W杯予選で招致をアピールするメッシ(アルゼンチン)とスアレス(ウルグアイ) アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイの大統領が、10月初旬、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの大統領官邸で、2030年ワールドカップ(W杯)を共同開催する意向…



W杯予選で招致をアピールするメッシ(アルゼンチン)とスアレス(ウルグアイ)

 アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイの大統領が、10月初旬、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの大統領官邸で、2030年ワールドカップ(W杯)を共同開催する意向を表明した。この発表にはFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長も出席。南米サッカー連盟のアレハンドロ・ドミンゲス会長(パラグアイ人)も同席し、この共催案を南米大陸全体として支持していることを示唆した。

 ここに至るまでの経緯を簡単に振り返ってみよう。

 当初、1930年に第1回W杯を開催したウルグアイのサッカー関係者は、W杯創設100周年の節目にW杯を再び自国で催したいと考えていた。しかし、1930年の大会には13カ国が参加して、15日間に18試合が行なわれただけだったが、2030年大会には48カ国が参加して、32日間に80試合を消化することになっている。大会の規模が何倍にもなっており、人口約340万人の小国ウルグアイが単独で開催するのは難しい。そこで、ウルグアイがアルゼンチンに共催を持ちかけ、2013年4月、両国のスポーツ関係者、政府関係者らが合同招致委員会を結成して具体的な検討を始めた。

 今年8月31日にウルグアイの首都モンテビデオで行なわれたロシアW杯南米予選のウルグアイ対アルゼンチン戦の試合前、ウルグアイ代表ルイス・スアレスが「20」、アルゼンチン代表リオネル・メッシが「30」と胸に記されたそれぞれの代表ユニフォームを着て肩を組んで「2030」を示し、両国による共同開催を世界にアピールした。

 ところがちょうどこの日、パラグアイの大統領もこの共催に加わりたい意向を表明。その後、アルゼンチン、ウルグアイの関係者と調整を重ね、10月4日の発表に至ったのである。

 2030年大会開催には中国、イングランド、オーストラリアとニュージーランド、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国なども興味を示しているが、「W杯創設100周年記念大会をW杯発祥の地南米で」という謳い文句は非常にインパクトが強い。2026年大会はアメリカ、カナダ、メキシコが共同開催を希望しており、もしこれが実現すると、2大会連続でアメリカ大陸で開催されることになるのがネックとなるかもしれないが、南米3国が有力候補となるのは間違いない。

 当面のプランではアルゼンチンが中心となり、使用するスタジアムの数はアルゼンチンが6~8、ウルグアイとパラグアイがそれぞれ2~3を見込んでいるという。

 アルゼンチンとウルグアイのライバル関係は、世界最古の宿敵であるイングランド対スコットランド(最初の対戦は1872年)に次いで古く、1901年に初めて対戦している。対戦試合数は185を数え、イングランド対スコットランドの114試合を凌いで世界最多。それだけに、ライバル意識は激烈だ。

 当初はウルグアイの方が強かった。両国は1928年のアムステルダム五輪の決勝で対戦し、1-1で引き分けた後、3日後の再試合でウルグアイが2-1で勝ち、五輪2連覇を果たした。1930年の第1回W杯決勝でも顔を合わせ、このときもウルグアイが4-2で勝って初代世界王者となった。ウルグアイは、1950年のW杯ブラジル大会でも最終戦で地元ブラジルに逆転勝ち(試合会場の名前から「マラカナンの悲劇」と呼ばれる)を収めて2度目の優勝を遂げるなど、20世紀前半までは南米最強だった。

 しかしその後、人口、経済力などで上回るアルゼンチンが次第に優勢となり、1978年に自国でW杯を開催して初優勝。1986年大会では天才マラドーナの大活躍で再び世界の頂点に立ち、W杯優勝回数でウルグアイに追いついた。

 現在までの対戦成績は、アルゼンチンが86勝44分55敗と大きく勝ち越している。それでも、ウルグアイはブラジル、アルゼンチンという南米のサッカー超大国をしばしば痛い目に遭わせており、強烈な存在感を放っている。

 2018年のロシアW杯南米予選はウルグアイが2位、アルゼンチンが3位で突破。直接対決ではアルゼンチンがホームでは1-0で勝ち、アウェーではスコアレスドローだった。

 もうひとつのパラグアイは、アルゼンチンとウルグアイに接した国で、人口と国土の面積はウルグアイの約2倍。サッカーの伝統と実績は南米では中レベルで、過去W杯に7回出場しているが、2010年南アフリカ大会の決勝トーナメント1回戦で日本を延長、PK戦の末に下してベスト8に進んだのが最高の成績だ。

 ロシアW杯南米予選では、最終節、ホームで最下位ベネズネラを下せば5位となって、オセアニア地区首位のニュージーランドとの大陸間プレーオフに進めるところだった。だが、圧倒的に攻めながら決定力が足りず、カウンターから失点して敗戦。8年ぶりの出場を逃した。

 2014年のブラジル大会と同様、開催準備、財政面、治安面などで多少の不安があるのは否めないし、3国共催による連携不足も懸念される。それでも、アルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領は、「南米では、世界のどの地域よりもサッカーが人々の生活に根付いている。我々が愛してやまないこのスポーツの素晴らしさと我々のホスピタリティーを、世界中のサッカーファンに体感してほしい。間違いなく素晴らしい大会になる」と、自信満々だ。