第75回:断食

秋場所(9月場所)を全休した横綱。
その間、負傷した足の治療とともに、断食を敢行。
体内もリフレッシュし、
万全の態勢で九州場所(11月場所)に臨む――。

 10月5日から始まった秋巡業は、千葉県、神奈川県、埼玉県など関東近郊で行なったあと、中部、北陸、関西、山陰、中国地方まで巡って、最後は10月29日の広島県福山市で終了。およそ1カ月間、22カ所を回る長丁場でした。

 足の負傷で秋場所(9月場所)を全休した私は、10月4日に両国国技館で行なわれた、2020年東京オリンピック・パラリンピックの機運高揚を目的とする『大相撲beyond 2020場所』に出席。稀勢の里とともに相撲の伝統文化である「三段構え」を披露しました。ただ、その後は再び休場して、負傷した足の治療に専念。10月14日の石川県金沢市での興行から秋巡業に合流しました。

 私が足の負傷に悩まされていたのは、8月の夏巡業の途中からでした。それでも、秋場所の出場には前向きで、場所が始まるギリギリまで調整を続けていたのですが、最終的には思うような回復には至らず、初日から休場という決断を下しました。応援していただいているファンの方々には、ご心配をおかけしました。この場を借りて、改めてお詫び申し上げます。

 さらに、その秋場所では私の他に稀勢の里と鶴竜も初日から欠場。3人の横綱が休場するという事態になってしまったことは、誠に申し訳なく思っています。また、好調が伝えられていた大関・高安が3日目から、大関・照ノ富士も6日目から休場。上位陣がことごとくいなくなってしまったのは、本当に残念でなりませんでした。

 しかしそんな中、昨年の秋場所で全勝優勝を果たした大関・豪栄道が大いに奮闘。加えて、若手注目株の阿武咲(おうのしょう)や貴景勝ががんばって、土俵を盛り上げてくれました。

 そして、終盤戦に突入すると、激戦の優勝争いは一層熾烈さを増しました。13日目に豪栄道が3敗目を喫したことで、4敗の横綱・日馬富士、前頭16枚目の朝乃山とは1差となり、その後の展開次第では5敗で追う力士を含めて、10人を超える力士に優勝の可能性があるという、波乱の展開となりました。

 まさに稀(まれ)に見る大混戦となりましたが、千秋楽を迎えると、優勝の行方は3敗の豪栄道と4敗の日馬富士に絞られ、両者が結びの一番で直接対決することになりました。日馬富士が勝てば、決定戦に持ち込まれるという状況の中、横綱がその強さを見せつけました。圧倒的な寄りを見せて勝利を挙げると、その勢いに乗って決定戦でも圧勝。見事、逆転優勝を飾りました。

“ここ一番”という場面で、抜群の集中力を発揮する日馬富士。その強さを知っている私としては、本割の前から「もしかしたら、逆転優勝があるかも……」という予感はありました。4敗を喫した時点では、すでに「優勝」の2文字は日馬富士の頭の中から消えていたかもしれません。しかし、最後まで諦めずに粘り強い相撲を見せて、土壇場で横綱らしい強さを誇示。本当に素晴らしい逆転優勝でした。

 休場した私たちの分まで、日馬富士は横綱の責任感というものを示してくれたのではないかと思っています。彼のがんばりには私も勇気づけられ、1日でも早く土俵で戦いたい、という思いに駆られましたね。

 さて、冒頭でも記した『大相撲beyond 2020場所』。昨年に引き続き、今年も秋巡業が始まる前日に行なわれました。3年後の東京オリンピック・パラリンピックの機運を盛り上げることはもちろん、日本文化の魅力を発信するとともに、2020年以降のレガシー創出のための文化プログラムでもあります。

 イベント当日は、外国人をはじめ、高齢者の方々、子どもたち、障がい者の方々など、およそ3000人が来場。その中で我々力士たちは、相撲の基本動作や髪結いの実演、子どもたちと関取衆との稽古や、櫓太鼓(やぐらだいこ)の打ち分け、さらに横綱による綱締めに、三段構えの実演、そして幕内、横綱の土俵入りなどと、大相撲の魅力を存分に披露させていただきました。


稀勢の里と披露した

「三段構え」

 あまり聞き慣れない「三段構え」というのは、相撲の型を3つに集約した「上段」「中段」「下段」構えのことで、横綱によって実演されるものです。昨年、日馬富士と鶴竜が20年ぶりに披露して話題になりました。

 昨年の秋場所を途中休場した私は、今回初めて「三段構え」に挑戦。力士の模範となる型の披露とあって、さすがに緊張感がありました。無事にやり終えたあとは、ホッとしましたね。

 こうした、いろいろな儀式を務め上げることも横綱の大事な仕事です。ですから、横綱というのは基本的に”休日”はないもの、と私は考えています。それだけに、本場所を全休し、巡業にも出られないことは、心苦しいばかりでした。

 そんな思いもあって、休場した秋場所の間、私は”あること”に取り組みました。それは、断食です。

 実は、昨年の秋場所中にも断食を敢行。私なりに、その効果を実感していたので、またいつか実践したいと思っていました。しかしその後は、なかなかまとまった時間が取れずに再び行なう機会を得られなかったのですが、今回休場することになって、その期間を利用しました。足の負傷の治療と並行して、徹底的に体のケアをしようと考えたわけです。

 最近はファスティングとも言われる断食。今年は昨年より1日増やして、4日間チャレンジしました。ファスティングにもいろいろなやり方があるようですが、私の場合は水以外のものは一切口にしません。そうすることで、普段酷使している内臓を休め、細胞を活性化させる作用があるそうです。体のリセットみたいなものですね。

 実際、4日間で体重は10kg減りました。昨年は「ちょっとつらいな」と感じましたが、今回は体も、心も、さらに言えば、頭もスッキリしました。自分を見つめ直す意味でも、いい時間だったと思います。

 体の中にあったいろいろなものを出し切ったあとで、徐々に食事の量を増やしていって、今では元の体重まで戻しました。そうして、足の具合もよくなってから、巡業にも合流。そのときには、同じく秋場所を休場した稀勢の里や鶴竜も元気な姿を見せていました。

 4横綱がそろっての巡業は活気が違いますね。何より、来場したファンやお客さんたちのうれしそうな顔が見られてよかったです。

 私の他、3人の横綱も体調はよさそうでした。11月12日から開催される今年最後の九州場所は、ついに4横綱がそろって迎えられそうです。私にとっては、復活を期す舞台。みなさん、どうぞ注目してください。