ディアンズの成長は目を見張るものがあった(C)産経新聞社 2025年パシフィックネーションズカップ決勝はラグビー日本代表…

ディアンズの成長は目を見張るものがあった(C)産経新聞社
2025年パシフィックネーションズカップ決勝はラグビー日本代表(世界ランク13位、以下ジャパン)とフィジー代表(同9位)との間で、アメリカ・ユタ州で現地時間の9月20日に行われ、ジャパンは27-33で敗れて昨年に引き続き準優勝で大会を終えた。フィジーの優勝は3年連続で通算8回目。ジャパンはフィジーに3連敗となり、通算成績はジャパンの4勝17敗となった。
実に惜しい敗戦だった。試合開始早々にラインアウトからの待望の「決めムーブ」で、江良颯が先制トライを奪った。その後前半20分にPGで追加点を奪うまでは、隙のないディフェンスで、どのプレーヤーでもどんなシュチュエーションでもトライを狙いにくるフィジーの奔放なランプレーを食い止め続けた。
しかし、そこで真正面からのパワープレーに固執しないのがフィジーの特徴。前半20分にはジャパンのいまだ解消されていない、ハイボールへの対応という弱点を見事に突いて、171センチとジャパンのBK陣の中で最も身長の低いCTBチャーリー・ローレンスに向けてキッキオフのボールを蹴り、そこに高身長な選手を走り込ませるという奇襲からボールを奪って一気にトライまで持っていく。さらに、密集のこぼれ球を拾い上げてからの逆襲、キックパスの活用、個人技によるラインブレイクからの分厚いフォローランと、フィジーのストロングポイントをこれでもかと見せつけて4連続トライを奪う。
後半に入っても、ジャパンは劣勢を強いられた。ディフェンスのわずかなギャップをつかれて右WTBジョジ・ナサヴァの快走から5トライ目を奪われ、10-33と大差をつけられてしまった。
「いつか見た光景」が、また繰り返されるのか…。試合開始早々はいい調子の試合運びをするものの、ミスやデイフェンスの破綻から大量失点し、あとは相手の余裕を持ったディフェンスに一か八かの攻撃を仕掛けては、最終的にボールを取り返されて相手に得点に繋げられてしまう、という展開――。そんな嫌な予感が頭をよぎった。
しかし、この日のジャパンはそうした悪しき轍を踏むことはなかった。トライを奪われた直後のプレーで、素早いパス回しでWTB長田まで回してラインブレイクした後に、フォローで走り込んできたFB中楠一期へとボールが渡り、見事にトライを奪ったのだ。
これで息を吹き替えしたジャパンは、このPNCの各試合で見られた、後半になっても落ちないフィットネスを武器に、攻勢を強めていく。当初出場予定だったディラン・ライリーに代わって先発出場した広瀬雄也、ポジションにかかわらず変幻自在のライン参加を見せた木田、長田の快走で再三ゴール前に迫り、後半20分にはラインアウトモールから江良が押し込んでトライ。その後、後半25分過ぎにはPGを1本追加して27-33と1トライ1ゴールで逆転可能な点差に詰めた。
そこから33分過ぎまではフィジーに2人のシンビンが宣告されたこともあり、数的優位な状態が続いたのだが、残念ながらフィジーの牙城を崩すことができず、そのままの点数で試合終了。お互いのチームのメンバーは違うものの、昨年の決勝では17-41と大差をつけられて負けた相手に対し、あと一歩のところまで追い詰める大接戦を演じた。
この試合のよかった点は、ディフェンスがそれなりに健闘したことだ。取られたトライは全て相手の技術が上回ってのもので、ある意味すっぱりと切り替えて次のプレーに集中できるものばかりだった。もちろん、失点は少ないほど良いので、バックスリー以外のプレーヤーのハイボール処理は依然として課題であり続けているし、パワフルなランナーをスピードに乗せる前に止めるディフェンス網の再構築も急務だ。短時間での大量失点を防ぐために悪い流れを断ち切るマインドセットも課題の一つだろう。
セットプレーに目を転じると、スクラムはやや優勢で、反則を誘う場面も少なからずあったが、3本スチールを喰らったラインアウトはまだ課題であり続けている。ただしこの試合に関してはスロワー江良のミスというよりはフィジー側にサインを読まれていた故の被スチールだったように見受けられたので、今後のサインの練り直しを期待したい。
個人として目立ったのは、江良や竹内柊平のルーズボールへの反応の素早さ。これは「超速ASONE」を旗印に鍛えてきた一つの成果だろう。この日3回のコンバージョンと2回のPGをすべて決めた李承信のキックも大きな武器として計算できる。
そしてこの大会最大の収穫はキャプテンに抜擢されたワーナー・ディアンズの急成長だろう。「地位が人物を作る」というビジネス書によく書かれているフレーズそのままに、キャプテンという地位を任されたことで、明らかに一皮剥けた。ピンチにせよチャンスにせよ「ここぞ」という場所には必ず彼の姿があったし、そのすべての場面でピンチを防ぐ、あるいはチャンスを広げることに寄与していた。「世界最高のLOになる」という彼の言葉が俄然真実味を帯びてきたことが伺える大活躍だったと言って良いと思う。
結果は残念だったが、数多くの収穫が手にできた大会だった。10月末からのテストマッチはいずれもランキング上位の強豪国との対戦だが、このままの成長曲線を描けるのなら大いに期待できると思う。
[文:江良与一]
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