10月23日のドラフトまであとわずかとなった。 全国的には無名ながら、多数の球団が評価する高校生右腕がいる。水戸啓明の中…
10月23日のドラフトまであとわずかとなった。
全国的には無名ながら、多数の球団が評価する高校生右腕がいる。水戸啓明の中山 優人だ。この夏、中山は茨城大会の水城戦で11球団のスカウトが見守る中、完全試合を達成した。
182センチ65キロと細身ながら、最速146キロの速球、スライダー、カーブ、スプリット、チェンジアップ、フォークなど多彩な変化球を操る。制球力も抜群で、四球で崩れるケースもほとんどない。肘をしなやかに使うフォームに惚れ込むスカウトも多く、ドラフト前に10球団から調査書が届いた。
現役時代は高校通算44本塁打を放ったスラッガーとして活躍し、中日で2年間プレーした元プロで、同校のOBでもある水戸啓明の春田 剛監督はスカウトからの評価についてこう語る。
「スカウトの方からまず評価していただいているのは素材の良さです。そして将来性の面で、5年後に期待をされています。
体ができれば、間違いなくエース格へ育ってもおかしくないと評価する球団さんが多くあります。
また、高く評価していただいているのはコントロール。プロ入りする高校生投手のほとんどが、かなり速いボールを持っていても、コントロールにばらつきがある。コントロールの良さはプロ入り後も変わらないと評価してもらっています」
現時点でも完成度の高い投球をしている中山だが、スカウトたちは今ではなく、中山の未来を見ている。近年、プロの世界でも大化けして球速アップに成功して活躍している投手たちも多い。
春田監督は「中学3年生の時に初めて見て、まさかうち(水戸啓明)に来てくれるとは思わなかった。それだけの逸材です」と太鼓判を押した。
まさか来ると思わなかった…初めて見たキャッチボールに衝撃を受ける
22年8月、夏の大会が終わってから部長から監督に就任した春田監督は付き合いのある地元の中学チームに挨拶を行った。その時、見かけたのが水戸青藍舎ヤングでプレーしていた中山だった。その時のキャッチボールの衝撃が忘れられなかった。
「とにかく球持ちが良い。ほかの選手と比べて伸びが明らかに違いました。好投手はキャッチボールから違いますが、中山はその1人でした。チームの方によると、ボールの回転など、投球についてかなり考えているという話を聞き、意識の高さもありました。まだ細身で120キロ台でしたが、うまく伸びたら面白い投手だと思いました」
春田監督は水戸青藍舎ヤングの指導者に「どこか(高校)決まっているんですか?と聞いたら『決まっていない』というんですよね。とても驚きました。というのも中学3年の8月になると、有力球児のほとんどは進路が決まっています。私は8月に監督に就任したばかりなので、乗り遅れている状況でした。県内外の強豪校からの誘いもあったようですが、最終的にうちに来ていただくことになりました」と入学の経緯を振り返る。
中山は「地元でしたし、元プロの春田監督のもとで学びたい思いで選びました」と進学理由を語る。
中山は1年春から先発マウンドに挙がるほど才能の高さを見せていた。難なく自分の実力を表現する中山に春田監督は「緊張していてもおかしくないのに、物怖じせず投げられる精神力の強さはほかの投手とは違いました」と称賛する。
ただ、線の細さを補うゆえ、寮の食事には苦労した。量を多く摂ろうとしたが、なかなか食べきれず、夜の11時まで寮の食堂に残ることも。そうした苦労を乗り越え、「彼の場合、伸び悩むことはなく、右肩上がりに成長しました」とメキメキと球速が速くなっていく。投球フォームについてはほとんどいじられなかったという中山。「横移動の時間を長くすることと、軸足の蹴り上げの強さを大事にしています」とフォームのポイントを語る。フォームについて見失うことなく、確かな実力をつけてきた。
インコース攻めとスプリット習得で完全試合達成へ

スカウトから注目を集めたのは2年秋の大会が終わってから。スカウトたちが茨城の野球関係者に注目選手をヒアリングする中で、中山の名前が上がった。冬から視察する球団が現れ始め、3年春の大会後には12球団のスカウトが視察するほどに。
5月以降、中山は高卒プロにいくために、結果を追い求めた結果、不調に陥り、練習試合で打ち込まれることもあった。そこで春田監督と1時間の面談を行い、復調を果たした。春田監督によると、プロではなく、甲子園に行くためにベストを尽くすことを心がけた結果、再び輝きを取り戻したという。
中山は最後の夏に向けてスプリットを習得。今では一番自信のある球種に挙げるほどのスプリットは120キロ台後半の球速で打者の手元で鋭く落ちる。これを1週間でマスターし、使い始めた練習試合で多くの奪三振を量産した。中山は指先の感覚の良さには自信がある。
「変化球を習得するときは投球練習だけではなく、キャッチボールから練習をします。自分の場合、自分が投げたいと思う変化を描くのが人よりも得意ですね。リリースのかけ方、どう力に伝えるのか、その答えを見つけるのほかの人よりも早いと思います」
春田監督は内角への制球力と、打者を見て投げられるようになったことも実戦力が増した要因と語る。
「もともと右打者にシュート回転する傾向にあったので、それをうまく使って、インコースをしっかりと投げるようにしました。経験を重ねるごとに、打者を見て野球ができるようになったのも大きい。打者の反応を見て、ストレートで行けばいいのか、変化球で抑えればいいのか考えるようになった。それを考えるようになってから野球もうまくなりましたね」
メキメキと成長した中山は3年夏、偉大な記録を達成する。
7月21日、夏の茨城大会4回戦で春4強の水城と対戦。打力は県内上位と呼ばれるチームだったが、中山はいきなり三者凡退を抑える好スタート。常時140キロ台前半の速球、スプリット、カーブ、スライダーを器用に投げ分け、完全試合を見事に達成した。
この快挙を実感したのは、夏の大会が終わってからだった。
「まだあのときは実感が沸かなかったんですけど、夏の大会が終わって1ヶ月経ったあとに完全試合の映像を見返したら、自分は凄いことをやったんだなと思いました。あの試合は高卒プロを狙う上でも大きな試合だったと思います」
プロでは先発として活躍したい

夏の大会が終わると、春田監督の意向で夏休み期間はノースロー、9月から少しずつ投げ始め、10月から本格的にブルペン投球に入るなどの調整をしている。とにかく金の卵である中山を故障させないように気を配っている。
「中山にはコントロール重視で、8割程度の出力で勝負しなさいと話をしています。コントロール重視で無理に出力を上げようとしなかったことが、故障せずに3年間を終える事ができた理由だと思います。ただ体を大きくして、出力を出そうとすると怪我をするリスクが高まりますので、次のステージに進んでもそこだけは念を押して伝えたいです。ただ彼の場合、しっかりと体ができれば制球力重視でも150キロは出るポテンシャルはあると思っています」
10月に入ると各球団の面談や、メディア各社との合同取材など慌ただしい日々を送っている。元プロだった春田監督はメンタル面、スキル面でプロでも生き残れるものがあると評価する。
「物怖じしないところもそうですし、普段は物静かですが、『俺がチームメイトを甲子園に連れて行く!』という気概もありました。
学年が上がるにつれて負けず嫌いなところも出てきました。彼の投球練習の時に私が打席に立つことがあります。投げる時に『今は抑えた』『今は打たれている』と結果を話すんですけど、私が『打たれている』というと、中山は『抑えています!』と言い返すんですよね。投手らしい強気なところがあります。将来性の高さもそうですが、プロになるとストライクゾーンが狭くなりますが、彼の場合、そういうコースにも順応できるコントロールの良さも持っていると思います」
さらに春田監督は中山へこうエールを送った。
「自分もプロの世界に身を置いて、いろんな投手を見てきましたが、プロで活躍できる要素はあります。あれほどのキャッチボールをする投手はなかなかいません。球界を代表する投手になってほしいですね」
ドラフトが近づき、中山は「不安な心境もありましたが、今は楽しみな気持ちが大きいです」と笑顔で語る。その理由は自分ができることをやりきったからだ。
「自信が持てたのはやはり夏の完全試合です。自分の中でやり切ったといえるほどのアピールができました」
指名を受ければ、同校からは07年に育成2位指名を受けた元横浜の杉本 昌都捕手以来、18年ぶりのドラフト指名となる。投手だと、01年に巨人から3位指名を受けた鴨志田 貴司氏以来、24年ぶりの快挙だ。学校ではドラフト会議へ向けて当日のメディア対応の準備を進めている。
中山は「1、2年目に体作りをしながら、二軍、三軍で結果を残して、3年目には一軍定着するのが目標です。そして自分は先発をしていきたい」と目を輝かせながら、プロ入りがかなった時の目標を語った。
フォームの良さとしなやかさを兼ね備え、スカウトが絶賛する将来性を備えた中山はプロ入り後、理想通りの成長を示すことができれば、そのまま入団したチームでエースになる未来が待っている。