23日、沖縄尚学が夏の甲子園初優勝を収めた。剛腕左腕・末吉 良丞投手(2年)など地元出身の選手たちで構成されたメンバーた…
23日、沖縄尚学が夏の甲子園初優勝を収めた。剛腕左腕・末吉 良丞投手(2年)など地元出身の選手たちで構成されたメンバーたちである。そんな沖縄といえば、以前からトップ層の中学生の県外流出が問題となっており、沖縄出身の選手が関東・関西の私学で活躍するケースが多くあった。
ただ最近は沖縄尚学、興南の全国での躍進、ОBがプロで活躍していることもあり、情勢が変わってきているという。県内外の強豪校に選手を送り出す沖縄中央ポニーの上原正吾アドバイザーに語ってもらった。
2番手の選手を求める新鋭校の存在でさらに県外選手が増加
沖縄の県外流出が増えてきたのは2010年以降。浦和学院、滋賀学園、横浜など名門校に進学する選手が増え、レギュラーでも活躍した。2022年には読谷ボーイズ出身の宮城 誇南投手(早稲田大)が浦和学院のエースとしてチームをセンバツベスト4に導き、2024年には浦添ボーイズ出身の日賀 琉斗内野手(東海大相模)が甲子園で好守備を連発。8強入りに貢献している。
今年は石垣島出身の石垣 聡志投手が健大高崎に進学し、早くも1年春からベンチ入り。「今年、甲子園出場した東海大熊本星翔、岡山学芸館など他県に進んでレギュラーを張る沖縄県出身の選手の割合は年々増えて来ていると思います」と上原氏は語る。
そういう背景もあり、県外の強豪校たちは毎年、沖縄のトップ層の獲得を狙っているが、最近は県外新鋭校も沖縄の選手獲得を目指しているという。狙うのは2番手の選手たちだ。
「甲子園出場がない新鋭校たちが声をかけるのは一番手ではなく、二番手の選手。新鋭校のスカウトの方は強豪のポニー、ヤングのレギュラーが来てくれると思っていないので、『レギュラーではない選手で県外で勝負したい選手はいませんか?』と問い合わせてくる学校が多いですね。なので、沖縄を飛び出している子が全員一流というわけではありません。県外で花開いて甲子園に出てスタメンを勝ち取った選手もいます。我がチームの教え子もそういうケースで進みました」
実際、福島の会津北嶺に進んだ嘉数優人選手は沖縄中央ポニー時代では、それほど出られる選手ではなかったが、会津北嶺では、3番ファーストを打つまでに成長し、23年の福島大会ベスト4のメンバーとなった。
沖縄は軟式に逸材が潜む
硬式は県外志向が強い一方で、軟式は神戸国際大付に進んだ津嘉山 憲志郎投手(ソフトバンク)など一部、県外に進む選手はいるものの、県内志向が強い。沖縄尚学はベンチ入り20人中、8人が軟式出身と他の名門私学にはない特徴がある。
沖縄の軟式は全国でも実績を残している。この夏は宜野座中が佐賀開催の第47回全国中学校軟式野球大会で準優勝を果たした。沖縄尚学のエース・末吉も浦添市立仲西中の軟式野球部出身。当時から145キロを投げていたといわれる。それだけ沖縄の軟式中学には逸材が潜んでいる。
なお、宜野座中については、以前から強豪として知られており、地元志向の選手の多さから、宜野座高の主力は同校出身の選手が多い。今年の宜野座高は春の県大会で優勝し、夏の大会でもベスト4に入った。上原氏は「沖縄の軟式は気心知れた仲間でやろうという気持ちを持った選手が多い。宜野座高の躍進もあるかなと思います」と分析する。
スカウトしなくてもエリートが集まる沖縄尚学

そして沖縄尚学、興南の二強については、やはりブランドもあり、毎年人気が高い。
沖縄尚学について上原氏は「今はわかりませんが、以前、比嘉監督と話をした時は『スカウト活動をしないので、来た選手たちで戦う』と語っていました。スカウト活動をしなくても、強い選手が集まるのが沖縄尚学。沖縄尚学の野球部は1学年40名のスポーツコースに入り、毎年20人前後の定員です。
2年前に甲子園ベスト8に進んでいるように、強くて、ブランドもあって、比嘉監督の指導を受けたい部員、家族も多いですから、すぐに埋まりますね。例年9月にオープンスクールがあって、硬式、軟式の名が知れた選手たちも参加するのですが、近年はだんだん増えてきていますね」と人気の強さを語る。
エース・末吉は軟式145キロを投げ、県内外の強豪校に誘われる存在だった。
夏前のインタビューで末吉は「比嘉監督がU-18代表で、ピッチングコーチをしていたので、その監督のもとで学びたいのと、沖縄尚学の左投手として活躍していたので、いろんなことを比嘉先生から吸収できると思ったので、入学を決めました」と比嘉監督の存在が進学の決め手となったと話している。
また興南も「春夏連覇を達成した名将・我喜屋優監督のもとで学びたい」と、沖縄本島だけではなく、離島の選手からも人気がある。ソフトバンク育成3年目の盛島 稜大捕手は宮古島出身で、当時「県のトップレベルで野球をしたいと思って、興南に決めました」と興南に進学した理由を語っていた。
対抗馬としてエナジックスポーツが浮上
沖縄尚学、興南が近年築き上げたブランドで有力な中学生が集まる中、その対抗勢力として、KBC(未来沖縄)、日本ウェルネス、エナジックスポーツ(今年度から全日制へ変更)と通信制の学校たちが出てきた。どのチームも野球に打ち込める練習時間の長さ、練習環境の良さをアピールし、さらに有力な指導者を招いて、強化しようとしている。
この1年、通信制の学校の中で、一歩突き抜けたのが21年創部のエナジックスポーツだ。浦添商、美里工を甲子園に導いた神谷嘉宗監督のもと、ノーサイン野球を掲げ、今年のセンバツに出場した。上原氏は環境の良さが沖縄の中学生から注目を集めていると語る。
「エナジックは廃校となった小学校の跡地に校舎が立ちました。寮は1人部屋で、とても綺麗で、練習環境が充実しています。さらに専用球場も完成予定で、今年の甲子園出場で、もともと県外志向だった選手たちも気持ちが入れ替わるかもしれません」
ここ最近の沖縄の高校野球の勢力図について、上原氏はこう総括する。
「もともとはレベルの高い野球を学びたい思いで、県外に進む選手は多いのですが、沖縄尚学、興南の二強に憧れる有力な選手たちが、優れた指導者のもとで、全国でも名を残す活躍を見せました。この2校を倒したい思いでエナジックスポーツも伸びてきた。そして実力のある地元の中学軟式の選手たちが打倒・私学を掲げ、公立に進んでおり、宜野座のように、私学を打ち破る例も出てきました。宜野座以外にも一旗挙げたい公立校は出てきています。
県内に残る選手たちの熱の強さは今まで以上に感じますし、県外で名を挙げたい、県内で名を挙げたい中学生の二極化がはっきりしてきました」
沖縄尚学の躍進は野球界の希望
私学、公立校同士でひしめきあって、実力を伸ばしている沖縄の高校球界だが、危機的な事情もある。それが、野球人口の減少だ。今年の沖縄県の加盟校の部員数は2100人で、昨年より75人も減っており、連合チームも3、4校を組んで出場するチームも多くなった。上原氏は少子化以外にも要因があるという。
「やはりプロスポーツのチームがあるバスケ、サッカーの影響が強いです。B1に所属する琉球ゴールデンキングスはかなりの強豪で、観客動員もトップクラスと聞きます。キングスの影響でバスケをやる小学生がかなり増えてきているのは現場でも感じます。FC琉球は一時期、J2にいた時期もありましたので、強い時はサッカーをやる小学生が増えていました。野球を選ばない少年、スポーツをそもそもしない小学生が増えていて、沖縄の野球界としては危機的な状況です」
それでも沖縄尚学の躍進は沖縄県民が生活を止めるほどの熱狂ぶりである。上原氏は「今回の沖縄尚学の躍進、決勝戦の戦いぶりで沖縄の野球熱が再燃してほしいと思います」と願う。
今年の沖縄尚学の躍進は近年、全国の壁に跳ね返されながらも地道に積み上げてきた沖縄勢の躍進の成果ともいえる。“地産地消”で全国の頂点を目指す地域のモデルケースとなるだろう。