橋本はリベンジを許したが、依然として中国勢にとって脅威であることに変わりはない(C)Getty Images 今や中国卓…

橋本はリベンジを許したが、依然として中国勢にとって脅威であることに変わりはない(C)Getty Images

 今や中国卓球界がもっとも恐れる存在となっている橋本帆乃香。過去1年間で中国選手に17勝2敗という圧倒的戦績を誇り、世界ランキング1位の孫穎沙と2位の王曼昱以外には負けなしという凄さである。そんな選手は世界中を見渡しても橋本以外にはいない。

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 しかもそのプレースタイルが、トップ選手には希少な、カットマンというスタイルなのだから驚かされる。現代卓球では、ボールに前進回転をかけて軌道に強い孤を描かせて速いボールを確実に打ち込む「ドライブ」が主流である。カットマンは、これとは逆の「カット」と呼ばれる後退回転をかけた遅いボールで安全に返し続けながら、その回転の変化で、ネットにかけさせたり台をオーバーさせたりといったミスを誘うことを軸に戦う。当然ながらトップ選手は簡単にはミスをしないため、勝っても負けても長い試合となる。

 その常識を覆すとんでもない試合を橋本はやってのけた。中国・北京で5日まで開催されたWTT中国スマッシュの女子シングルス2回戦で、橋本は香港のエース、杜凱琹(ドー・ホイカン)と対戦した。日本のTリーグで4年間プレーをし、2019年の世界選手権では石川佳純を破ってベスト8に入った実力者だ。その杜を橋本は3-0とストレートで破ったが、かかった時間が、ラリー間やゲーム間のインターバルを含めてわずか14分9秒だったのである。11-0、11-4、11-1と、3ゲーム通して杜は5得点しかできなかった。橋本の強烈な回転量の「ブツ切り」と、無回転に近い「ナックル」、これに回転軸を傾けた「横回転カット」に対して、杜はネットミスを13回、オーバーミスを12回し、攻撃で得点できたのはわずかに2点のみ。これは杜が橋本のカットの回転をまったく読めなかったことを意味する。本来は「ミス待ち」であるはずの守備的技術が、極めて高いレベルに進化して、攻撃球のような殺傷力を持ってしまっているのが現在の橋本のカットなのである。加えて橋本はローリスクのプレーをしているので自らのミスは皆無に近い。その結果のスコアなのである。最後は杜が戦意を喪失してわざとサービスをミスした(次球のための構えをしなかったことでそれがわかる)ほど一方的な試合だった。

 橋本は3回戦で世界ランキング5位の王芸迪(中国)と対戦して敗れた。橋本は王に対して2連勝中で、それ自体が大変なことだが、王はかつてないほど慎重なプレーと確実な攻撃で橋本を下した。勝った瞬間、王は頭上に両手を高々と挙げて笑顔で喜びを表した。中国選手が日本選手に勝ってこれほどの喜びを表すことは極めて珍しい。それほどまでに橋本は中国の脅威となっているのである。

 日々進化を続けている現代卓球におけるこの活躍は、橋本が絶対実力において女子卓球史上、最強のカットマンとなったことを意味する。その快進撃から当分は目が離せそうにない。

[文:卓球コラムニスト・伊藤条太]

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