ジャパンラグビー リーグワン ライジング20252025年9月27日(土) 栗…

ジャパンラグビー リーグワン ライジング2025
2025年9月27日(土) 栗田工業昭島グラウンド
クリタウォーターガッシュ昭島 21-14 日野レッドドルフィンズ

リーグワンライジング プレーヤーエピソード[WG昭島]


クリタウォーターガッシュ昭島の川瀬大輝選手(提供:クリタウォーターガッシュ昭島)

引退宣言の撤回、そしてリーグワンライジングでの活躍。決して飾らない、30歳のラグビー小僧

「今季で引退するつもりです」

そう語ったのは、昨季の最終戦、狭山セコムラガッツとのゲームを終えた直後のことだった。

だが、ジャパンラグビー リーグワン ライジング2025第1週の日野レッドドルフィンズ(以下、日野RD)戦のスターティングメンバーに、クリタウォーターガッシュ昭島(以下、WG昭島)の川瀬大輝の名前があった。川瀬の先発出場は約2年7カ月ぶりのことだったが、そんな時間のブランクなど、彼のプレーからは微塵も感じられなかった。ブレイクダウンで見せた強さ。得意のスティールではターンオーバーを奪い、さらに自らトライも記録してみせた。ピッチを駆ける姿に、観客席からは自然と歓声が沸いた。

引退の意思を翻した理由を問うと、彼は肩の力を抜いた様子でこう笑った。

「体が元気ですし、ラグビーが好きなので。5月の最終戦が終わって、1カ月くらい考えて決めました」

どこまでも川瀬らしい、飾らない言葉だった。

今季、彼は「けがをしない体づくり」を最優先に掲げ、コンディションを整えることからスタートした。「もう一度イチから」という言葉が、30歳のベテランであることを忘れさせる。日野RD戦では、その取り組みが結果として表れた。スティールのタイミング、フィジカルの当たり、そして接点での執念。随所に彼らしさが光っていた。そして何よりラグビーができる喜びが体からあふれていた。

「相手より早くボールを奪うというのを意識してプレーしました。何本かは取れましたが、全部は無理だったし、反則もしちゃいました。ブレイクダウンに突っ込みすぎました。そこは反省です」

淡々と語るその言葉の裏に、冷静なプレーの自己分析がある。経験に甘えず、常に改善を探る姿勢こそ、彼が再びフィールドへ戻ってこられた理由でもある。

チームも、昨季から大きく変貌を遂げた。新戦力が加わり、組織全体としてもまだ発展途上にある。

「まだ完全ではないけど、この試合をきっかけに積み上げていけると思います。今季は全試合出場するのが目標です」

若い選手が多く在籍するWG昭島において、川瀬の存在は大きい。リーダーシップを前面に出すタイプではないが、そのプレーと振る舞いが、チームに安定をもたらす。実戦を通じて、彼が後輩たちに伝えられることも多い。

「細かい部分しか伝えられないです。ラインアウトのジャンプの入り方とか、リフターの上げ方の意識とか、寄り方とか。モールでの肩の位置や低さもそう。自分がやってきたことを、少しでも伝えられればと思います」

ディフェンスの要として、この試合での川瀬の貢献も見逃せなかった。

「4フェーズを守り切って、ターンオーバーを狙うことを今季は目標に掲げています。無理な場面でもラインを崩さず、前に出る。後半の残り10分はすごくいいディフェンスができて、ターンオーバーも取れたので、練習の成果が出せたと思います」

その表情には、久しぶりの試合を心から楽しんだ余韻が漂っていた。

「久しぶりに試合に出られて楽しかったですし、勝てたのがうれしかった」

その姿は、まるでプロ1年目の新人のような、純粋なラグビー小僧のそれだった。昨季限りで引退した同期の濱副慧悟が「引退しないことを喜んでいた」と笑ったのもうなずける。ただ目の前のプレーに全力を注ぐ。そんな在り方が、川瀬という選手の魅力だ。

このシーズンが、彼にとって最後になるのか、それともまだ続くのか。それはまだ分からない。

だが確かなのは川瀬がいま、ラグビーと正面から向き合い、心から楽しんでいるということだ。

(匂坂俊之)