はじめに 「脂質異常症は薬を飲まないと改善しないのでは?」と思う方も多いかもしれません。しかし実際には、運動習慣を取り入…

はじめに

 「脂質異常症は薬を飲まないと改善しないのでは?」と思う方も多いかもしれません。しかし実際には、運動習慣を取り入れるだけで血液中の中性脂肪やHDL(善玉コレステロール)が改善することが多くの研究で証明されています。

今回は、脂質異常症に効果的な運動の種類や実践方法について、科学的根拠をもとに解説します。

【関連記事】脂質異常症の症状とは? ― 自覚のない“サイレントリスク”に気づくために

1. 運動が脂質異常症に与える効果

(1) 中性脂肪を下げる

有酸素運動を続けると、血液中の中性脂肪が分解されやすくなります。特に食後の中性脂肪上昇を抑える効果が確認されています。

(2) HDLコレステロールを増やす

定期的な運動はHDLを増やし、動脈硬化を防ぐ力を高めます。

(3) LDLコレステロールの質を改善

運動はLDLの粒子を大きくし、「小型で酸化されやすいLDL(悪玉中の悪玉)」を減らすことが知られています。

(4) 体重・内臓脂肪の減少

体重が減ると血中脂質も改善しやすくなります。特に内臓脂肪の減少は中性脂肪の低下に直結します。

2. 脂質異常症に効果的な運動の種類

(1) 有酸素運動

・ウォーキング、ジョギング、自転車、水泳など
・週150分以上(1日30分×週5回程度)が目安
・「息が弾むが会話はできる」強度が適切

中性脂肪の低下やHDLの増加にもっとも効果的。

(2) レジスタンス運動(筋トレ)

・自重トレーニング(スクワット、腕立て伏せなど)
・ダンベルやゴムバンドを使った負荷運動
・週2〜3回、10〜15回を1セットで全身をバランスよく

筋肉量を増やすことで基礎代謝を上げ、脂質代謝改善に貢献。

(3) 生活活動の工夫

・エレベーターではなく階段を使う
・買い物は歩いて行く
・デスクワーク中も1時間に1回は立ち上がって動く

小さな積み重ねが「総活動量」を増やし、脂質異常症改善につながります。

3. 運動を始める際の注意点

・無理は禁物:急に強い運動をすると関節や心臓に負担がかかります。
・メタボ体型の方:まずはウォーキングや自転車から。
・持病のある方:糖尿病・心臓病・高血圧のある場合は医師の指導を受けて。

4. 研究からわかる「運動の力」

・メタ解析によると、有酸素運動は中性脂肪を約5〜10%低下させる効果があると報告されています(Cornelissen & Smart, 2013)。
・筋トレを加えると、HDLの増加効果がさらに高まることも示されています。
・ウォーキング1日8000歩以上で脂質異常症の発症リスクが有意に下がるとの疫学研究もあります。

まとめ

・脂質異常症は運動で大きく改善できる病気。
・有酸素運動+筋トレの組み合わせが最も効果的。
・日常生活の「ちょっとした動き」も積み重ねることが重要。
・検査と運動指導を組み合わせ、池尻大橋せらクリニックが無理のない改善をサポートします。

参考文献

1.日本動脈硬化学会. 『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022』
2.Cornelissen VA, Smart NA. Exercise training for blood lipids: a systematic review. J Am Heart Assoc. 2013
3.Pedersen BK, Saltin B. Exercise as therapy in chronic disease. Scand J Med Sci Sports. 2015
4.Tanasescu M, et al. Exercise type and intensity in relation to coronary heart disease in men. JAMA. 2002

[文:池尻大橋せらクリニック院長 世良 泰]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

【関連記事】「脂質異常症」という症状をご存知ですか?

【関連記事】「こむら返り」は体からの危険信号

【関連記事】その症状、肝機能低下のサインかも!「肝臓」と「疲れ」のつながりについて

池尻大橋せらクリニック院長・世良 泰(せら やすし)

慶應義塾大学医学部卒。初期研修後、市中病院にて内科、整形外科の診療や地域の運動療法指導などを行う。スポーツ医学の臨床、教育、研究を行いながら、プロスポーツや高校大学、社会人スポーツチームのチームドクターおよび競技団体の医事委員として活動。運動やスポーツ医学を通じて、老若男女多くの人々が健康で豊かな生活が送れるように、診療だけでなくスポーツ医学に関するコンサルティングや施設の医療体制整備など幅広く活動している。