アジア予選で積み上げたプレッシングスタイルを世界仕様にアジャストしていけるか(C)Getty Images 今年6月でア…

アジア予選で積み上げたプレッシングスタイルを世界仕様にアジャストしていけるか(C)Getty Images
今年6月でアジア最終予選が終わり、2026年のワールドカップへ向けた強化試合の第一歩となったメキシコ戦。日本が押し気味に進めつつも、結果はスコアレスドローだった。得点に至らなかったことは残念だが、この試合を通してハッキリと見えたことがある。それは、「この3-4-2-1でW杯優勝を目指すなら、デュエルも世界一でなければならない」ということだ。
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上田綺世を一列下げてメキシコのアンカーに当て、真ん中で人をマッチアップさせる。その上でサイドへ追い込み、堂安律や三笘薫が縦ズレしてプレッシングを仕掛ける。攻撃的な彼らをウイングハーフで起用しておきながら、5バック化して守るのは理にかなわない。高い位置で絡めるように、堂安と三笘を押し出す守備を行うのは当然だろう。
ただし、全部の場面で縦ズレするわけではない。トランジション等の影響で真ん中のマッチアップが外れているとき、あるいは自分の寄せが間に合わないと判断したときは、堂安や三笘は縦ズレせず、背中で相手ウイングを消した中間ポジションを保つ。
この辺りの判断の精度や、立ち位置の取り方は絶妙だ。さらに危険を察知したときの帰陣のスピードも飛び抜けている。個の攻撃力を生かすための3-4-2-1、ファイヤーフォーメーションだったはずだが、いつの間にか、堂安も三笘も守備で代えの利かない選手になっていた。
そして、このサイド縦ズレプレッシングは、アジア最終予選でも見られたが、機能させるためには大きな条件がある。それは「CBとボランチがデュエルで勝ち続ける」ということだ。
1対1でターンされたり、ワンツーされたり、あるいはクサビで起点を作られたりすると「真ん中を抑えている」という条件が無効になり、堂安や三笘は縦ズレするタイミングを失う。また、メキシコが後半に見せたように、3トップを中に寄せてロングボールからシンプルな3対3をねらってきたとき、そこでCB陣が競り勝ってこぼれ球を拾うか、あるいは最低でも3トップの頭を越えるように跳ね返す必要がある。
おそらく、今回の試合はアジアを席巻した攻撃的システムがどこまで通用するのかを計る試金石だったと思うが、答えはシンプルだ。デュエルに勝っているうちは機能する。つまり、メキシコが相手なら機能した。
疲労は問題の一つだ。ファイヤープレスは90分続けられない。後半は両ウイングハーフを伊東純也と前田大然に代え、さらに町野修斗を投入して2トップ型の5-3-2に変更し、相手を引き込んでロングカウンターをねらう形に変わった。あまりパフォーマンスは良くなかったが、こうした控えメンバーを含めた3-4-2-1の変化系の連係が高まれば、おそらく試合運びは改善するのではないか。
ただし、そうした疲労に関わる問題ではなく、そもそも前半からファイヤープレスが通じなかった場合は話が別だ。
たとえば、「フランスやアルゼンチンが相手ならどうか?」と問われれば疑問符が付く。サイドで追い込む前に、クサビやロングボールで真ん中を打開されてしまうかもしれない。これではファイヤープレスが機能しない。その場合はウイングハーフの1枚をサイドバック化させ、ロングボールに対して4対3の優位で対応したり、1枚をサイドハーフ化させて中盤の横幅をコンパクトにしたりと、4バック的な戦い方が必要になるだろう。
もし、ファイヤーフォーメーションの3-4-2-1のままワールドカップ優勝まで貫けるとしたら、それは日本がデュエル世界一になることが必要条件だ。ただし、実際には相手のレベルやコンディション次第で難しくもなる。
森保監督はその課題に直面するまで、転ばぬ先の杖をつくことはなさそうだ。どこまで行けるか、そのギリギリを見極めようとして、実際に転ぶまで続けるかもしれない。
ただ、個人的にはそのアプローチに懐疑的だ。なぜなら強化試合は所詮、強化試合でしかない。メキシコも仕上がりは良くなく、親善試合に似つかわしくない日本の強度に対し、面食らっている程度だった。
いかに森保監督や選手たちがギリギリを見極めようと試合に臨んでも、強化試合のギリギリと本番のギリギリは別物だ。メキシコだって、これが本番ならもっと全然違うサッカーを選択しただろう。ロシアワールドカップのドイツ戦のように。計れないものを計ろうとするより、違う守り方や人の起用など複数のプランを持てるように早く動き出したほうがいい。
戦術に手応えはあったけれども、歯ごたえはなく、ヌルッとした気持ち悪さを感じる強化試合だった。次はアメリカ戦、パラグアイ戦、ブラジル戦と続くわけだが、仮にこの3-4-2-1で貫けてしまった場合は、いよいよヤバい。どんどんわかりやすいチームになっていく。
[文:清水英斗]
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