ブラジル戦の勝利に対する伊東の貢献度は計り知れない(C)Getty Images ブラジルを下した歴史的な一戦。挑戦では…

ブラジル戦の勝利に対する伊東の貢献度は計り知れない(C)Getty Images

 ブラジルを下した歴史的な一戦。挑戦ではなく、勝利を手にするために戦う――日本代表がついにその覚悟を形にした。元北朝鮮代表FWの鄭大世が、試合を通して見えた森保ジャパンの成長と、強豪撃破の意義を語る。

【動画】伊東純也のCKから上田綺世が渾身ヘッド!ブラジル相手に歴史的勝利をもぎ取った決勝弾の映像

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 まさかこんな日が来るとは思わなかった。前半は0-2で終えたものの、相手のミスから奪った後半の1点をきっかけに日本代表が完全に主導権を握った。正直、あの展開を予想していた人は多くなかっただろう。僕自身、勝つと思っていなかった。だが、あの90分間で、「日本代表はワールドカップで優勝を狙えるかもしれない」と、サッカーファンだけでなく、普段サッカーを見ない層にまで、そう感じさせたのではないかと思う。

 この勝利は、ただの1試合の結果ではない。これまで積み上げてきたチームの経験が、実を結び始めたことの証でもある。ブラジルという絶対的強者を相手に、臆することなく挑み、そして勝ち切った。そこに、このチームが持つ“強さ”が見えた。

 中でも印象に残ったのは、やはり伊東純也だ。彼が右サイドにいるかどうかで、チームの攻撃はまるで変わる。強豪国との試合になると、どうしても崩しが難しくなる。そんな中で、少ない人数で速く攻め切る展開を作り出すには、精度の高いクロスが不可欠だ。伊東はその数少ないチャンスを形にできる。あの精度は世界でもトップクラスのレベルだ。

 しかも、彼は決してビッグクラブに所属しているわけではない。派手な実績もない。それでも代表で常にスタメンを張る理由は明確。結果を出し続けているからだ。堂安律とのポジション争いもいい刺激になっている。お互いが切磋琢磨することで、右サイドが大きなストロングポイントになっている。

 そしてもう一人、上田綺世の存在も欠かせない。前半はチャンスが少なく、苦しい展開だった。それでも焦らず、来たボールを確実に仕留める。あれこそがストライカーの仕事だ。彼は感情に流されず、周囲に左右されない。どんな展開でも淡々とやるべきことをやる。フォワードとして理想的なメンタルの持ち主だと思う。ヘディングの競り合い方、身体の使い方も見事で、ヨーロッパで揉まれた経験が生きている。

 今の日本代表において、上田は唯一の“前線で相手を背負える”選手だ。ワントップのシステムでは、前で収める力がなければ攻撃は始まらない。ボールをキープして味方を押し上げることができるのは、今のチームで彼しかいない。だからこそ、チャンスをもらい続けている。フォワードは結果だけでなく、前線で時間を作る仕事も重要だ。そういう地味な部分をしっかりこなしているのが、上田の強みだと思う。

 守備の貢献も見逃せない。今のサッカーでは、フォワードもチェイシングやプレスバックを怠れない。上田はそれを徹底している。周囲が信頼を寄せるのは、その献身性があるからだろう。チームが攻守で連動できているのも、前線の守備意識が高いおかげだ。

 チーム全体で見れば、日本代表は明らかに変わりつつある。強豪国との試合を重ねる中で、戦い方が“アジア仕様”から“対世界”にシフトされてきた。メキシコ戦、アメリカ戦、パラグアイ戦、そして今回のブラジル戦――この4試合はワールドカップに向けて非常に大きな意味を持つテストだったと思う。

 攻撃面でいえば、日本にはまだ「綺麗に崩す」パターンは少ない。だが、ハイプレスから奪って速攻に出る形は確立されている。中村敬斗のゴールシーンが象徴するように、逆サイドのウイングバックがファーに詰める“決まりごと”も整理されている。逆に言えば、それしかないという課題も見える。

 もちろん、この1勝で「ブラジルに勝てたから本番でも勝てる」とは言えない。相手が本気を出せば、まだ力の差はあるだろう。けれど、この勝利が選手たちに自信を与えたことは間違いない。勝つことを知ったチームは、次に進める。

 勝利がまた、次の勝利を呼ぶ。

 まさにこの試合がその“経験”になったのだと思う。今日の勝利は、結果以上に価値がある。日本代表が次のステージへ進むための、大きな通過点になるだろう。

[取材/構成:ココカラネクスト編集部]

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