パリ五輪で銀メダルを手にし、競泳界にその名を刻んだプラウド(C)Getty Images 前代未聞の大会に新たな元オリン…

パリ五輪で銀メダルを手にし、競泳界にその名を刻んだプラウド(C)Getty Images

 前代未聞の大会に新たな元オリンピアンの参加が決定した。

 現地時間9月11日、昨夏に行われたパリ五輪の競泳50メートル自由形で銀メダルを手にしたベン・プラウド(英国)が来年5月に米ネバダ州ラスベガスで開催予定となっているドーピングの使用を容認する国際大会「エンハンスト・ゲームズ」への参戦を決めた。

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 異例と言える「人間の新たなカテゴリーを創造する」という目的の下で開催される同大会は、「Enhanced(強化された、改良された)」という名の通り、ステロイドやヒト成長ホルモンなど国際大会で禁止されている薬物の使用を容認。陸上(100メートル、女子100メートルハードルと男子110メートルハードル)、水泳(50メートルと100メートルの自由形およびバタフライ)、重量挙げ(スナッチおよびクリーン&ジャーク)の3競技で、人間の限界値の見極めと世界新記録の更新を目論む。

 無論、今年6月の開催決定以降、大会には批判が殺到。専門医が禁止薬物の種類や摂取量を徹底管理する条件はあるにせよ、あまりにも危険な試みに米国内外から中止を求める声も相次いだ。

 だが、大会出場を決意するアスリートが尽きないのも事実である。今月17日には、22年の世界陸上において男子100メートルで覇者となり、昨夏のパリ五輪でも銅メダルを手にした名ランナーのフレッド・カーリー(米国)が参加を表明。スポーツ界全体でも小さくない波紋を呼んでいた。

 世界水泳連盟と世界陸上連盟は揃って、同大会に参加した選手の資格を停止とする方針を決定。「クリーンなスポーツへの揺るぎない取り組みを強化する」(世界水泳連盟の公表より)と“永久追放”の構えを見せている。

 ではなぜ選手たちは身体の危険とキャリアのリスクを冒してでもエンハンスト・ゲームズに出場するのか。30歳のプラウドは、英公共放送『BBC』の番組内で「(大会に出れば)莫大な金銭的なインセンティブが約束される。それが重要ではないと言ったら嘘になる」と証言。大会出場によって得られる賞金が決断を後押ししたと自身の考えを赤裸々に明かしている。

「僕のような選手がたった1回のエンハンスト・ゲームズで獲得できる金額を稼ぐには、世界選手権で13年間タイトルを獲得し続けなければならない。だから、経済的に言えば、全く別次元の話なんだ。これだけの大金を稼げば、自分自身はもちろん、家族、そして母を支えるチャンスが与えられる。これは30歳になる僕にとって、絶対に逃せないチャンスだったんだ」

 当然なら出場によって五輪をはじめとする過去の世界大会で得た名声は失う。しかし、「僕の名声や世間の見方はそれほど重要ではなかった」と強調するプラウドは、こう続けている。

「人生で最も大切な15人、もしくは20人の支持を得られるかどうかだけが僕にとっては問題だった。もしも、彼らが決断の理由を理解し、支持してくれるなら、それだけで幸せだ。それにもう自分はオリンピックに3回も出場し、素晴らしいチャンスに恵まれた。今回は、約15年の歳月をかけて磨いてきたスキルを活かす別のチャンスが来たんだ。もちろん、まだ手にしていない世界記録や金メダルもあるが、今の僕がトライするには少し無理がある」

 薬物の使用についても「リスクはあるが、そこには大きな偏見がある」と断言するプラウド。エンハント・ゲームズに人生を懸ける彼らは、人体問題を危険視する世間の風潮など意に介してはいない。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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