いよいよ、これが角田裕毅の命運を決する週末となるのか。 レッドブルが10月末で来季のドライバーラインナップを決する予定…

 いよいよ、これが角田裕毅の命運を決する週末となるのか。

 レッドブルが10月末で来季のドライバーラインナップを決する予定だと明言するなか、10月最後のレースであるメキシコシティGPを迎えた。

「今週もポイント争いができればと思っています。オースティンはとてもポジティブな週末でしたし、スプリントと決勝ではこのマシンでやれることを証明できたと思います。ロングランは自信が持てましたし、そのおかげで安定した週末になったと思います」

 1週間前のアメリカGPで、スプリントと決勝でともに7位入賞を果たした角田の表情には、今までになく自信がうかがえた。


角田裕毅はホンダ初優勝の地・メキシコシティでどんな走りを見せるのか

 photo by BOOZY

 アメリカGPではアグレッシブなスタートを決めてポジションを上げ、ここ数戦で改善したレースペースも引き続き証明してみせた。それが、このメキシコシティでも再現できない理由はない。

 課題は予選だ。

 タイヤがソフトになればなるほど、そのグリップをフルに引き出すことが難しく、苦戦している。タイヤへの熱入れと温度管理、前後バランス、アタックラップ1周のなかでの使い方のバランスなど、さまざまな要素が考えられる。角田とエンジニアたちも試行錯誤しているものの、まだ明確な答えは見つけ出せておらず、今週末もその試行錯誤は続く。

「あとはショートランの改善が重要で、予選でもっと上位に行けるよう、改善に集中しています。エンジニアが今、その分析をしてくれていて、僕も少しずついろんなことを試した部分はあったんですけど、今回もエンジニアが考える『こういうことじゃないか』というのをインプットして、考えながらトライしていきたいなと思っています」

 オースティンで角田車にも投入されるはずだった最新型のフロントウイングが今週末に間に合うかどうかは、まだわからない。いずれにしても。それが本当に0.6〜0.7秒もの差を生み出すアイテムなのだとしたら、チームは何を犠牲にしてでも製造して投入しているはずだ。

 角田が0.6〜0.7秒速くなれば、マックス・フェルスタッペンとのタイム差は0.2秒程度になり、マクラーレン勢と戦えるようになる。そうすれば、フェルスタッペンのタイトル争いをサポートすることができるうえに、コンストラクターズ2位はほぼ確実になるのだから。

【空気が平地より2割も薄い】

 ただ、彼らがそうしていないのは、現状のフェルスタッペンと角田のタイム差はマシンスペックだけでなく、ドライバーの差、そして前述のようなタイヤをいかにうまく使いこなせるかといったところにも差があるということだ。

 角田自身も、マシン差があることには複雑な気持ちを持ちつつも、与えられたマシンで最大限のパフォーマンスを引き出すために努力を続けている。自分にもまだまだ足りない部分があるということを、きちんと理解しているからだ。

「僕がもっと上位で戦えるようになればなるほど、戦略面でチームのためにやれることの幅も広がりますし、マックスが優勝する手助けや、タイトル争いでライバルを苦しめることができればと思います。それが自分に課された役割だと理解していますし、実際に僕はタイトル争いをしているわけではないですから、そうするのは当然だと思います」

 富士山の5合目に匹敵する標高2200メートルの高地に位置するメキシコシティでは、空気が平地より2割も薄く、ダウンフォースは超高速のモンツァレベルしか出ない。そのままなら2割もパワーダウンしてしまうパワーユニット(PU)は、ターボをいつも以上に回してパワーロスを最小限に留めることになり、それに合わせたセッティングが必要となる。

 ホンダの折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーはこう語る。

「ターボの回転数を上げても、今までどおりのブースト(過給圧)を出せなくなりますので、そうすると必然的に空燃比を変えざるを得ない。その時に想定どおりの燃焼が得られるかどうか、それが変わったことによってドライバビリティに影響が出てこないか、確認が重要になってきます」

 空気が薄い分だけ、冷却も厳しくなる。

「PUとしては一番温度が高くなるサーキットなので、持って来ている特別仕様の冷却パッケージで想定どおりに冷却できるかどうかが、最初の確認項目になります。それで問題なく走れるとなると、次はどこまで閉じてラップタイムを稼ぐ方向にいけるか、というせめぎ合いになっていきます」

【ホンダのF1初優勝から60年】

 航空機エンジンのノウハウを生かしたセッティングがピタリとハマってホンダが初勝利を収めたのが、まさに60年前のこの場所──1965年のメキシコGPだ。

 F1挑戦2年目の快挙から60年の時を経て、初勝利を挙げたマシンRA272が今週末、このメキシコシティを走る。ステアリングを握るのは、角田裕毅だ。

「去年のグッドウッド(イギリスのモータースポーツイベント)でドライブしましたけど、音がすさまじかったですし、今とは全然違うクルマでした。すべてがダイレクトで、挙動の変化を感じられて、乗っていて楽しいマシンでした。ホンダドライバーとしてそのマシンを初優勝の地でドライブできるのは、すごく光栄なことだと思います」

 朝9時25分スタートという早い時間帯のデモ走行だが、「早起きした甲斐があったなと思えるようなマシンだと思うので、楽しみです」と角田は笑う。

「なんちゃってヒールアンドトゥはできますけど、変なことをして壊すのが恐いので、一つひとつ慎重にギアを落としながら走りたいと思います(笑)」

 今までは決して相性のよくなかったメキシコシティだが、それはあくまで決勝の流れのなかで噛み合わなかっただけだ。

 今年はレッドブルに移籍し、レースペースも磨き、アグレッシブさと守りのバランスも着実によくなってきた。

 RA272のドライブを前に、角田は言う。

「今は精一杯、結果を出すことしか考えてないですね。あとになって振り返った時に『レッドブルとホンダの最後のシーズンにいい走りができた』と言えるようにするために、今は集中しています。

 あと数戦で最後になるのはまだ実感がないですけど、ホンダさんの存在なくして今の僕はなかったわけですし、その感謝とともに今回設けてくださったこういうすばらしい機会にドライブしたいと思っています。自分は自分で最大限のパフォーマンスを出していけるようにしていきたいと思っています」

 歴史的快挙から60年の時を経て、角田裕毅がRA272とRB21でどんな走りを見せてくれるのか、楽しみにしたい。