社会人野球の全国大会・第96回都市対抗野球は8月28日に開幕した。3年連続30回出場のSUBARU(群馬・太田市)には、…

社会人野球の全国大会・第96回都市対抗野球は8月28日に開幕した。3年連続30回出場のSUBARU(群馬・太田市)には、今年からドラフト指名の権利を得た選手がいる。高卒3年目の海老根 優大外野手だ。

 2019年のU-15代表4番を務め、鳴り物入りで大阪桐蔭に入学した。高校3年春(22年)にはセンバツ優勝を経験。夏も甲子園ベスト8入りし、2大会で3本塁打を放った。さらにU−18代表にも選出されている。強肩強打の外野手として注目され、プロ志望届を提出したが、惜しくもドラフト指名漏れ。現在SUBARUで力を磨いている。ドラフト上位でプロ入りを狙う海老根に迫った。

厳しい状況でも社会人野球の環境に感謝

 都市対抗予選前のある日の平日。海老根は先輩野手たちと混じって黙々と練習を行っていた。トレーニングでは一つ一つの動きを大事にし、ダッシュになれば、持ち味の俊足で、先輩野手を圧倒。打撃ではパワフルな打球を飛ばす。守備では落下地点にいち早く到達し、強肩を披露した。高校時代より着実にレベルアップしている姿が感じられた。

 そんな海老根の立ち位置は「2番手外野手」。プロ入りを目指す海老根にとって、常にレギュラーで出られないのは、苦しい状況だ。小川信監督は海老根の力量についてこう語る。

「我がチームは、春先に大学野球部とのオープン戦もやりますが、海老根の力量は彼と同い年になる大学3年生の野手と比べれば、走攻守ともに上回っています。意識も非常に高いです」

実力、意識の高さを評価しながらも、スタメンではないのは海老根以上に結果を残す外野手がいるからだ。都市対抗北関東予選には1番ライト・江川 岳(千葉黎明-明治大)、2番レフト・藤原 龍之介(秋田南-上武大)、9番センター・古川 幸拓(関東学園大付-白鴎大)がスタメンに名を連ねた。3人は大学を経由し、江川、藤原はドラフト候補として注目され、古川はベテランとしてチームを牽引する。小川監督は「海老根と年上の外野手が同じ力量ぐらいだったら、海老根を出します。彼のプロ入りの思いの強さは理解していますし、送り出してあげたい思いがある。ただそれ以上に今年は先輩の外野手たちの内容が良かったですし、海老根はなかなか結果を出していない現状があります」と語るように、海老根は都市対抗出場がかかった大事な試合になると、ベンチスタートだった。それでも海老根はこうした環境を前向きに受け止め、レベルアップの姿勢を崩さない。

「社会人野球に進んで感じたのは、“生き方が豊富”な選手ばかりなこと。それぞれの選手たちが『生き残るためにはどうすれば』いいか考えています。先輩たちの姿に自分も勉強になることが多くあります」

インタビューに答える海老根

高卒プロ志望も指名される手応えがなかった

 京葉ボーイズ時代、U−15代表の4番に抜擢されるほどのスラッガーだった海老根は、数多くの強豪校から誘われる存在だったが、18年の大阪桐蔭の二度目の春夏連覇、西谷浩一監督に惹かれて、同校へ入学した。

 鳴り物入りで入学したが、レギュラーとなったのは2年秋からだった。それでも学ぶものは多かったと語る。

「競争が激しいことや、投手、野手のレベルが非常に高いことは前もって理解していたことなので、他の大阪桐蔭のОBが語るような圧倒された感じはなかったです。そういうものだと思っていましたし、そういう環境でやれることは学びでした」

 海老根は同級生の松尾 汐恩捕手(DeNA)とクリーンナップを組み、2年秋には明治神宮大会優勝、3年選抜優勝、3年夏は甲子園ベスト8を経験する。海老根はその中で甲子園3本塁打を放った。海老根は3年夏の活躍について「西谷先生のおかげ」だと語る。

「春の優勝は、自分たちと戦った高校はエースが満身創痍で思うように投げられないので、2番手、3番手の投手が投げていました。得点を重ねたとしても、みんな満足していませんでしたね。僕自身、手応えはありませんでした。夏の甲子園まで不調だったんですけど、昼休みに特打したり、励ましてもらっていたので、次第に調子を上げていきました」

 海老根は3年夏の甲子園で15打数7安打、1本塁打、7打点の活躍を見せ、高校日本代表にも選出された。そして高卒プロ志望届を提出したが、じつは全く手応えはなかったという。

「多くの球団が調査書をもって学校に来てくれましたが、僕自身が評価されている感じはしませんでした。1位になった松尾はすごくて、センスもあっていつも打っていた。僕はあまり打てなかったので厳しいかもしれませんが、高校生からプロにいくにはプロ志望届を出すのが前提になります。そういう機会があれば、挑戦するべきだと思って、プロ志望届を提出しました」

 支配下指名を前提に臨んだ22年のドラフト会議だったが、結果は指名漏れ。すぐに意識を切り替えた。

「自分はプロに入ることが目標ではなく、プロで活躍することが目標なので、高卒プロに行く道は途絶えましたが、プロで活躍できる可能性を持った野手になることを目指して次のステージに進もうと思いました」

 大学、社会人など選択肢がある中で選んだのはSUBARUだった。西谷監督が海老根の性格を見抜いたものだったという。

「自分は練習する時間が欲しかった。西谷先生は自分の性格を見抜いていて、大人数でやる大学野球部だと授業もあって、時間が取れない。それならば少人数でやる社会人野球部のほうが練習時間、個人の時間も取れるのでやりやすいのではないかと思ってくれたそうです。実際に社会人野球に進んで、そういう時間が取れました」

打撃練習する海老根

不器用さを自覚し、外からのアウトプットを大事に

 海老根は自身を「不器用な選手」だと語る。U−15代表に選ばれていた時から実感していたという。ほかの選手が器用にパフォーマンスを表現する中、自分は思い通りにできないことを自覚していた。

「不器用だからこそ、自分は量をとにかくこなして、掴んでいくしかない。甲子園で打てたのも特打する中で掴んでいったものでした。ただ、社会人野球では練習をこなすだけでは通用しない。外からの情報をインプットする必要がありました」

 そこで海老根は栄養や、生体学を学ぶようになる。

「高校時代はスマホが禁止なので、外からの情報が手に入れられません。それでも大阪桐蔭では西谷先生から大事なことを教わっていて、それだけでも上達はできた。生体学を学ぶことは卒業してからずっとやりたいことでした。体の構造を科学的に勉強することは、本当に上達の助けになりました」

 スローイングフォーム、ランニングフォーム、打撃フォームは科学的に学んだものから、改良を重ねていった。

1年目から3月のスポニチ大会で起用され、安打を重ねていった。試合での映像を見ると、高校時代よりも無駄のないスイングができるようになっている。取材日の打撃練習でもライナー性の打球を丁寧に打ち返している姿が印象的だった。試行錯誤した結果だろう。

「スローイングもそうなんですけど、高校時代は力任せで投げていたなと実感します。体の一つ一つの部位に注目することで、どうすればいいか。打撃フォームも以前より効率的にできている」

 成長を続ける海老根について小川監督は不動のレギュラーへ向けて、対相手への意識に目を向けてほしいと語る。

「専門的なことを勉強して、レベルアップしてきた姿勢は評価できます。ただ、野球は駆け引きのスポーツ。本人はこういう振りをしたいと思っていても、相手はそうさせまいと配球や間のとり方を工夫したりしますよね。もう少し視野を広げれば、成績は変わってくると思います」

 海老根はもう一段階上のステップに入ったということだろう。相手の駆け引きを上回るパフォーマンスは海老根が目指すプロ野球では常に求められるものである。

 SUBARUの都市対抗初戦は8月31日・東京ガス(14時)に決まった。海老根は「与えられた場所で、チームのために貢献します」と意気込んだ。

 果たして海老根はどの立ち位置で試合に出場するのか。予選終了から約2ヶ月間の成果が試される。