10月7日、有明アリーナ。SVリーグ初代王者であるサントリーサンバーズ大阪は、イタリアの欧州王者ペルージャを迎えていた…

 10月7日、有明アリーナ。SVリーグ初代王者であるサントリーサンバーズ大阪は、イタリアの欧州王者ペルージャを迎えていた。

「RAN」

 会場では、サントリーの髙橋藍の応援ボードを手にした女性の並びに、ペルージャの石川祐希の応援ボードを持った女性もいた。彼女たちにとっては祝祭だろう。


ペルージャの強さを肌身に感じた髙橋藍

 photo by Noto Sunao(a presto)

「髙橋藍 vs 石川祐希」

 日本の二大バレーボールスターの対決を、テレビも煽っていた。地上波でプライムタイムの放送だった。プレシーズンマッチが大々的に取り上げられるのは、男子バレー人気の過熱ぶりを物語っていた。

「世界一のペルージャと対戦することで、自分たちの世界での立ち位置もわかると思います。チャレンジさせてもらっているので、自分たちのバレーのレベルの高さを証明する機会で。成長できるように、盗めるものは盗みたいですね」

 爽やかに語った髙橋は、ほとんど生来的に勝負を楽しむ男だ。

 1セット目、サントリーは勢いに乗り、25-20で先行した。セッターの関田誠大がドミトリー・ムセルスキーの218㎝、イゴール・クリュカの209㎝の高さを最大限に活用しつつ、ミドルブロッカーの小野寺太志のクイックを引き出すなど、変幻自在の戦いを披露した。

 2セット目は、髙橋がショートサーブやレシーブで技術の高さを見せ、ブロックにも成功。世界選手権を戦った後でチーム合流もまもなく、本調子には程遠いはずだが、コートで笑顔を見せていた。そして18-16とリードしていたのだが......。

 そこから、ペルージャが石川を中心に立て直した。石川のサービスエースが次々に決まり、髙橋の自慢の守りも崩したのだ。これで流れは変わって、サントリーは21-25で落とした。そして3セット目も24-26で競り負け、4セット目も21-25で敗れ、セットカウント1-3で逆転負けを喫している。

「ペルージャはセット終盤にかけて、チームの(勢いの)上げ方がさすがだなって思いました」

 試合後に髙橋は話した。

「自分たちが1セット目は取りましたけど、そこでも簡単に取らせてくれないなっていうのはありました。2セット目以降は相手が上がっていく一方、自分たちは少しダウンしてしまいました。やっぱり、ペルージャは勝負への意識が高いと感じましたし、レベルの高いマインドを学ぶことができたと思っています」

【勝つためには楽しまないといけないし、楽しむためには勝たないと】

 あくまでプレシーズンの親善試合で、勝ち負けにはこだわってはいない。しかし、髙橋は勝負の中で「1点の重み」を刷り込んでいるようだった。それは24歳になる彼が目指す、"唯一無二のバレーボール選手"になる手がかりでもあるはずだ。

 バレーボーラー、髙橋藍が世界の伝説的トップアスリートの領域に入る"最後のピース"とは?

 今年3月のインタビューで、彼にそう訊ねた。

「一番は結果だと思います。スポーツは結果が出なければ、どんなにマーケティング面で頑張って、スポンサー関係で協力してもらっても説得力がない。自分はバレーで結果を出し、営業活動もしたい。結果が出ていないと、(説得力がないから)したくはないですね。まずはバレーで結果を出す、それで自分の価値も上がる。

パリオリンピックでは(目標の)メダルを取れなかったですけど、自力で出場権を得て、視聴率も高かったそうで(イタリア戦は大会競技の中で最高視聴率)。男子バレー(の日本代表)はネーションズリーグで2、3位になるなど世界上位を繰り返し、強くなって人気も出てきました。自分たちがさらに結果を出せば、人気は上がるはずです」

 髙橋には彼にしかできないアプローチがある。彼ほどマスコミの前に立って、発信できるアスリートはほかの競技でもなかなかいない。それは日本男子バレー界の財産だ。

 一方、髙橋は誰よりも目の前の勝負にこだわる選手で、その勝利こそが人気にもつながることも信じている。

「何十年もバレーをやってきて、どうしても作業というか、生活の一部になっちゃうところもある。でも、やるからには楽しんでやるのが、自然と自分らしいプレーにつながっていると思います。ただ、"楽しむ"心境に辿り着くには、海外とかいろんな環境でバレーを経験し、そのたびに乗り越えてきた自信が土台にあるかもしれません。おかげで楽しんでプレーできるし、お客さんに伝わるのかなって」

 髙橋自身、大学在学中にイタリア、セリエAの戦いに身を投じている。勝つためには楽しまないといけないし、楽しむためには勝たないといけない。そのロジックを刻み込んできた。

【「チームとしてはSVリーグ連覇が目標ですね」】

 それはSVリーグを制したことで、ひとつの結実を見たと言えるだろう。チームとして劣勢に立ち、自身もうまくいかない局面があったが、試合中にプレーをアジャストさせ、流れを変えた。結果、華々しい逆転勝利もやってのけ、チャンピオンシップMVPにも選出されたのである。

「チームとしてはSVリーグ連覇が目標ですね」

 髙橋は高らかに言う。過密日程が続くが、発信者としても笑顔を絶やさない。繰り返すが、それは驚くべき異能である。

 2日目の10月8日、サントリーはセットカウント0-3でペルージャにストレート負けを喫した。世界一との差を見せつけられた格好だ。ネーションズリーグや世界選手権で優勝した猛者たちや、石川のプレーには地力の強さがあった。

 しかし、これは真剣勝負への準備である。

「勝つ瞬間のために、自分は頑張っているので」

 そう語る髙橋の新シーズンが、まもなく幕を開ける。

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