WEEKLY TOUR REPORT米ツアー・トピックス 今季最初の世界選手権シリーズ(WGC)、HSBCチャンピオンズ(10月26日~29日/中国・上海)は、トップと8打差の4位タイでスタートしたジャスティン・ローズ(37歳/イングランド…

WEEKLY TOUR REPORT
米ツアー・トピックス

 今季最初の世界選手権シリーズ(WGC)、HSBCチャンピオンズ(10月26日~29日/中国・上海)は、トップと8打差の4位タイでスタートしたジャスティン・ローズ(37歳/イングランド)が劇的な逆転優勝を飾った。しかしながら、大会としてクローズアップされたのは、ローズの快進撃よりも、首位を快走していたダスティン・ジョンソン(33歳/アメリカ)が自滅して勝利を逃した、ということだった。



HSBCチャンピオンズで最終日に失速して優勝を逃したダスティン・ジョンソン

 3日目を終えて、2位に6打差をつけて単独トップに立ったジョンソン。世界ランキング1位の彼なら、昨年優勝した松山英樹と同じように、最終日もそのまま独走して圧勝するだろうと誰もが思っていた。おそらくジョンソン自身もそう思っていたに違いない。

 だが、最終日のジョンソンはバーディーなしの「77」と、スコアを5つも落として失速。強風が吹き荒れる厳しいコンディションだったとはいえ、前日までとはまる別人のようなプレーだった。

 結果、ローズに8打差を逆転されての”自滅劇”。そんなジョンソンの姿を見ると、ひと昔前の彼を思い出さずにはいられなかった。

 ほんの数年前まで、ジョンソンは誰もが認める実力を持ちながら、大舞台ではその実力を存分に発揮できず、勝つチャンスをことごとく逃してきた。

 2010年、カリフォルニア州のペブルビーチで開催された全米オープンでは、2位に3打差をつけて最終日を迎えたが、そこで「82」の大叩き。メジャー初優勝の好機を生かせなかった。

 同年の全米プロ選手権では、最終日最終ホールを迎えてトップに立ったが、2打目を打った砂地について、バンカーと認識せずにクラブをソール。それをラウンド後に指摘されて2打罰となり、プレーオフを戦うチャンスをもフイにしてしまった。

 さらに2015年の全米オープンでは、最終日の18番パー5で見事に2オン。4m弱のイーグルパットを決めれば優勝と、ビッグタイトルがまさに手の届くところまできていたが、そのイーグルパットを外し、返しのバーディーパットも外して万事休す。まさかの3パットを喫して、ジョーダン・スピース(アメリカ)に勝利を奪われた。

 その当時、ジョンソンの課題がメンタル面にあることは明らかだった。なかでも、大舞台における”ここ一番”での勝負弱さは克服すべき最重要課題だった。

 ゆえに、スピースに優勝を譲った全米オープンのあとにも、自らに誓うようにジョンソンはこう語った。

「最終日に崩れることを卒業しないといけない。それができないと、メジャーで勝つことができない」

 そうして昨年、ジョンソンはようやく全米オープンで優勝。最終日には、ルールを巡って罰打がつくか否かのトラブルにも見舞われたが、それに動じることもなく、悲願のメジャー制覇を成し遂げた。ついにメンタル面の成長も示したジョンソンには、多くのファンから喝采が送られた。

 以降、ジョンソンは圧倒的な強さを見せつけてきた。今年2月のジェネシスオープンから出場3試合連続優勝を飾って世界ランキング1位になると、ここまで36週間、その座を保持し続けている。

 世界選手権シリーズは、3月のメキシコ選手権、デルテクノロジー・マッチプレーも制していて、もし今回のHSBCチャンピオンズも制していれば、同一年に3度の世界選手権シリーズ制覇という快挙も果たすところだった。よもやジョンソンはそのプレッシャーに押し潰されてしまったのだろうか?

 逆転勝利を飾ったローズは、こう語る。

「大量リードで首位を走って勝つのは、それはそれでとても難しいことだ。僕たち、追いかける立場としては、最初は2位を目指した。でも、2位を目指しながらも、何かが起こるかもしれないと、誰しもがそう思って戦っている。そうやって、スコアを伸ばすことだけを考えてプレーするほうが、(トップに立ってプレーするよりも)ずっと簡単なこと。目標を定められず、追いかけられる立場のほうが、難しい戦いになるのは当然だ」

 最終日を迎えて、後続に6打差のリードを奪っていながら逆転されるのは、PGAツアーの最多差タイ記録。今回のジョンソンで7人目となる。よく知られているのは、1996年マスターズ。グレッグ・ノーマン(オーストラリア)が最終日に同じリードを奪いながら逆転負けを喫している。

 今大会のある意味で”主役”であり、不名誉な記録に名を連ねることとなってしまったジョンソンは、気丈にこう語った。

「決してスコアほど悪いプレーではなかった。ミスショットもあったが、パットが入らなかったのが(敗れた)要因だ。答えはシンプルさ。こういうこともある。僕は(精神的にも)大丈夫だ」

 スイングコーチを務めるブッチ・ハーモンも強気に振る舞う。

「DJ(ダスティン・ジョンソン)の特技は、すぐに忘れられること。次の試合までには、すっかり立ち直っているよ。それが、今のジョンソンの強さでもある」

 ジョンソンは次戦、タイガー・ウッズ(アメリカ)が主催するヒーロー・ワールドチャレンジ(11月30日~12月3日/バハマ)に出場する予定。それまでに、この”悪夢”が払拭されていることを願うばかりだ。