エース級、中間層含めて選手層の厚みを増す早大(写真は紋別合宿) photo by Wada Satoshi後編:花田勝彦…

エース級、中間層含めて選手層の厚みを増す早大(写真は紋別合宿) photo by Wada Satoshi
後編:花田勝彦・早稲田大学駅伝監督インタビュー
核となる選手がそろう早稲田大学は、学生三大駅伝(出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝)で15年ぶりの頂点を見据える。この夏は7月下旬の菅平(長野)に始まり、尾瀬(群馬)、妙高(新潟)、紋別(北海道)、そして9月中旬に再び菅平で合宿を行ない、鍛錬を重ねてきた。夏の手応え、そして、駅伝シーズンへの展望を花田勝彦駅伝監督に聞いた。
前編〉〉〉花田勝彦駅伝監督が出雲駅伝前に分析する現在地
【夏合宿の手応えとMVPは?】
――この夏の合宿の成果についてうかがいます。夏合宿は想定どおりにできたのでしょうか。
「中間層はかなり練習を積むことができました。一方で、山口智規(4年)や佐々木哲(1年)といった選手は、前半戦に試合が多かったこともあって、疲労もあり、あまり無理はさせませんでした。それを踏まえると、チーム全体として見れば7〜8割ぐらいの出来だったのかなと思います。去年ほどはできていなかったですけど、去年がひょっとしたらでき過ぎだったかもしれないので、去年の成果を追うことなく、少し余裕を持ってやるようにしていました。
それでも、The Road of WASEDA(ロード5km/9月28日)では、全体的に去年よりもよかったので、出雲、全日本に向けては順調に来ていると思います。あとは、今のチームの力を最大限に発揮するために、(駅伝では)どういうメンバーを組んでいくかが大事になってきます」
――底上げという観点では、多くの下級生も選抜合宿に参加していました。
「来年、再来年を考えて選手層を厚くしていかなければいけないので、今年の合宿は、あえて大きくは分けませんでした。たとえば、2年の大和田春、1年の冨田拓臣や多田真といった選手は、実力的にはきつかったですけど、A チームで練習を積みました。経験を重ねていきながら、スタミナとスピードと両方つけてくれればと思っています」
――この夏のMVPをあげるとしたら、どの選手になりますか。
「えーー、どうでしょう......?(少し悩んだ末に)トータルでバランスよくできていたのは、宮岡凜太(4年)や工藤慎作(3年)ですね。工藤はマラソンを予定しているのもありますが、このふたりはすごくいい練習ができていました。よく走るなと感心したぐらいです。
ほかの選手たちも、フリーの日でも走りに行くことが多かった。練習量としてはたぶん(月間)800kmいくかいかないかぐらいだと思いますけど、やらされる練習ではなくて、自ら距離を踏んでいる練習なので、中身がある練習になったと思っています。私が早稲田に来た1年目は、フリーの日は走らない選手もいたんですけど、選手たちの意識は明らかに変わってきています。
去年はある程度メンバーが固定されていましたが、チーム内でのメンバー争いが出てきました。今年は、出雲と全日本では、主力選手でもメンバーに入れない可能性もあります。私としても、選手を選ぶのがなかなか難しくなりそうです」
【「早稲田は早稲田のやり方で結果を出します」】
――失礼を承知でお聞きします。他大学には月間1000km以上走っている選手が何人もいるチームもあり、そういった他大学と比べると量は少ないように思います。その点はどのようにお考えでしょうか。
「それだけの練習量ができて、ケガなく万全な状態でスタートラインに立てたらやっぱり強いと思うので、(月間1000km走れれば)理想とは思いますけど......。一方で、マラソンをやるわけではないですし、先を考えた上では無理して量を走らなくてもいいのかなと思います。早稲田の場合、一般組の選手は高校時代にそんなに練習をやっていないことも多いので、少しずつ積み上げていかないと、ケガやバーンアウトにつながってしまいます。私自身、高校時代は月間250〜300kmも走っていなくて、長い距離に慣れるのに3年はかかりました。
竣平(山口、2年)のように1年目からガンガン走れる選手ももちろんいますが、佐々木(哲)や鈴木(琉胤)にも『無理はしなくていいよ』と言っています。10人いれば10通りの方法があっていい。他大学ももちろん気になりますけど、同じことをやって早稲田が勝てるかと言ったら、そうとも言いきれません。だから、他大学と同じことをやらなくてもいいと思っています。選手層も他大学ほど厚いわけではないですし、早稲田は早稲田のやり方で結果を出します」
――ルーキーの鈴木選手と佐々木選手は、どうしても即戦力という見方をしてしまいます。
「彼らはスピードがあるので、最初の1、2年はそのスピードを活かした上で、うまくバランスを取りながら、箱根駅伝に向かっていってほしいと思っています。実際に智規や間瀬田も、ガンガン練習量をこなしてきたわけではなく、そういう形でやってきて箱根もちゃんと走っていますから。早稲田にはそういうお手本があります。4年間で着実にレベルアップして、卒業後に世界陸上やオリンピックの日本代表になるような選手を輩出するのも早稲田の使命だと思っています」
――山口智規選手に関して、無理をさせなかったとおっしゃっていましたが、本人も「去年ほどはできなかったが、一昨年と同程度はできた」と話していました。
「でも、要所要所は押さえているので、不安のない状態でスタートラインに立てば、走れると思っています。実力がついていますし、スピードもありますから。
私が大学4年の時と似ているんですよね。当時の私も、前半戦は海外遠征や試合が続いて結果を出せたぶん、夏場は調子を崩し、ケガもあって、練習があまりできませんでした。それでも全日本では区間賞を獲りましたし、箱根も、最後の練習がうまくいかず不安がある状態でも2区で区間3位では走りました。
智規の場合も、みんなと同じ練習量をやらなきゃいけないというのではなく、本人が自信を持ってスタートラインに立てるような状況を作ってあげることが大事だと思っています」
【「選手層は厚いし、力のある選手も多くいます。ただ......」】
――(9月末の時点で)山口選手の状態は、絶好調時と比べて何割ぐらいでしょうか。
「今は7割ぐらいじゃないですかね。出雲は8割ぐらいでいいと思っています。出雲は距離が短いですし、無理をしてケガをしないことが大事。足慣らし的な感じで出られればいいかなと思っています」
――同じく、無理をさせなかったという佐々木選手に関してはいかがでしょうか。
「トラックシーズンは障害レースにばかり出場していたので、そのメンテナンスもあって合宿は控えめにやっていました。ですが、ここに来てポイント練習をこなすごとに調子を上げてきています。
ただ、ほかの選手たちも調子が上がってきています。やっぱり力のある選手ですから、7〜8割でも使いたいところですが、9〜10割の状態の選手を使うという選択肢もある。現状で9人ぐらいは、誰が走ってもいけるような状況です」
――核となる選手が揃っていて、彼らに"頼る"のではなく、彼らを"生かす"チームになってきているということでしょうか。
「そうですね。去年よりも選手層は厚いし、力のある選手も多くいます。ただ、今年度の目標である箱根駅伝の優勝を成し遂げるには、ひとりでも欠けたら勝てません。核となる選手に頼るというのではなく、全員が万全な状態で臨まないと戦えないと思っています」
――8月の時点では「上の選手は去年よりも確実に強いが、トータルではとんとん」という表現をされていました。そこからは一歩前進したように感じます。
「はい。去年よりもトータルで見ても上がってきた感じはしています。9番目、10番目の底上げができてきたので。とはいえ、箱根のメンバー候補が、今16人いるかといったらまだ16人はいないので。やっぱりまだまだ選手層は薄いと思っています」
――先ほど「どういうメンバーを組んでいくか......」とおっしゃっていました。出雲駅伝の区間構想やレースプランは固まっているのでしょうか。
「出雲は気象条件に左右されるレースです。特に後半が追い風か向かい風かで変わってきます。こういうメンバーでいきたいという構想はありますが、当日の気象を考慮したうえで、オーダーを組み替えたいと思っています。
工藤は力がありますし、智規もどこでも走れる。力のある選手たちを主要区間に使うのか、それとも風を考慮し後半のつなぎ区間に使うのか、いろんなバリエーションがあります。ずっと先頭争いにいなければダメだと思うので、どうやったら優勝に近づけるのか、考えているところです」
――初戦の出雲から優勝を視野に入れている。
「そうですね。もちろん箱根が一番大きなターゲットになりますけど、そこに向けて勢いをつけるという意味でも、悪くても3位以内、できれば優勝争いに絡んで先頭を走りたいです。
去年からずっと言っていますが、やっぱり先頭を走る経験をしないと、なかなか優勝には届かないのかなと感じています。そういう意味で、出雲も全日本もどこかで先頭に立って、逃げる展開っていうのをやってみたいと思っています」