ジャパンラグビー リーグワン ライジング20252025年10月11日(土) …

ジャパンラグビー リーグワン ライジング2025
2025年10月11日(土) リコー総合グラウンド
リコーブラックラムズ東京 31-10 NECグリーンロケッツ東葛

リーグワンライジング プレーヤーエピソード[BR東京]


リコーブラックラムズ東京の稲葉聖馬選手。写真は9月27日の対三菱重工相模原ダイナボアーズ戦(提供:リコーブラックラムズ東京)

「日々コツコツ」。信念を貫き、示すのは“前に進む勇気”

前半終了直前のこと。プレー中に痛めた相手選手を目にすると、そっと寄り添い手を伸ばし、声を掛けた。

「プレー中は敵。だけど僕たちは紳士なスポーツ(選手)で、プレーが止まれば気を遣います」

当たり前の行動に、特別な意味は有さなかった。

スクラムハーフ、稲葉聖馬。長野県飯田市出身の、23歳。実家の近所に住んでいたラグビースクールのコーチと家族ぐるみの付き合いをしていた縁から、保育園児のころには楕円球を握った。

高校時代には親元を離れ奈良県立御所実業高校へと進学。大東文化大学では主将を務めるまでに成長した。

リコーブラックラムズ東京に入団したのは、2023-24シーズン。

その翌シーズンには、同じポジションにワールドクラスの選手、TJ・ペレナラが加入した。

「ブラックラムズに入って、リーグワンで出場できていないことはもちろん悔しいです。でも出場できないからといって、練習をおろそかにするわけではない。TJも『1週間の準備が試合にそのまま表れる』と言っています。だからいかに1週間の練習で、良い準備ができるか。TJからも学べることは学ぼう、と自分にできることを続けたシーズンでした」

座右の銘は『日々コツコツ』。自らの信念が、前に進む勇気をくれた。

今季、改善に取り組むテーマがある。自陣からの脱出だ。

「昨季は自陣でボールを動かし過ぎてFWを疲れさせ、ミスから相手に流れを渡すことが多かった。今季はできるだけシンプルに」と方針を切り替えた。

脱出とは、イコール・キックでもある。スクラムハーフがラック後方から蹴り上げる『ボックスキック』と呼ばれるハイパントキックに、もちろんロングキックも。自陣脱出に不可欠なキックを、プレーに組み込む回数を増やした。

ひいてはキックの練習回数も増やす。毎練習で必ず、キックの練習を取り入れた。

ジャパンラグビー リーグワン ライジング2025第3週でNECグリーンロケッツ東葛と対戦した10月11日も何度か自身の右足を振り抜いたが、「もっとキックの精度を上げたい」と課題を手にした。

一方で、武器である「正確なパス」だけは今季も、これからも譲らないと誓う。

「僕の武器は正確なパス。そこの部分は、絶対に変えません」

受け手が取りやすいボールを投げることに、生き残る道筋を描いた。

また稲葉のもう一つの強みは、トライラインに迫った場面での冷静さにあるだろう。

トライゾーンが近づくと、そのプレーには不思議と落ち着きが増し、トライを取り急ぐことはない。

「慌ててしまうと、ミスが増える。自分も落ち着いて、味方を落ち着かせて、順目に進むのか逆目に振るのか、スタンドオフとFWとしっかりとコミュニケーションを取っています。コーチ陣からも『あそこのエリア(トライライン前)では時間をかけていい』と言われています。周りの声を聞きながら、落ち着いて判断しています」

焦らずに、だが攻め続ける姿勢が、彼の強みとなっている。

リーグワンでの公式戦出場は、まだない。だが新設された「リーグワンライジング」では、2試合連続で先発出場を果たした。

タンバイ・マットソン ヘッドコーチからは「テンポと正確なパス、ゲームコントロールに期待している」と送り出され、「プラスに捉えています」と稲葉は応えた。

「このパフォーマンス次第で、コーチ陣も判断してくれると思います。プレシーズンはまだ続くので、出場チャンスをもらったら自分のプレーをアピールしたいと思います」

出場機会は限られていても、努力を続けていれば必ず道は開ける。

「コツコツやっていれば、きっと次につながる」

そう信じて、練習グラウンドに立つ。

(原田友莉子)