蹴球放浪家・後藤健生は「食の世界」も放浪する。世界三大料理のひとつ「中華料理」のフィールドを放浪し、その奥深さに気づか…
蹴球放浪家・後藤健生は「食の世界」も放浪する。世界三大料理のひとつ「中華料理」のフィールドを放浪し、その奥深さに気づかされたのは、サッカー欧州選手権が開催されたイングランドでのことだった!
■「中国語」は存在しない?
中国語という言語にしても、標準語(普通話)は北京語をもとにしていますが、その他、各地に別個の言語が存在し、それぞれ発音も単語も異なっており、文字を書かないと通じ合わないのです。台湾の地下鉄の車内アナウンスでは駅名を普通話のほか、広東語、福建語、客家語でアナウンスしています。
それぞれは、たとえば英語とドイツ語、ルーマニア語とイタリア語ほど違っているのです。
だから「中華料理」というものも実際にはないのです。あるのは、広東料理、福建料理、上海料理、北京料理などなど各地の独特の料理。そして、全体を便宜的に「中華料理」と呼んでいるだけなのです。
フランス料理とイタリア料理、スペイン料理、ドイツ料理にハンガリー料理、ロシア料理などはまったく違う料理なのですが、それをまとめて「ヨーロッパ料理」と呼んでいるのと同じなわけです。
イタリア料理店に行って、「ボルシチ」を注文しても、絶対に断られることでしょう。
■中国では黄酒より「白酒」
日本では江戸時代末期から明治時代にかけて、多くの中国人がやってきて各地の料理をそれぞれ作って同郷の人を相手に商売をしていましたが、日本人の中でもハイカラ好きが中華に挑戦するようになり、日本人客が多くなると、食材も味つけも次第に日本人向けにアレンジされて日本式中華料理が完成。「青椒肉絲」も日本の中華の中でポピュラーになっていったというわけです。
だから、たまたまマンチェスターで入ったその店には「チンジャオロースー」も「青椒肉絲」も存在しなかったというわけです。
日本式の「〇〇料理」の常識を、現地の(あるいは他国の)「〇〇料理」の店に持ち込んではいけないということです。
日本の中華料理店にはたいてい中国酒として紹興酒が置いてあります。中国浙江省の紹興市で作られる、もち米を原料とした醸造酒で、アルコールは十数パーセントですから日本酒と同じくらいです。
ただ、中国のどこに行っても紹興酒が置いてあるわけではないのです。
紹興酒と同じように、米から作って茶色い色をした醸造酒全般のことを「黄酒」と言いますが、紹興酒は最も有名な黄酒なのであって、店によっては(地方によっては)紹興以外で作られた黄酒が置いてあるかもしれません。
また、中国では食糧難のため、米を原料にした黄酒よりも雑穀を原料にした蒸留酒である「白酒」のほうが奨励された時代もあったそうで、今でも強い「白酒」を飲む人のほうが多いようです。「白酒」は数十度の度数ですから、飲み過ぎないようにご注意ください。
■鰻屋で「フグ」を注文しても
日本の「インド料理」の常識となっているのが「ナン」です。
小麦粉などを発酵させてから、タンドゥールという窯の内側に貼りつけて焼いたパンのことで、日本では、ほとんどのインド料理店にナンが置いてあって、ライスかナンを選択するようになっています。
しかし、インドではナンを提供するのは北インド料理の高級店くらいで、鉄板を使って焼けるチャパティのほうが一般的です。
日本でナンが普及したのは、日本で唯一タンドゥールを製造している東京の会社の人が、すべてのインド料理店に積極的に営業をしかけた結果だそうです。
だから、あなたがインドに行って、レストランに入って「ナン」を注文しても、けげんな顔をされるだけでしょう。
考えてみれば、当たり前のことです。
すべての「日本料理店」で寿司と天ぷらが食べられるわけではありませんし、鰻屋に入ってフグを注文しても断られるに決まっています。
韓国では、同じ焼肉系でも豚か牛かといったように、それぞれ専門の店があるのですが、あるとき、テジカルビ(豚カルビ)専門店に入ったある日本人サッカー・ジャーナリストが「牛肉の焼肉を食べたい!」とダダをこねたため、親切な店主がわざわざ他の店まで牛肉を買いに行ってくれたという噂を聞いたことがあるのですが……。本当なんでしょうかね?