと彼はどの立場でも、それを繰り返してきたのだろう。鍛錬と上達が、彼のバレー人生を形成している。

「(チームメイトの髙橋)塁さんとは、お互いにリリーフサーバーだったんで、いろいろ話しましたね。試合を見ながら、『もうちょっと思いきり打ったほうがいいかも』『トスはこうしたほうがいいかも』って。リリーフサーバー独特の難しさは、ふたりともわかっているので」

 甲斐は少しずつサーブを練り上げてきた。左利き特有の振り下ろすサーブは、独特な回転がかかる。それは大きな武器だ。

「去年までオポジットは3人でしたが、今年は2人になったので、ひとりが欠けると穴を埋めないといけない。だから、まず自分に求められているのはケガをしないこと。あとは、サーブの効果率を上げていきたいです」

 甲斐は訥々(とつとつ)と言うが、リリーフサーバーとして信頼を揺るぎないものにしたあと、その世界は広がるはずだ。

【強力なチームメイトとの練習で成長】

「でも、今の自分は『日本代表に入ってオリンピックに出場する』とかはあまり考えていなくて。まずはサンバーズで優勝できたらと思っています。

 イゴール(・クリュカ)、小野寺(大志)選手、ディマさん(ムセルスキーの愛称)とブロックが3枚揃うと、抜くところがない。練習の6対6で、それをどう攻略するかを経験できているのは大きいです。ぜいたくにバレーをやらせてもらっています」

甲斐は控え目に言う。実に彼らしい。しかし何かに到達したアスリートは、欲も強くなる。それが"燃料"にもなるのだ。

「そこは、頑張り次第かなと思います」

 彼は、はにかみながら"欲"を否定しなかった。一本のサーブの先に、さらに広がる風景があるはずだ。

(後編:甲斐孝太郎は弟・優斗との関係を、宮ツインズと重ねる 『ハイキュー‼』ベストメンバーの7人も選んだ>>)

【プロフィール】

甲斐孝太郎(かい・こうたろう)

所属:サントリーサンバーズ大阪

2001年11月5日生まれ、 宮崎県出身。 188cm・オポジット。日本代表で専修大3年の優斗は弟。両親の影響で小学2年からバレーボールを始める。日南振徳高校を卒業後、専修大に進学。2023年にユニバーシアード日本代表に選出され、2024年2月、サントリーサンバーズ大阪の内定選手としてVリーグデビュー。2024-25シーズンはリリーフサーバーとして大きな存在感を放った。