リリーバーとして奔走する佐々木(C)Getty Images「小学校5年生ぐらいの時にコーチから言われたことで守り続けて…

リリーバーとして奔走する佐々木(C)Getty Images

「小学校5年生ぐらいの時にコーチから言われたことで守り続けていることはあるか」

 佐々木朗希(ドジャース)が変わった。

 今ポストシーズンからリリーバーとして配置転換された佐々木は、クローザーとしての起用が続いている。現地時間10月6日に敵地で行われたフィリーズとの地区シリーズ第2戦では、チームが1点差に詰め寄られた9回二死一、三塁のピンチでマウンドに立ち、今季の首位打者トレイ・ターナーを2球でピシャリ。リーグ優勝決定シリーズ進出に王手をかける貴重な勝利をもたらした。

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 本職ではない抑え起用もさることながら、メジャーリーグの舞台で、ここまで自信たっぷりに100マイル(約160.9キロ)のボールを投げ込む佐々木の姿を誰が思い描けただろうか。少なくとも、右肩の「インピンジメント症候群」が明らかになり、マイナーでの再調整を言い渡された春先には、想像すらできなかった。

「どんなに状況が悪く見えても、誰かを見捨てたり、諦めたりしては決していけない。なぜなら、本当にどうなるかは誰にも分からない」

 米スポーツ専門局『ESPN』において、そう語っているのは、ドジャースで「ピッチング・ディレクター」という肩書を持つロブ・ヒル氏だ。

 8月に実戦復帰を果たしたマイナーでの登板でも、平均93マイル(約147キロ)にまで球速が低下し、防御率も7点台まで悪化した佐々木の抜本的改善を託されたヒル氏は、9月4日に本人との極秘ミーティングを取り持った。

 いわば、「どん底」にいた佐々木にどこからメスを入れるべきかを思案する中で、ヒル氏が問いかけたのは、基本的な質問の数々だった。「日課にしていることは何か?」「どの球種が一番投げやすいか?」「身体に痛みはあるか?」「小学校5年生ぐらいの時にコーチから言われたことで守り続けていることはあるか」「身体の痛みで慣れてしまっているが、実は正常でないものはあるか?」などを問い、数時間にわたって密なコミュニケーションを交わした。

 ただ、ヒル氏が最もこだわったのは、「フォーム改造を無理に押し付けないこと」。これは「アキュゼーション・オーディット(疑念点の整理の意)」という考え方に基づくもので、時間を要してでも、佐々木本人が納得した上でアイデアを実戦させていくというプランだった。

 そして、球速の著しい低下に思い詰めていた本人に、身体の使い方の変更を持ち掛けた。投球時に足を大きく上げる独特なフォームを用いる佐々木にとって軸足となる右足の使い方は生命線となる。そこで同氏は、右足の膝をつま先の真上に置くように曲げることで骨盤が前に傾きすぎる傾向を解消できると提案。3時間にわたった熱心な説明を受けた佐々木は「いけます」と決断したという。

 この当時のやり取りを伝えた『ESPN』は、こう記している。

「ササキは、アメリカ人が投球メカニクスをどう見ているかを懸念していた。そして、ドジャースの投手たちが怪我を負った回数の多さ、そしてヒルが自分の立場を理解できないのではないかという懸念も抱いていたかもしれない。しかし、ヒルはササキが自分に苛立っている、もしくは嫌っていても構わないと考えた。とにかく彼を良くすることだけを気にかけていた」

ロバーツが驚いた佐々木の「殺気」

 同局によれば、佐々木の改善方法はドジャースが伝統的に用いてきた手法とは一線を画していた。通常、同球団は投手たちに修正案を試させる前に、段階的なプロセスを取り組ませるのだが、チームドクターであるニール・エラトラッシュ医師の治療を受けて万全の状態にあったために、佐々木は即座に投球練習での施行を求めたという。

 ヒル氏に抜群の信頼を寄せた佐々木は「一日も早く試したくてたまらなかった」と新たな投球フォームを試行。初ミーティングから2日後の9月6日にブルペンで投球練習を実施。いきなり球速は95〜97マイル(約153〜156キロ)にまで上がった。これはヒル氏をはじめとする首脳陣を驚かせる成果だった。

 球団のバイオメカニクス専門家たちの指導を受け、変貌を遂げた佐々木。懸念を抱かなくなった彼の起用を躊躇させるものは何もなかった。中継ぎへの配置転換を決めたデーブ・ロバーツ監督も、再び闘志を漲らせる23歳の若武者を目の当たりにし、「彼には行ったんだよ。今の君は『今は違った表情をしている。殺気を帯びた表情をしている』とね」と褒めちぎる。

 今や守護神として定着し、声価を高めている佐々木。投げるたびに自信を増している現状は、懇切丁寧に接したスタッフたちの支えなしにはありえない。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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