日本女子プロサッカーリーグ、WEリーグは5シーズン目を迎えた。現在、9月23日に前倒しで第13節を戦った日テレ・東京ヴ…

 日本女子プロサッカーリーグ、WEリーグは5シーズン目を迎えた。現在、9月23日に前倒しで第13節を戦った日テレ・東京ヴェルディベレーザが首位に立っているが、INAC神戸レオネッサが2ポイント差、三菱重工浦和レッズレディースがさらに勝点2差で追っている。これまで通り、この「3強」が優勝争いを繰り広げると考えられるが、新監督の就任や選手の移籍など、この3チームにも、いくつもの大きな変化があった。そのあたりを含めて、サッカージャーナリスト後藤健生が「3強の現状」、今シーズンの「注目ポイント」、注目選手を徹底解説する!

■日本の「女子サッカーの印象」を一新

 ベレーザは、昨季は3バックで戦うことが多かったが、新監督に就任した楠瀬直木監督は4バックに変更している。

 だが、ベレーザはこの夏は移籍での出入りが少なかったことで、昨シーズンまでの陣容のまま戦えている。CBには土光真代や村松智子といったベテランを置き、昨年ともに成長著しかった菅野奏音と眞城美春の2枚のボランチがバランス良くプレーしている。

 菅野は広いスペースをカバーしながら攻撃の組み立てを行い、天才と呼ぶにふさわしい眞城も守備の仕事でも貢献しながら、観客や相手選手の意表を突く天才的なパスで決定機を演出。自らもトップに上がってゴールを狙う(ボランチを務めながら、第7節までに3ゴールを決めた)。

 右サイドには昨年のWEリーグでMVPを獲得した山本柚月、左サイドには北村菜々美がいてサイドからの攻撃も強い。

 そして、その完成度の高いチームに塩越柚歩が合流。塩越は高さのある選手であり、ダイナミックな動きをすることで、従来の日本の女子サッカーのイメージを変えた選手。これからチームにフィットしていけば、ボールテクニックを重視する(重視しすぎる)傾向が強いベレーザの(読売サッカークラブの)サッカーに新しい強みを加えていくことだろう。

 I神戸では昨季に加入した吉田莉胡がこれまで6ゴールと活躍している。サイズもあり、スピードもあるいわゆる総合的ストライカーであり、また運動量を生かしてサイドでもプレーするアタッカーだ。エルフェン埼玉にいる時は孤軍奮闘していた吉田。I神戸ではトップ下の成宮唯などから質の高いパスの供給を受けて点を取ることに集中できる環境で、才能を花開かせたようだ。成宮は、現在のWEリーグきっての攻撃的MFだ。

■「時間をコントロールする」特別な才能

 若手の活躍にも注目すべきだろう。

 すでにA代表にも選出されたベレーザの眞城は日本中から注目される選手となっている。テクニックの高さと遠いスペースまで見通せる戦術眼を持つMFだ。また、ボールを受けて、そこでパスのリズムに変化を加えることによって味方がスペースに入り込むのを待ったり、相手DFの足を止めたりできる。つまり、時間をコントロールする特別な才能を持った選手だ。

 ベレーザではボランチでプレーしながら、得点機にはしっかりゴール前に飛び出して得点にも絡み、今季もすでに3ゴールを決めていることは先ほども紹介した。

 7対0で大勝したジェフ千葉レディース戦で、楠瀬監督は大量リードで余裕がある中、79分にトップの樋渡百花に替えてベテランMFの宇津木瑠美を投入し、眞城をトップに置く采配を行った。

 眞城は昨季もほとんどボランチで起用されていたが、松田岳夫前監督も「本来なら前のポジションに置きたい」と語っていた選手だ。楠瀬監督がこれから眞城をどのように使っていくのかにも注目したい。

■新監督の3強「まだ本調子には遠い面も」

 18歳の眞城は最も注目すべき若手選手だが、浦和にも16歳(10月で17歳)の注目選手が現われた。

 4-1-4-1のアンカーを任されている平川陽菜だ。角田の海外移籍でボランチのポジションに空白ができた浦和。そのショックなのか、9月6日のマイナビ仙台戦では1対2の敗戦を喫してしまったが、その後半から堀監督は平川をアンカーで起用。その後のエルフェン埼玉、I神戸の試合では平川は先発で起用された。

 非常に柔軟な動きができてボール扱いが正確で相手からボールを隠すようにキープするのがうまく、なかなかボールを失わない。しかも、このポジションでのプレーに慣れてきたのか、I神戸戦では守備面でも素晴らしい活躍を見せた。

 相手の狙いを察知してタイミングよく体を寄せてボールを奪い切ることができるのだ。無理なタックルなどせずに立ったままでボールを奪え、しかもキープ力が高いから、奪ったボールを確実に攻撃につなげることができる。

 角田楓佳の海外移籍で平川がポジションを与えられたように、最近は女子サッカーでも若い選手がどんどん海外クラブに移籍するようになっており、男子と同じように日本代表の大半が海外組という状況になっている。

 そして、海外移籍した選手のポジションを埋めるために若い選手に出場機会が与えられ、それが若手の成長につながるサイクルが出来上がりつつある。

 こうして、今シーズンも“3強”中心の展開で昨季以上にゴールが量産されているWEリーグだが、新監督を迎えた各チームはまだ本調子には遠い面もある。

 たとえば、I神戸が相模原に大勝した試合でも、前半の途中からは相模原の前からのプレスを受けてパスをつなげなくなってしまった時間帯もあった。もし、相模原に決定力のあるFWがいたら、勝敗はどうなっていたか分からない。

 つまり、I神戸には、まだ、ハイプレスをかわすだけのオートマティズムがまだ確立されていないのだ。

 だから、“3強”にはまだまだ伸びしろがある。新監督の戦術が浸透していけば、“3強”の攻撃力はさらに上がっていくに違いない。今後の戦いに注目したい。

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