フランクフルトでのチャレンジを決意した堂安(C)Getty Imagesチーム内での発言権もあったフライブルクをなぜ離れ…

フランクフルトでのチャレンジを決意した堂安(C)Getty Images

チーム内での発言権もあったフライブルクをなぜ離れたのか

 今夏にフライブルクからフランクフルトへと移籍した日本代表MFの堂安律。彼が決断をした際に、「あぁ本当にファンから愛されていたんだな」と思われる出来事があった。

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 クラブへの忠誠心を大切にするドイツのファンは主力選手の移籍を受け入れられずに、「裏切り者」や「金の亡者」といった攻撃的な書き込みをSNS上に展開することがある。しかし、フライブルクが堂安の退団を公表した際には、ほぼすべての反応が彼への感謝の言葉で溢れかえった。

 健全経営で、地に足のついた補強策を地でいくフライブルクらしいと言えばそうかもしれない。だが、ファンの好意的に反応したのは、堂安が在籍3年間で、どれほどの献身的なプレーをし、チームを助けてきたかの表れでもあった。おそらく彼の活躍がなければ、24-25シーズンのブンデスリーガ5位フィニッシュも果たせなかった。

 ひたむきな姿をずっと追っていたからこそ、ファンはより高みを目指すステージにきた日本人との別れに、もちろん寂しさはありながらも、さらなる成長と健闘を祈る気持ちの方が強かったのだろう。

 フライブルクでの3年目となった昨季は、チームメイト全員から頼りにされ、内部での発言権も得ていた。ユリアン・シュースター監督とも、気になることがあれば、すぐに相談をし、意見を口にできる関係性が築けていた。グラウンド上でも、仲間たちは困った時、あるいは変化が必要な時には迷わず堂安にボールを預ける。そんなプレーがどんどん増えてきていた。

「裏に抜けたり、トップ下に入ったり、サイドにはったりと、オプション的に一つじゃなくなってきてるんで、幅は広がってると思います。僕の動きに仲間が合わせてくれている。僕中心にチームがプレーするように、監督がやってくれているのを感じています」

 昨季終盤、堂安は手応えとともにそう話してくれた。

 ゆえにフライブルクに残れば、中心選手としての地位はより明確に確立されていた。それでも、堂安はチャレンジを選んだ。自身が成長するために何が必要なのかを模索した末の決断だ。「快適さ」は居心地の良さをもたらすが、さらなる成長を願う時に足かせにもなりかねない。

 実は24年12年のヴォルフスブルク戦後に、気になる発言をしていた。

「刺激がないと面白くはない。自分との闘い、自分を極めながらやりますし、自分のやりたいことが表現できるようになってきたということは、自分がそこまで成長できた証でもあると思う。また違う刺激が欲しいというのはありますけど、それは数字を残してから考えることだと思います」

 そう語る堂安は、初のブンデスリーガ2桁得点を挙げ、クラブを5位へ導き、4年間で3度目となるヨーロッパリーグ出場権をもたらした。名実ともに旅立ちの時を自らの手で作り上げたと言えるかもしれない。それでも、フライブルクラストマッチとなった昨季最終節のフランクフルト戦後には、感傷的なことも話していた。

「本当にチームからの愛情も感じるし、オン・ザ・ピッチだけじゃなく、オフ・ザ・ピッチでもかなり仲良くしてる。もちろん彼らとの絆はね、やっぱり時間が経つにつれて感じられるのかなと思う」

日本代表でも主力として重宝される堂安。彼の成長は日本サッカーの結果にも結び付く(C)Getty Images

新天地でも順調に適応。しかし、当人は――

 フランクフルトへの移籍が正式に決まったのは、8月7日。シーズン終了から約2か月の時間が経った時だった。加入直後からスタメンとして起用され、試合を重ねるごとにチームメイトとの呼吸はあってきている。

 堂安の守備貢献は、すでにチームのオフェンス陣にあってトップレベルといっても過言ではない。的確なポジショニングから連続したプレス、長い距離をダッシュで戻り、1対1にも強い。相手カウンターになりそうな場面でも、堂安がその起点をつぶしてチームが助かる場面がたくさんある。こうした献身性はフライブルクでの経験がうまく生きていると言えよう。

「守備でのはめ方はフライブルクで学んだものが非常にある。なので、それは生かしていきたいと思います。そこに関しては(やることは)あまり変わりはないと思います」

 今季のブンデスリーガ第3節のレバークーゼン戦後に本人はそう話してくれた。攻撃面面でも好プレーが随所でみられ、開幕5戦で2ゴール、3アシストを記録。得点に関与した数はチームで2位の結果を残している。チャンピオンズリーグ(CL)の開幕節となったガラタサライ戦では、左サイドに流れてからのダイレクトパスでアシストするなど、5-1での快勝に貢献。フランクフルトの攻撃幅を確実に増やしている。

 新天地でも順調に適応しているのは確かだ。しかし、当人は現状に「いや、まだまだ」と表情を緩めない。

「フライブルクの3年目に比べたら、やっぱり3年かけて培ってきたものでプレーしてきたので、やりやすかったですし、『リツに預けよう』という感覚はありました。だけど、(フランクフルトにきて)まだ2か月でその感覚はもちろんまだないです」

 堂安にボールを預けるところから攻撃が始まるフライブルク時代と違い、フランクフルトでは新しい仲間の特徴と長所を探りながら、ボールを預けられる好ポジションでタイミングよくパスを要求する動作が求められる。

 フライブルクでの3年で築き上げたオートマティックさと、加入後2か月の新天地での感覚を比較すれば、それは容易ではない。

 だが、堂安が求めるところはその裏返しに潜んでいる。

「数字を重ねることで信頼は得られると思う。時間はかかりますけど、一日も早くそういう感覚になれるように、いいステップアップをしていきたいと思います」

 まだまだ成長段階ではある。CLの2戦目でフランクフルトは、スペインの雄アトレティコ・マドリーに1-5で完敗を喫した。だが、こうしたシビアな戦いが続く舞台こそ、「居心地の良い場所」を離れた堂安が求めていたチャレンジなのだ。

[取材・文: 中野吉之伴 Text by Kichinosuke Nakano]

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