（23日、第107回全国高校野球選手権決勝 沖縄尚学3―1日大三） 沖縄尚学の三塁コーチ・田中彪斗（あやと）（3年）は…
（23日、第107回全国高校野球選手権決勝 沖縄尚学3―1日大三）
沖縄尚学の三塁コーチ・田中彪斗（あやと）（3年）は、白線の内を無我夢中で走った。歓喜の輪に飛び込む。感情はひと言では表せない。
「本当に、甲子園には縁があったんだなと思う」
定位置は白線の外、三塁側ファウルグラウンド。父と同じ場所から球場を見渡す。はじめは少し、くすぐったかった。
父の秀太さん（48）は、阪神タイガースで同じ三塁コーチを務める。もともと阪神の内野手だった。
自宅にあった選手時代の野球カードには「盛り上げ役」とあった。愛された選手だったんだ、と誇らしくなる。
「甲子園でプレーがしたい」と、沖縄尚学に進んだ。沖縄は、小さなころ父と春季キャンプを見に行った場所。阪神の選手への憧れを募らせた原点の地だ。
親元を離れて目標をかなえた。でも、内野手のレギュラーはとれなかった。「勝手に過去の父と比べてしまう」。周囲の目が気になって、必要以上に落ち込んだ。
最上級生になって与えられたのは、今の父も担う役割。こっそり球団のファンクラブに入り、スマートフォンで試合中継を見る。阪神の三塁コーチは、迷いなく腕を回す。
失敗しても、やじを受けても、思い切ることをやめない。たくさんの重圧と戦う姿勢を「すごく尊敬している」。
「負けたくない」とも思う。決勝、同点の六回2死二塁。打球が三塁手の横を抜けると見た瞬間、右腕を回した。
「外野の守備位置、少し芯を外した打球、ランナーの足を考えればいける」
これが決勝点。日本一に導く陰のビッグプレーだった。
たびたびスタンドで見守ってくれた父はこの日、東京に遠征中。中継を見ていたと思う。事前に優勝の約束をした。
「パパ、親子で『アレ』しよう」
もらった勇気は、画面越しに送り返した。（平田瑛美）
■田中秀太・阪神三塁コーチの話
試合開始前からテレビで見ていました。ずっと、表彰式の最後まで。優勝した瞬間のうれしさと、日大三の負けた涙を見たら、やっぱり感動しますよね。
決勝まで行けただけでもすごいと思ったけど、最後に勝ち切ってね。よかったです。（彪斗は）試合には出ていなかったけど、メンバーに入れたし、（兵庫から）沖縄まで行って最高の夏になったんじゃないですかね。「おめでとう」ってだけLINEしました。
レギュラーになりたかっただろうけど、サポートする方で一生懸命やっていた。たまたま同じポジション。親子で日本一になれたら。僕らもまだまだ油断せずにやる。「優勝旅行に連れてってほしい」って言っていたみたいなんで、できるように頑張ります。
