アフマダリエフに反撃の余地を一切与えなかった井上(C)産経新聞社 時間にして36分。井上尚弥(大橋)は「過去最強の敵」を…

アフマダリエフに反撃の余地を一切与えなかった井上(C)産経新聞社

 時間にして36分。井上尚弥(大橋)は「過去最強の敵」を翻弄し、支配した。

 9月14日に名古屋のIGアリーナで行われたスーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチ12回戦で、統一王者の井上尚弥(大橋)は、WBA世界同級暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)に判定勝ち(3-0)。史上最多タイとなる世界戦26連勝を飾るとともに、プロ戦績を31戦無敗(27KO)にまで伸ばした。

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 ド派手なKO決着ではなかった。それでもファンが酔いしれ、熱心な識者から高く評価される試合展開で、井上は極上の12ラウンドを戦い切った。

 今年5月のラモン・カルデナス(米国)戦で強打を被弾してダウンを取られていた井上は、その経験をふまえ、この“名古屋決戦”では強打を徹底警戒。序盤に近接戦に持ち込もうとしたアフマダリエフを巧みなステップワークで翻弄。ポイント差を考慮して中盤から相手が積極果敢に打ちに出ても「今回は『我慢』がテーマ」と、好戦的な展開に付き合わず、最後までアウトボクシングを貫いた。

「モンスター」と評される彼の異名が物語るように、井上はいかなる相手もKOでなぎ倒すべく、よりアグレッシブに攻める姿勢を見せてきていた。だからこそ今回のスタイルは“らしくない”とも言えた。

 しかし、その変化、いや、進化が敵陣営に「誤算」を生じさせた。試合後にドーピング検査の都合もあって会見を欠席したアフマダリエフ本人に代わって登壇したアントニオ・ディアストレーナーは、「井上は素晴らしいファイターだし、どんなスタイルでも出来るというつもりではいた。そこに疑いはなかった」と戦前の分析に抜かりがなかったと強調しつつ、こう漏らしていた。

「シンプルに井上が強かったということだ。MJもしっかりと準備を整えて、試合に臨んだが、少しスピードというところで劣ってしまっていた」

 リング上で「スピードの差」は幾度も目に付いた。6回にはアフマダリエフがロープ際に追い込んだが、井上が巧みなフェイントで攻撃をいなし、その刹那に右アッパーと左ボディーの連打を浴びせた。この場面でウズベキスタンの雄は、明らかに井上の素早さに追いつけず、ガードも間に合っていなかった。

 実際、データもスピードの違いを如実に示している。ボクシングのあらゆるデータを集計している米サイト『Comp Box』によれば、井上はアフマダリエフの約1.5倍に相当する合計585発のパンチを炸裂。うち相手にヒットしたパンチは141発で、計376発中62発しか当たっていない挑戦者との格の違いを見せつける形となっている。

 戦前に「イノウエの弱みは下がり方をしらないことだ。ボディーを攻めて、下がらせれば、彼は混乱する」(米YouTubeチャンネル『Pro Box TV』でのジョエル・ディアストレーナー談)と語っていたアフマダリエフ陣営。そんな敵の想定を遥かに上回る総合力で、誤算すら生んだ井上。いまだ底知れぬポテンシャルは、やはり驚異的という他にない。

[取材・文/構成:ココカラネクスト編集部]

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