世界的な人気を誇るバルセロナとACミランの「国内リーグ公式戦」が、初めて国外で開催されることになった。開催地であるアメ…

 世界的な人気を誇るバルセロナとACミランの「国内リーグ公式戦」が、初めて国外で開催されることになった。開催地であるアメリカ、オーストラリアの人々にとって、憧れのチームの真剣勝負を生で観戦できる絶好の機会だが、サッカージャーナリストの大住良之は、この開催には「大きな危険」をはらんでいると警鐘を鳴らす。どういうことか? 

■テレビからの「放映権収入」が第一に

 本来、プロサッカーの「マーケット」とは、第一には、「ホームタウン」で開催されるホームゲームに訪れる地元のファンであり、第二には、試合やメディアでの露出を見込んだスポンサーであり、そして第三には、テレビからの放映権収入である。これが「大原則」である。

 プレミアリーグは、それまでの「イングランド・リーグ」では各クラブが独自にホームゲームの放映権を売っていた状況から、リーグが一括して管理・販売し、それをクラブに配分するという画期的な手法をとることで1992年にスタートした。当時勃興しつつあった衛星放送を使った多チャンネル化、契約者獲得競争の激化による放映権の高騰を見込んでのものだった。そして、その手法は見事に成功し、またたく間に世界一の収益を挙げるリーグとなった。

■プレミアリーグ隆盛の「皮肉な出発点」

 それを後押ししたのが、皮肉なことではあるが、1995年に世界のサッカー界を揺るがした「ボスマン判決」だった。

 それ以前のサッカーでは「保有権」という慣習が認められていた。選手との契約期間が満了しても選手は自由に移籍できるわけではなく、満了後の選手の移籍に関してもクラブは「保有権」に基づく移籍金を請求することができた。

 欧州連合(EU)の司法裁判所が1995年12月15日に出した判決は、サッカー選手を普通の労働者とまったく同様に扱い、選手を拘束できるのは「契約」だけとし、「保有権」の完全廃止を宣言するものだった。それは当初EU加盟の15か国(現在は27か国、当時はイギリスもEUに加盟していた)だけを縛るもので、UEFAだけでなくFIFAもこの「サッカー界の慣習」の廃止に反対の立場だったが、現在では、世界中でEU同様の考え方となっている。

■巨額の収入で「スター選手」を買いあさる

「ボスマン判決」には、もうひとつの重要な要素があった。EUの基本法には、「圏内を労働者が自由に移動する権利」が保証されていた。EU圏内の国民は、どの国ででも自由に働くことができることになっているのだ。だが当時の欧州のプロリーグには、どこにも「外国人選手制限」があった。自国の選手を保護し、代表チームの戦力を維持するためのものだった。「ボスマン判決」はそれも「違法」としたのである。

 サッカー界が挙げて反発した「ボスマン判決」だったが、イングランドのプレミアリーグを大きく飛躍させたのは、まさにこの判決だった。いち早くテレビ放映権から巨額の収入を得るようになっていたプレミアリーグのクラブは、EU圏内の国々からスター選手を買いあさり、残った「EU外の制限枠」をブラジルやアルゼンチンのスターの獲得にあてた。そして、またたく間に世界最高のリーグとなったのである。

 世界的スターの存在、その選手たちが毎週繰り広げる最高レベルのサッカー、そして1996年までに立ち見席をなくすと義務づけた「テイラー・レポート」によって一新されたスタジアムの最高の雰囲気――。プレミアリーグは世界のサッカーファンのあこがれの的になり、放映権は世界中で争って買われて、さらにプレミアリーグの収入を増やした。

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