【短期集中連載】若かりし角田裕毅の素顔05(全5回)後編「2022年〜現在:F1」「中嶋悟がホンダに推薦したらダントツに…
【短期集中連載】
若かりし角田裕毅の素顔05(全5回)後編
「2022年〜現在:F1」
「中嶋悟がホンダに推薦したらダントツに速かった」
「F1という世界は、こんなに人間を成長させて変える」
2022年はアルファタウリで12ポイントを獲得し、ドライバーズランキング17位。2023年はチームメイトがピエール・ガスリーからニック・デ・フリースに代わり(その後、ダニエル・リカルド→リアム・ローソン)、17ポイントで14位。2024年はRB・フォーミュラワン・チームと名称が変わり、自己最高の30ポイント・12位でシーズンを終えた。
そして2025年、角田裕毅はレーシングブルズで2戦を走ったのち、レッドブルに昇格。4度のF1王者に輝くマックス・フェルスタッペンが同僚となった。
参戦5シーズン目でついにトップチームのマシンを手に入れた角田の走りは、元ホンダのF1マネージングディレクター山本雅史の目にどのように映っているのか。レッドブルで奮闘を続ける25歳の魅力を語ってくれた。
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角田裕毅からは何かをやってくれそうなスター性を感じる
photo by Boozy
── 「周りの意見に耳を傾けられる素直さ」。それが角田選手のいいところだと言っていました。レッドブルジュニア加入のきっかけとなったハンガロリンクのF3テストからまさにそうで、しかも山本さんがその時にアドバイスされたとおり、素直に受け入れたことで角田選手の人生は大きく左右したわけですよね。
「人間性で言えば、僕がこれまで見てきたドライバーやライダーのなかで、彼が最も素直です。人生の先輩の言葉を一旦、素直に受け入れるというスタンスがあるし、それが角田を大きく成長させてきたんだと思います。
普通は『はい』って言っていても、理解しなかったり行動しない人もいるけど、角田はそういうことが一度もない。人間としての成長はまだこれからも伸びしろがあると思うけど、それだけいろんなチャレンジに対して前向きな姿勢を持っている。それが角田を成長させている」
【チャンピオンになる素質とは】
── 素直さがいいほうに出ることもあれば、素直であるがゆえに少し楽観的で、時につまずいてしまうことも何度かありました。
「F1デビュー前にどこかのメディアのインタビューで、『目標はルイス・ハミルトンの7度の王座獲得を超えることです』って言っていて、『そういうことはチャンピオンになってから言え』と言ったのを覚えています。あの時は(F2初年度にランキング3位でF1昇格を決めて)そのくらい勢いに乗っていて、勢いが余ってしまっていたんです。
出会った頃から『すごく高飛車な子だな』と思ったこともあるけど、その一方で『この子は何かやってくれそうだ』と感じさせてくれるところもある。それが角田のよさだと思います。
ゴルフの世界で言うと石川遼選手みたいな、成績だけではない何かを魅せてくれる、期待させてくれるスター性のようなものが角田にはあるんです。そういう理屈を超えた魅力があるドライバーだし、SRS(鈴鹿レーシングスクール)で角田を見出した中嶋(悟)さんが『いい意味で変わっていて面白い』とおっしゃったのも、そういうことなんだと思うんですよね」
── ドライバーとしての角田選手のよさは、どんなところだと感じていますか?
「速くて賢いドライバーはいるけど、角田は頭で計算する前に身体が動くんです。F1ドライバーってそうじゃなきゃいけないんだっていうのは、トヨタやフェラーリのドクターを務めてきたフォーミュラ・メディシンのリカルド・チェカレッリ先生が言っていましたね。
ルイス・ハミルトンやフェルナンド・アロンソは、思った瞬間に身体がもう動いているらしい。普通は、頭で考えたら信号が脳の前頭葉に来て、そこから身体を動かすんだけど、優れたドライバーというのは、前頭葉に思考が来る前には行動が完了しているんだそうです。
そういうドライバーじゃないとチャンピオンは獲れないっていうんですけど、まさに角田はそういうタイプのドライバーだと思います」
【マネージメント体制が整えば...】
── 5年目を迎えてレッドブルに昇格したところから苦戦が続いている角田選手ですが、どんなところに課題があると思いますか?
「『初心を忘れず、謙虚であれ』ということですかね。あとはマネージメント体制として、『レッドブルで今季どんなことをやるのか』という明確な目標を持って、それを角田と共有して二人三脚で進んでいってほしいということですかね。
ただ、レッドブルに乗って終わりじゃなくて、7回チャンピオン獲得のハミルトンを超えるって言ったんだから、まずは1勝ですよね。そのためにはどうするのか、マネージメント全員で話し合って共有し、実行できているかどうか。
F1って、なんとなくやればなんとなくできてしまう世界でもあるけど、なんとなくではなんとなくの結果にしかならない。でも、勝ちを狙うなら、勝ちを狙うための体制が必要です。
マックス(・フェルスタッペン)の場合も、F3時代からずっとマネージメントしてきたレイモンド(・フェルメーレン)というマネージャーがいて、マックスはレースのことだけに集中できる環境が整っているんです。そういう体制があれば、角田裕毅というドライバーはさらに成長が加速するんじゃないかと思います」
── これからの角田選手に期待することは?
「もし角田が2021年にF1に乗っていなかったら、今でも日本人ドライバーはF1に乗っていなかったかもしれません。僕が生きている間にF1で日の丸を掲げて君が代を聴かせてくれる、最初で最後のドライバーかもしれないとも思います。
微力かもしれないけど、僕もそこにひと役買えたという思いもあるし、速いドライバーはまだこれから何人も出てくると思いますけど、ただ速いだけでは勝てない。周りの環境やタイミングみたいなものがすべて揃って初めて勝てるのが、F1の世界です。
角田はそういうものを持っているドライバーだと思う。そういう何かを期待させてくれる、本当に魅力的なドライバーです」
<完>
【profile】
山本雅史(やまもと・まさし)
1964年3月15日生まれ、奈良県出身。高校卒業後の1982年、本田技術研究所(Honda R&D)に入社。2016年、マネージメントの手腕を買われてホンダ本社のモータースポーツ部長に就任。2019年にF1担当マネージングディレクターとなり、2020年のアルファタウリ優勝や2021年のレッドブル・ドライバーズタイトル獲得に貢献。2022年1月にホンダを退職し、現在はMASAコンサルティング・コミュニケーションズ代表を務める。