肩を組んだ2人を、国立競技場の観客が大きな拍手で包んだ。 男子3000メートル障害、予選3組の最終盤。最後の障害を11…
肩を組んだ2人を、国立競技場の観客が大きな拍手で包んだ。
男子3000メートル障害、予選3組の最終盤。最後の障害を11人中11番目で越えようとしていたコロンビア選手が、疲労でもたついていた。その様子をみると、直前を走っていたファン・デ・ベルデ(ベルギー)が引き返した。
左腕を相手の背中に回し、二人三脚のようにして約50メートルを走った。コロンビア選手が10位、ベルデは1秒遅れの11位でレースを終えた。
ベルデの自己ベストは8分14秒40と、本来なら予選を通過できる力を持っていた。しかし、この日はレース中盤で転倒し、「自分のせいでレースが終わった」と思っていた。
そんな時に見かけたのが、自分と同じように苦しんでいた選手だった。「特に深く考えていたわけではなく、一瞬の判断だった」。気づいたら競争相手を抱えていたという。
ベルデ自身、過去の大会で肩をケガした経験がある。100%の努力をしていても一瞬で無駄になってしまう。レースがいかに残酷かは身をもって知っていた。だから自然に体が動いたと振り返る。
「競争相手を少し助けただけだよ。それで、みなさんが自分のことを少しでもポジティブに覚えてくれるかな」
レース後のミックスゾーンで記者とそんなやり取りをしている時、大会のスタッフがベルデの元にやってきて「イエローカードを提示します」と告げた。陸上の競技規則では、他の選手に力を貸すような行為は警告されるとある。
「ポジティブに覚えてくれるね」とベルデは笑った。(藤野隆晃)