サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、ほどけちゃうとプレーに参加できなくなってしまう、アレのお話。

■今の選手なら「途方に暮れる」長~いヒモ

 しかし、いずれにしても、試合中にシューズが脱げるというのは、サッカー選手として好ましいとは思えない。昨今のJリーグのレフェリーならとても優しいから、試合中にシューズが脱げたときには、そばに立って履き直すのを待ってくれるかもしれない。しかし本来なら、「外に出て履き直せ。履き終わったら、チェックを受けた後で復帰を認める」と、厳しく言われるのが当然の状況なのである。

 というわけで、今回も前置きがとても長くなった。実は、今回の本題は、シューズが簡単に脱げないよう、サッカーシューズのヒモ(シューレース)をどう結ぶかという話なのである。最近はシューレースを用いないシューズもあるようだが、圧倒的に多いのがヒモで結ぶシューズである。

 私が高校生だった1960年代には、とても長いシューレースがあった。今の選手ならどうするのか、途方に暮れるに違いない。どう使ったのか。普通に足を入れ、ひと結びしたら、シューレースをクツ底に回すのである。それも2回。そのうえで、上部でしっかりと結ぶのである。シューズをしっかりと足に固定させる目的だったのだろう。

 だが、日本代表の活動を通してアディダス製のシューズが入ってきた1960年代終盤には、こんなシューレースは消えた。通常のように結ぶだけになったのである。

■「ほどけやすい」ヒモや「ほどけない」結び方も

 一生懸命にプレーしていた40代の初めまで、私は普通の「蝶結び」をしていた。しっかりと結び、長ければ躊躇することなく切って適度な長さにした。

 買ったシューズには、たいていナイロンで編んだシューレースがついていた。耐久性を考えてのものだっただろう。だがナイロン製だとほどけやすい。シューズを持ち帰ると、私は綿糸で編んだシューレースにつけ換えた。家には、何ペアかの新品の綿糸製シューレースが常備されていた。気をつけてしっかり結んだから、普通の「蝶結び」でも緩むことはなかった。

 ところが、最近、女子チームの選手たちを見ていて、興味深いことに気がついた。サッカーシューズを履くときに、多くの選手がかなり複雑な結び方をしているのだ。

「蝶結び」した後に「輪」の部分をもういちど「片結び」する者。最初に左右のヒモを「蝶結び」の前の最初の「片結び」のときに1回ではなく2回通す者、2回通した後に最初の例のように「蝶結び後の片結び」をする者。さらに複雑な手順で結ぶ者(結ぶ選手は慣れているので手早く結ぶから、見ていても理解できない)…。

 調べてみると、YouTubeでさまざまな「ほどけない結び方」が紹介されている。「イアンノット(knotは「結び目」の意味)」、それを強化した「イアンセキュアノット」、私には複雑怪奇にしか見えない「ベルルッティノット」など、動画を見てゆっくりやってもなかなかできそうにない。

 ちなみに、「ベルルッティ」はフランスの高級紳士靴ブランドの名だが、「イアン」は「オーストラリアの靴ヒモおじさん」とでも呼びたくなるようなイアン・フィーゲンさんが考案したものである。フィーゲンさんは1962年生まれの62歳。メルボルンに在住し、「Ian‘s Shoelace Site」という靴ヒモの専用サイトを運営して、この世界ではナンバーワンの権威らしい。

■警視庁の「災害対策」のための結び方は

 もうひとつちなみに、最初に紹介した「蝶結び後の片結び」は、警視庁のホームページで「災害対策」として紹介されているもので、とても簡単であるうえに、ほどくのもそれほど面倒ではないので、「子どもの運動靴にも最適」と推奨されている。

 サッカー用ではなく、街歩き用としてふだん履いているシューズのヒモがときどきほどけて、街角で直していた私は、とりあえずこの「警視庁結び(私が勝手に名づけた=警視庁の警官や刑事たちがやっているという意味ではない)」をやってみた。すると、まったくほどけなくなった。結び目が少し大きくなるので、サッカーシューズでこれをやると、もしかしたら、インステプキックのときに痛いかもしれない。

 だが、どんな結び方にしろ、練習や試合の最中に緩まず、シューズが脱げることもない結び方をするというのは、非常に正しい心がけだと思う。Jリーグの選手たちがどんなシューレースの結び方をするのか見たことはないが、大半の選手は、「正しい心がけ結び」をしているに違いない。

 ただ、1シーズンに一度あるかないかなのだが、シューズが脱げるシーンを目にすることがある。プロとして恥ずべきことだ。私の女子チームの選手たちを見習ってほしいと思うのである。

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