10位で予選会を突破した立教大の選手たちは抱き合って喜んだ photo by Nikkan Sports/Aflo【エー…

10位で予選会を突破した立教大の選手たちは抱き合って喜んだ
photo by Nikkan Sports/Aflo
【エースが直前に左股関節を痛めて欠場】
「いや~、よくない貴重な経験をさせていただきました」
立教大の髙林祐介監督は、苦笑いをして、そう言った。
第102回箱根駅伝の予選会(10月18日)、前回トップ通過の立教大は、最後の10番目にコールされた。11位の法政大との差は、わずか17秒。選手たちは泣き崩れ、最後の一枠にもぐりこんだ幸運を噛みしめた。エースの馬場賢人(4年)は、目を真っ赤にして「ホッとしたのと、ありがたい気持ちと、みんなに申し訳ない気持ちで、本当にいっぱいで......」と声を震わせた。
レース前、立教大は大きく揺れていた。出走メンバーから馬場が外れたのだ。馬場は前回の箱根2区で区間7位と好走し、2月の日本学生ハーフマラソンで1時間00分26秒の自己ベストをマークして2位。7月のワールドユニバーシティゲームズのハーフマラソンでも4位入賞するなどの実績を持ち、今回もタイムを稼ぐ重要な役割を担うはずだった。
ところが、予選会の1週間前に左股関節を痛め、急遽、出場を取りやめた。チームにとっては大打撃だ。だが、"馬場不在"を全員でフォローしようと、國安広人(4年)キャプテンを中心にチームが結束した。
立教大は、集団走というスタイルを取らない。選手それぞれの設定タイムを決め、それを目安に走る。終始、日本人の先頭集団でいい位置を確保して走っていたのが、原田颯大(3年)だった。
「夏合宿から調子が上がってきたので、自信を持って臨めました。監督からは、『馬場に頼ったらダメだよ。ちゃんと自分が変わるきっかけをつくろう。チャレンジしよう』と言われました。(レース後半の昭和)記念公園内でペースが上がることが予想できたので、そこで行くかどうか迷ったんですけど、チャレンジした結果がチーム内1位(全体20位)を取れて、予選突破につながったと思うので、そこの判断はよかったと思います。今回、自分自身をブレイクスルーするきっかけをつかめたと思います」
原田は、表情を崩して、そう言った。
【学生は気持ちひとつで変われる】
國安は「原田、野口(颯汰)ら3年生と、山下(翔吾・2年)ががんばってくれました。みんな、夏合宿ぐらいからかなり力をつけてくれたので、今回の予選会通過は彼らの成長があったからこそだと思います」と、2、3年生の健闘に笑顔を見せた。
原田は全体20位、野口は67位、山下は90位と、いずれも100番以内に入った。國安は33位、小倉史也(4年)は44位、吉屋佑晟(4年)は55位と、4年生もしっかりと結果を出した。夏前のトラックシーズンは、馬場以外に目立つ選手がいなかったが、國安や原田をはじめ、夏合宿が大きなきっかけになり、選手はまとまり始めた。
髙林監督は言う。
「夏前とかは、目標への解像度が明確じゃなかったんです。箱根でシードを獲りたいけど、なんとなくがんばっていれば近づくみたいに考えていた。生活面や練習への取り組みなど、他大学が当たり前にやっていることを聞いた時、明らかに自分たちとはギャップがあったので、そこの解像度を高めていこうと、夏に仕切り直しをしたんです。そこからしっかりトレーニングを積めて、チームがひとつになってきましたし、今、持っている力をだいぶ出せるようになってきました。
でも、ベースというか、地力をもっと上げていかないといけない。成長はしているけど、今の成長曲線だと、目標とするところはまだ先にある。そこを今後、どう上げていくか。今回の結果とどうつなげていくのかが大事だと思っています」
自分たちも成長しているが、他大学の選手たちも成長している。上位校の選手と同じ成長曲線では、いつまで経っても追いつけないし、戦えない。
「成長の速度をより加速させるには、成長曲線をブレイクスルーさせるきっかけが必要なんです。今回の予選会もそうでし、(11月の)全日本大学駅伝がそういう場になります。実際、学生は気持ちひとつで変われるんですよ。
今回走った野口は2年生の時は、70分かかっていたんです。でも、『俺、何やってんだろう。意識を変えてチャレンジしてみよう』と努力したんです。そうしたら、今回は1時間03分22秒で走った。それだけ人って変れるんです。そう思えるきっかけの場を与えていきたいと思っています」
原田は、この予選会がそのきっかけになったと語っていたが、他の選手たちにもチャレンジする姿勢が見えた。馬場が欠場したことで、「自分がやるしかない」と覚悟を決めて走った結果が10位滑り込みにつながった。
【馬場に頼るのではなく、全員がエースに】
髙林監督は、あらためて予選会をこう振り返った。
「出足は悪くなかったです。10㎞地点ではトップでしたし、15㎞でも4位でした。17.4㎞で8位に落ちたので、これだとたぶん10番か11番かなと。発表が9番目に来ても名前が呼ばれないのはしょうがないと思っていましたが、最後の10番目の発表の瞬間、少しタメるじゃないですか(苦笑)。まぁ、なんとか首の皮一枚でつながって箱根に行けるので、このチャンスをしっかり生かしていきたいですね」
生き残ったのはいいが、もちろん、課題はある。國安キャプテンは、これから続く全日本大学駅伝、箱根駅伝でのシード権獲得を目標に掲げているものの、まだチーム力が足りないと感じている。
「予選会では、最後の1秒まで粘って走ることができたので、この走りを駅伝にも生かして、シード権を取っていきたいと思っています。ただ、今回は10番でしたし、馬場頼みのチームになっていると感じるので、そこは今回のように、馬場に頼るのではなく、全員がエースだという自覚を持ち、これからがんばっていかないといけない。シード権獲得は、そんなに甘くないので」
昨年の全日本で、立教大は馬場の7区4位の好走からアンカーの安藤圭佑(当時4年)につなぎ、7位に入ってシードを獲得した。箱根もその勢いで往路は8位と健闘したが、復路12位で総合13位となり、シード権に届かなかった。さらに國安自身は前回の箱根を走れなかった悔しさも抱えている。今回は是が非でもシードを獲るという強い気持ちでいる。
馬場は、昨年に出た課題に取り組む必要があると言う。
「前回の箱根は、単独走で離されたところがありましたし、レースの駆け引きというところでも他大学より一歩遅れていた感があったので、そこはしっかり強化していかないといけないと思います。予選会では貢献できなかったので、箱根では自分がひとつでも前に襷を持っていけるようにがんばります」
髙林監督は、昨年のトップ通過から今回10番での通過について、こう語った。
「前回はトップ通過で、私は下駄を履かせられたと思っていました(苦笑)。選手もいける、いけるみたいになっていましたが、今回は10番。これが今の自分たちの力と受け止めていると思います。選手は危機感を覚えているでしょうし、『もっとやらないと』という機運が高まってきそうな感じがします。順位はよくないけど、ラクに通過させてもらうよりは、次につながる10番だったと思います」
予選会最下位通過。だが、失うものはない。果たして、箱根本番での立教大は、どこまで巻き返せるだろうか。