橋本のプレースタイルが中国勢を苦しめているのは確かだ(C)Getty Images 現地時間8月24日までスウェーデンの…

橋本のプレースタイルが中国勢を苦しめているのは確かだ(C)Getty Images

 現地時間8月24日までスウェーデンのマルメで行われたWTTヨーロッパスマッシュ。その女子シングルスで世界ランキング11位(8月19日時点、以下同)の橋本帆乃香が、銭天一、王芸迪といった中国選手を連破した。王芸迪は世界ランキング5位の格上だが、7月のUSスマッシュに続いての勝利となった。橋本は今や「中国選手キラー」として中国のメディアも注目している存在だ。

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 その活躍の秘密は、ボールに「カット」と呼ばれる激しい後退回転をかけて、その回転量に変化をつけながら返し続けることで相手のミスを誘う「カットマン」と呼ばれるプレースタイルにある。かつては世界の主流だったが、攻撃技術の進化に伴い、現在のトップ選手では希だ。1球1球の得点率は低いが、相手に攻撃されることを前提に台から離れて構えて延々と返し続けることで、真綿で首を絞めるように相手を窮地に追い込んでいくスタイルだ。

 今回の王芸迪との試合は、最終ゲームが12-10と接戦となったが、その得点の内訳に、カットマン独特の戦略が明瞭に表れている。

 王芸迪は10点を取ったが、そのうち8点までがカットに対するドライブ(前進回転での攻撃)によるものだった。これは、橋本が徹底した安全策を取っているために、それ以外の橋本のミスがほとんどなく、王芸迪が得点をするためにはドライブを打つしかなかったことを意味する。そして、王芸迪はその8点を取るために実に91回ものドライブを打った。

 打っても打っても橋本が返し続けるからだ。

 このドライブは、一見するとスピードがないため楽に打っているように見えるが、そうではない。毎秒100回転近い橋本の重いカットに対してミスなくドライブをするために、全身を使ったフルスイングでボールを擦り上げて強烈な回転をかける必要がある。かなり体力を消耗するが、それ以外に得点する方法がないのだから打つしかない。

 しかし、91回も打てば当然ミスも出る。今回の場合それは5回であり、それによる得点こそがカットマンの戦略だ。橋本はこれに、逆襲攻撃での3点、横回転等の攪乱戦法での4点を加えて、計12点をもぎ取って王芸迪を下した。これぞカットマンという勝ち方だった。

 橋本は次の準々決勝で、世界ランキング2位の王曼昱(中国)と対戦して敗れたが、その最後のゲームもまた9-11と接戦だった。

 こちらは、王曼昱が取った11点のうち、実に9点までがドライブによるもので、そのために王曼昱は88回のドライブを打った。打つ方も打つ方だが、返す方も返す方である。そのうち王曼昱がドライブをミスしたのは、なんと1回のみ。恐ろしいまでの精度だ。これが世界ランキング2位の凄みだ。これでは橋本もカットだけでは得点のしようがない。機を見て逆襲をし、サービスやつなぎボールの回転の変化でなんとか8得点を挙げたが敵わなかった。それらの威力と精度を高めることがさらなる高みに達するためには必要となる。

 1981年世界選手権での童玲(中国)以来44年、カットマンの世界チャンピオンは出ていないが、橋本の活躍は、このプレースタイルの可能性と卓球競技の多様性、そしてなによりも、汲めども尽きぬこのスポーツの魅力を示してくれている。

[文:伊藤条太(卓球コラムニスト)]

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