メキシコ五輪で「アジア人初」の得点王。国際Ａマッチで「歴代１位」の７６試合７５得点。日本サッカーリーグでも「歴代１位」…
メキシコ五輪で「アジア人初」の得点王。国際Ａマッチで「歴代１位」の７６試合７５得点。日本サッカーリーグでも「歴代１位」の２５１試合２０２得点。日本サッカー界最高のストライカーといわれた釜本邦茂氏が亡くなった。これらの記録だけでも、そのすごさは分かるが、１９８３年に現役を引退した同氏のプレーを、実際に見た方は、それほど多くはないのではなかろうか？ そこで『サッカー批評』では、数えきれないほど同氏のスーパープレーを目撃してきた大住良之氏、後藤健生氏ら大御所サッカージャーナリスト２人に加え、ピッチで対戦した元古河電工の川本治さんに｢追悼の激論｣を依頼。釜本氏のすごさを語ってもらうと同時に、不世出のストライカーの、これまで明かされることのなかった素顔や伝説、秘話を聞いた！
■｢あんなの釜本だけ｣驚きのキック力
大住「釜本さんのすごいところはたくさんあるんだけど、とにかく驚くのはキックですよね」
川本「そう、いろいろなキックをするけれども、どれも本当に強い。メキシコ・オリンピックでも、ペナルティーエリアの外で軽く足を振っただけなのに、ドーンとグラウンダーのシュートがゴール左隅に吸い込まれていったでしょう」
大住「メキシコ戦ですかね」
後藤「先日、三菱重工のＤＦで日本代表でもあった斉藤和夫さんと立ち話をしたときに、釜本さんの話になったんですよ。斉藤さんはＣＢだったから目の前で散々見てきたわけだけど、釜本さんのシュートが飛んでいくときには、爆音みたいなすごい音が聞こえたと言っていました。あんなの釜本だけだ、って」
川本「その後、第２の釜本と呼ばれる人はたくさん出ましたけどね」
大住「川本さんも、そのひとりですよね」
川本「いやいや、僕は東南アジアで間違われただけですよ。ＫＡＭＡＭＯＴＯとＫＡＷＡＭＯＴＯはMとWが１字違いなだけだから。空港でだったかな、カマモト！って驚かれました」
■｢コースなんて関係ない｣弾丸シュート
大住「そのくらいに、東南アジアでも有名でしたよね。僕が覚えている釜本さんのすごいシュートは、１９７１年に当時の三ツ沢球技場で見た、日本リーグの日本鋼管戦でのものですね。釜本さんは６９年に肝炎を患って、７０年はまだ本調子ではなかったけれど、７１年には完全に復調していた。その日本鋼管戦、中盤でボールを奪った釜本さんが、振り向きざまに左足シュートを決めたんだよね。それがものすごいシュートで、コースなんて関係ない。ゴールの枠の中に飛べば決まることは確実な、まさに弾丸シュート。あれを見ただけで、この試合はもういいや、と思えるくらいにすごかった」
川本「ガマさんは、長いドリブルから強シュートを打つということは、それほどありませんでしたよね。短いドリブルから本当にコンパクトに足を振って、ドンと決めるという感じでした」
大住「ボールを止めた後、次のステップで打つことがほとんどでしたよね」
後藤「僕が今でも実感を持っても覚えているのが、１９７１年のトットナム戦でＧＫのパット・ジェニングス相手に打ったヘディングシュートですね。右からクロスが上がって、釜本さんが強烈なヘディングを放ったんだよね。これは決まったと思ったら、ジェニングスがものすごい横っ飛びで防いだんだよ」
■イングランドDFに｢負けなかった！」
大住「ジェニングスのセーブにも驚いたってことか」
後藤「そうそう、ワールドクラスのＦＷとＧＫの対決はこんなにすごいんだと思った。記憶じゃなくて感覚として、すごいものを見たなって、いまだに鮮烈に覚えているね。アーセナル相手に決めたゴールも有名だけど」
大住「いわゆる、アーセナル・ゴール、ってやつだね。アーセナル戦も見たの？」
後藤「もちろん見たよ。１０数年前、あのアーセナル戦のビデオテープをもらって見る機会があったんだけど、信じられないほど一方的な試合だった。日本がクリアしても拾われて、ずっと攻められているんだよね。たまたま釜本さんの足元に行くと、そこで何とか収まって日本がボールを持てるという試合だったんだよね。当時はもっと互角に戦っていたような気がしていたんだけど、あんな中であのゴールを決めたというのは、改めてすごいことだと思うね」
大住「ニアポストでのダイビングヘッドだよね」
後藤「ああいう地点でイングランドのＤＦと競り合っても、まったく負けなかった」
大住「メキシコ・オリンピックの前だよね。やはり、ドイツに行って大きく変わったんだよ」
後藤「大会直前だよ。本当にすごい選手になった証拠だったよね」
