目にも鮮やかなアシストだった。チャンピオンズリーグ(CL)グループリーグ第4節、ドルトムント対アポエル(キプロス)…

 目にも鮮やかなアシストだった。チャンピオンズリーグ(CL)グループリーグ第4節、ドルトムント対アポエル(キプロス)戦の前半29分。左サイドに出たMFユリアン・ヴァイグルからのパスをペナルティエリア手前で受けた香川真司は、右足ワンタッチでゴール前に流す。すると走り込んだラファエル・ゲレイロはこれをネットに突き刺した。ドルトムントの先制点は香川の技術とスムーズな崩しが光るゴールだった。

「いい形であそこで張り込みたいな、あそこで受けたいなと思っていた。入り過ぎずにうまくいいポジションを取ることを意識した中で、すばらしいボールがきたので、いいボールが出せた。みんながリスクを負って前線に入り込んで、攻撃していかないと、相手の陣形も崩れないですから、そういう意味で素晴らしい崩しだったと思います。いいボールが出せたし、落ち着いていたし、(ゴール前が)見えていました。(ゲレイロが)いいところに走りこんでくれた」



チャンピオンズリーグ、アポエル戦にフル出場した香川真司

 この日の香川を語るには、前日に発表された11月の日本代表メンバーに香川が選ばれなかったという文脈を踏まえる必要があるだろう。ハリルホジッチはその理由として、コンディションや10月の代表戦のパフォーマンスを挙げているだけに、この試合では活躍しないわけにはいかなかった。目にものを見せてやるという思いのこもった一戦だったはずだ。

 アポエル戦の香川は、中盤で攻撃を作りながら、ゴール前にも頻繁に顔を出した。得点こそなかったが、アシストも含めてチームの中心としての働きを見せたことに異論はないだろう。

 だが試合はアポエルに追いつかれて1-1のドローに終わった。ドルトムントは最近6試合でわずか1勝。しかもその1勝はドイツ杯での格下相手の試合と、苦しい状況に追い込まれている。試合後、選手たちは仏頂面でミックスゾーンを通り過ぎていった。しかし、大方の選手が去ったあとで登場した香川は、思いのほかハキハキと試合について語り始めた。

「勝たなきゃいけなかったので、すごく残念でした。相手が11人、自陣に戻るので、前半は難しかったですけど、ただ、やり続けていればスペースは生まれていた。やり続けたからこそ1点が生まれたし、ちょっとしたスペースが生まれる隙というのは感じ取れていたので、辛抱強くやれていたと思います」

 ひとしきり試合の話をすると、本題に入った。代表落選についてだ。デリケートな話題だが、「代表に入らなかったことについて。正直、驚いているのだけど」と、ストレートに切り出してみた。

 香川は「うーん」と2度発すると、苦笑いを浮かべながら、それまでよりも強い口調で話し始めた。

「正直、やはり(なぜ)このタイミングかなというのは感じます。この試合(ブラジル戦とベルギー戦)はおそらくワールドカップを想定しなきゃいけない試合で、テストマッチという感覚では僕は全く捉えていなかった。もう確実に半年後のワールドカップに向けた、ガチの戦いをして、そして今、僕たちが積み上げてきた戦いをやれる絶好の機会だなと考えていたので、もちろんそこに対する悔しさというか……」

 香川がこの2試合を非常に重要なものと位置づけ、楽しみにしていたことが伝わってきた。だからこそ、外れたことに悔しさが募る。わざわざ「タイミングへの疑問」と言ったことについていえば、悔しさには別の理由もあった。

「メンバーを外れるとしたら、もっと早いタイミングが僕自身あったのかな、と。今はまったく悪い感覚はないですけど、去年、一昨年を含めて、やはり安定感が出てないときがあったので。そこの基準というのはなんとも言えないです。監督が決めることなので」

 今季は先発の回数こそ少ないが、先発した6試合では2ゴール3アシスト。決して悪い状態ではない。だが、現在よりもはるかにドルトムントでポジションを確立できていなかった時期も、遠いアジアへの遠征に召集され、参加し続けてきた。疑問が湧くのも当然だろう。

「僕はまだここで結果を残し続けるだけです。その自信は十分に感じているので。ワールドカップを見据えるしかないし、次のテストマッチが3月なので、そこに向けるしかない。今この段階でどこまでやれるのか、おそらく監督はベストを選んだんですよね? それでどこまでできるか、本当に試されると思うので、それはすごく楽しみですけど」

 不調時でも日本代表に召集され続けたことが、香川の自信となってきたことは確かだ。

「そこ(常に呼ばれること)に信頼を感じていましたし、悪い中でも自分を必要としてくれる。自分自身も代表に対してどんな状況であれ誇りを感じていますので、状態が悪くても、やはり呼ばれることに対する責任は全うしてきたつもりです。あとは監督が判断するだけです。

 僕たち(日本代表)はやっぱりヨーロッパの代表チームと違って、まだまだ戦力的にもヨーロッパの上のクラブでやっている選手もいないですし、やっていても試合に出続けるという保証はない。そこで代表に呼ばれることは、やはりひとつの誇りだったので。それは薄れることはないし、僕自身の目標が消えることはない。次の、もう1回しかないですが(来年3月に行なわれる親善試合は最後のメンバーテストだと考えられる)、僕はしっかりとそこに照準を合わせて、やり続けていくだけなのかな、と」

 単に感覚的なものだけではなくて、結果もついてきているからこそ、自信はあるという。

「今年の1月くらいから、あらためて(いい)感覚は得ていたんです、本当にいいプレーを続けていけると。このレベルの高い競争の激しい舞台でそういう手応えは感じていた。このシーズンは僕自身にとってすごく大事ですし、何よりワールドカップ前のシーズンでコンディションや結果が大事なので、そう想定して取り組んできた。こうやって結果を出し続けていくしかできることはないので、自分が積み上げてきた中で自信を感じているので、僕はそれをやり続けるだけです」

 ハリルホジッチは直前まで門戸を開けているのだろうか。香川がメンバーに復帰する余地はまだあるのだろうか。

「僕は別に個人的に話をしたりはしてないので、まあそこ(落選)の理由はわからないですし、逆にぜひ聞いてみたいところはある。僕自身はそれなりにやってきたと思うけど、何かしらの理由があるわけですし、そこは十分に話し合う必要があると思っている。僕も積み上げてきたものがあるし、監督の話は聞いてみたいです」

 ハリルからの直接の説明はなかったようだ。そして香川は「それなりにやってきた」「積み上げてきたものがある」と強い口調で話しながら、選ばれた選手へのエールと期待は忘れなかった。

「逆にこの2試合で結果が出た場合、すごく評価されるべきだと思っているし、ワールドカップを想定した中でどれだけやれるのか、やれたら俺は受け入れるしかない、もちろん。

 今の(代表の)サッカー、チームの流れを見ても、僕が合っているのかといったら、わからないところも(ある)。もちろんクエスチョンマークが常々ついてるのもわかっている。ただ、ワールドカップですから。この2試合で見えてくるところが十分あると思っているので、自分自身は出られないですけど、日本代表の現状を測るうえで大事な試合なので、本当にガチの戦いをぜひしてほしいと思います」

 言葉に込めた熱に、悔しさ、無念が強く感じられる。一方で、立ち止まっているわけにいかないと、すでに気持ちを切り替えた様子も見せた。香川はマンチェスター・ユナイテッド時代も、トーマス・トゥヘルのドルトムント時代も、追い込まれながらそれを跳ね返してきた。日本代表で初めて追い込まれた今回は、どのような変化と成長を見せるだろうか。