世界的な人気を誇るバルセロナとACミランの「国内リーグ公式戦」が、初めて国外で開催されることになった。開催地であるアメ…
世界的な人気を誇るバルセロナとACミランの「国内リーグ公式戦」が、初めて国外で開催されることになった。開催地であるアメリカ、オーストラリアの人々にとって、憧れのチームの真剣勝負を生で観戦できる絶好の機会だが、サッカージャーナリストの大住良之は、この開催には「大きな危険」をはらんでいると警鐘を鳴らす。どういうことか?
■ラ・リーガ「公式戦」をアメリカで開催
8月11日、スペイン・サッカー協会(RFEF)は、ラ・リーガ1部のビジャレアルとFCバルセロナから出されていた両クラブのリーグ戦(ビジャレアルのホーム)をアメリカのフロリダ州マイアミで開催する申請を承認したと発表した。実現すれば、欧州の国内リーグの試合が外国で開催される初めてのケースになる。
世界のサッカーを統括する国際サッカー連盟(FIFA)には「国内リーグの試合は自国のサッカー協会の管轄区域内で開催する」という規則がある。もっともこの規定はさまざまな圧力で見直しを迫られているというが、まだ結論を得ていないので現時点では規則自体は生きている。
RFEFの承認は9月11日に欧州サッカー連盟(UEFA)で協議されるが、UEFAだけでなくアメリカ・サッカー協会(USSF)、そしてもちろんFIFAの承認がなければ、試合を実現させることはできない。まだまだ予断を許さない状況だ。
■「ルーツを奪う行為」サポーターの大反発
だが、こうした動きはスペインだけにとどまらない。イタリアのセリエAでも2026年2月に予定されている「ACミラン×コモ」をオーストラリアのパースで開催する申請が出され、イタリア・サッカー協会(FIGC)はすでに承認する意向を表明している。
もちろんサポーターからは大きな反発が生まれている。「クラブのルーツを奪う行為だ」と、ビジャレアルのサポーターは絶対反対の意向を表明し、スペインや欧州のサポーターズクラブ連合からは、FIFAに対し、「スポーツの誠実さを損ない、通常のホーム・アンド・アウェイのリズムを崩し、クラブを伝統やコミュニティーから切り離された娯楽商品に成り下がらせる」と手厳しい書簡が送られている。
「もしこれが認められれば、サッカー界は混乱のパンドラの箱を開けることになるだろう。国内サッカーと私たちのクラブが育ったコミュニティーの保護よりも近視眼的な商業的利益を優先させることはできない」と、その書簡には続けられている。
もちろんクラブも「サポーター対策」を考えている。ビジャレアルによれば、シーズンチケットの保持者で観戦を希望する者には、入場券を用意するだけでなくマイアミまでの航空運賃を補償し、観戦を希望しない者にはシーズンチケット総額の20%を返金するという。
■プレミアで波紋を呼んだ「海外シリーズ」
2008年2月にイングランドのプレミアリーグ20クラブが発表した「合意」は、大きな波紋を呼んだ。現在のJリーグと同様、20クラブ、全38節で争われているプレミアリーグ。それに「もう1節」加え、10試合を2試合ずつ組にして、土曜日と日曜日に世界各地の5都市で開催するというのだ。その5都市は入札によって、すなわち「開催権料」の高い都市に決める。
この「海外シリーズ」をシーズンの半ば、1月に開催し、プレミアリーグは「全39節」で優勝を争う。スタートは南アフリカで開催されるワールドカップ後の2010/11シーズンで、2011年1月がその「海外シリーズ」の最初となる―。
メディア、サポーターだけでなく、リーグの内部からも痛烈な批判を浴び、一笑に付された形であっという間に取り下げられた「合意」だったが、当時すでに放映権収入で世界最高の収益を上げていたプレミアリーグが、さらに収益を伸ばすべく「世界戦略」を模索していることは明らかだった。