蹴球放浪家・後藤健生は「食の世界」も放浪する。世界三大料理のひとつ「中華料理」のフィールドを放浪し、その奥深さに気づか…
蹴球放浪家・後藤健生は「食の世界」も放浪する。世界三大料理のひとつ「中華料理」のフィールドを放浪し、その奥深さに気づかされたのは、サッカー欧州選手権が開催されたイングランドでのことだった!
■イングランドでの「悲劇」
1996年にEURO(ヨーロッパ選手権)がイングランドで開催されたとき、僕はマンチェスターの中央駅であるピカデリー駅前の安ホテルにずっと泊まっていました。目の前の駅から列車に乗れば、他都市の会場まで簡単に行くことができました。
そのホテルには、なかなかに美味しいインド料理店が入っていて、ほとんど食事はそこで摂っていました。
しかし、あるとき、たまたま知り合った日本人2人組とチャイナタウンのレストラン(もちろん「中華料理」)に行ったことがあります。席に着いたと思ったら、そのうちの1人がメニューも見ずに「チンジャオロースー」と注文したのです。
もちろん、カタカナで「チンジャオロースー」と発音したって中国語として通じるはずはありません。彼はおもむろにメモ用紙とボールペンを取り出して、墨痕(ぼっこん)鮮やかに「青椒肉絲」としたためたのです。
これで、通じないわけはないというわけです。
しかし、彼の試みは徒労に終わりました。その店に「青椒肉絲」はなかったのです。
■アメリカでも「人気」なのに
その日本人は信じられないような顔をしました。「中華料理店にチンジャオロースーがないとは!」というわけです。
日本の中華料理店では「チンジャオロースー」はラーメン(拉麺)、ギョーザ(餃子)、シュウマイ(焼売)と並んで非常にポピュラーなメニューです。いや、日本だけではありません。アメリカやヨーロッパの現地人向け中華料理店でも「チンジャオロースー」は人気メニューの一つです。
「ラーメン」や「ギョーザ」はもう完全に日本語(外来語)化してしまっていますが、「チンジャオロースー」というのは、どこかまだ中国語っぽい語感を残しています。
どうでもいい話ですが、日本人は江戸時代から中国語の発音を真似するのが大好きで、現代におけるタモリのハナモゲラ語のようにして遊んでいましたし、中国語の歌を元にした「かんかんのう」という不思議な、意味もよく分からない歌が江戸時代末期から明治時代にかけて数十年にもわたって大流行したこともあります。
マンチェスターの中華料理店でその日本人が得意げに「チンジャオロースー」を注文したのも、中国人相手に中国語っぽい名前の料理を注文したかったのでしょう。
■千差万別の「多民族国家」
しかし、中華料理店なら、どの店でもメニューが同じというわけはありません。
「中華(=中国)」というのは非常に広い領域を支配する多民族国家です。最大多数の漢民族でも地方によって千差万別です。
日本では幕末期に「尊王攘夷」という言葉が流行りましたが、本来は中国の春秋戦国時代の言葉です。西暦紀元前4世紀とか5世紀の話ですね。
この場合、「王」というのは形式的に存在しているものの、すでに実権は失ってしまった「周」王のこと。「夷」は長江の南の民族のことだったのです。つまり、長江より南に住んでいる人たちは「夷」、つまり野蛮人扱いされており、その後、長い年月をかけて漢民族の一員と認められたわけです。