今年のドラフト候補の中で、奇跡的とも言える復活を果たし、スカウトから称賛されているのが健大高崎の佐藤 龍月投手だ。 24…
今年のドラフト候補の中で、奇跡的とも言える復活を果たし、スカウトから称賛されているのが健大高崎の佐藤 龍月投手だ。
24年センバツで2年生ながら優勝投手に輝き、この世代をリードする左腕として見られていた佐藤だが、昨夏の群馬大会の期間中に肘を痛め、大会後にトミー・ジョン手術を決断した。それからわずか1年で、公式戦のマウンドに復帰し、最速も1キロも伸ばし、147キロ左腕となった。
手術前の佐藤はスライダー主体の投手だったが、復帰後は威力ある常時140キロ台の速球で押すパワーピッチャーへ進化していた。佐藤はリハビリの段階から高卒プロの思いをずっと語っていたが、この夏の佐藤はまだ復帰過程で、1試合30球程度の球数制限があった。こうした制約のなかでアピールするのはかなり難しい。どんな思いでプロを目指してきたのか。
前が見えない中でも1日ずつ前進し、驚異の回復力で公式戦のマウンドへ
「1年前は今の状況は全く想像できませんでした。高校野球に復帰できるとは思いませんでしたし、プロは程遠いステージだと思いました」
佐藤は1年前の状況を振り返る。トミー・ジョン手術から実戦復帰は通常、1年以上かかる。気持ちを切らさずにリハビリに取り組めたのはエース・石垣元気の言葉があった。
「『また一緒に投げたいと思っているよ』と伝えてくれて、その時点でもう1回頑張ろうと思いました。それから1日1日ずつ小さいことでも目標を立てていきながら前進することができました」
強い信念でリハビリを重ねた佐藤は、担当医師も驚くほどの回復力で、センバツ前にはキャッチボールも再開。春の県大会には、外野として復帰するまでとなった。佐藤は、関東大会の際の取材で「肘の状態を見ながら、週に一、二度ブルペンに入り、変化球の割合を少なめにしながら、直球中心の練習を行っている」と語った。
そして6月中旬に練習試合で実戦復帰。7月3日の浦和学院との練習試合では最速147キロをマークした。
ここまでスピードが伸びたのはフォームを変えたことにある。これまでの佐藤はインステップ気味で投げていた。さらにスライダー主体で肘に負担もかかっていた。そこで、佐藤はインステップせず、なるべく踏み出す右足を真っすぐ踏み出すようになった。
「ずっとインステップしてスライダーを多投していたということで、肘に負担をかけて手術することになったので、投球フォーム、球数、球種を見直しました。投げ方の部分、力の伝え方も一から見直していって、それを修正した結果、良くなったと思います」
ただ、1試合につき30球程度という制限の中でスカウトにアピールするために、佐藤は投球内容の質にこだわった。全力で投げ、平均球速、コントロール、変化球の精度にこだわった。
実際に夏の群馬大会では、常時140キロ台中盤の速球、復帰後にメインの変化球となった130キロ台中盤のカットボールで打者を翻弄。2試合を投げ、3回3奪三振、無失点の投球だった。かわしにいくのではなく、自慢の直球、カットボールで打者をねじ伏せるポイントの高い投球だった。佐藤は「変化球の制球力で成長した姿を見せることができましたし、手術してから石垣(元気)と継投リレーできるのは想像できませんでした。それもできて嬉しかったです」と笑顔を見せた。

目指すは平均球速148キロ・最速155キロ
しかし夏の甲子園の京都国際戦では4回途中から登板したが、2.1回を投げ、2失点。最速142キロと、本来の投球ではなかった。佐藤は調整のやり方に失敗してしまったと悔やむ。
「群馬大会で調子を上げてきていたので、150キロを出そうと思ってしまった。そこでフォームのバランスを崩してしまい、悔しい限りです」
それでも甲子園のマウンドの声援の大きさには、後から気づいた。
「あのときは劣勢でのリリーフということもあって、打者を抑えることしか考えていませんでした。現場ではあまり声援に気づくことができなかったのですが、動画で見返した時にあらためてその声援の大きさに気づく事ができて嬉しかったですね」
夏の大会が終わるとしばらく体を休め、トレーニングを再開した。
プロ志望届を提出すると、NPB10球団から調査書が届いた。各球団のスカウトから「復帰するまで長い道のりで、高い目標を持って、夏の大会に戻ってこれたことを一番評価させてもらった」と労いの言葉をもらったという。トミー・ジョン手術して、手術前以上のパフォーマンスができるとは限らない。こうした言葉をもらって佐藤は「1年で復帰すること自体、奇跡的なこと。自分の努力もあってのことだと思います。前より成長した姿を短いイニングながらアピールできたと思います」と語った。
今はプロを見据えてトレーニングをしている。プロ野球中継も自分と比較しながら見ることが増えた。改めてプロの左腕のレベルの高さを実感している。
「左投手は右投手より球速が出にくいといわれていますが、それでもプロの左腕の投手の方は、常時140キロ台後半〜150キロ前後の速球を投げています。それで狭いゾーンにもしっかりと投げられる制球力、ストレートの強さがある。平均球速148キロは出せるようにしたい。高校時代はどの球種も自信を持って投げることができましたけど、プロのレベルを考えたら、コントロールが課題なので、そこもつめていきたい」
さらにチェンジアップに磨きをかけたいと考えている。
「プロで活躍する左投手を見ると、共通してチェンジアップが良いなと思っています。チェンジアップを磨いて、いずれは最速155キロ、平均球速148キロ。それでも変化球をうまく組み立てて、総合力で抑える投手になりたいです」
間近に迫ったドラフトについては「前までは不安な気持ちでしたけど、やれることはやりましたし、今は楽しく、自信を持って当日を迎えられるという気持ちです」と思いを語った。
プロ入りがかなった時の目標を語った。
「まずは体作りで、長いイニングを投げられるようにしていきたい。そして2年目から一軍で投げられるようにしたい。いずれは球界を代表する左腕になりたい」
怪我があっても自分を見失わず、リハビリを行い、技術を追求してきた佐藤の精神力の強さはプロの世界で大きな武器となるだろう。
再び世代をリードする左腕にふさわしい活躍が見たい。