(21日、第107回全国高校野球選手権大会準決勝 沖縄尚学5―4山梨学院) 山梨学院の大石康耀(こうよう)には、10歳…
(21日、第107回全国高校野球選手権大会準決勝 沖縄尚学5―4山梨学院)
山梨学院の大石康耀(こうよう)には、10歳年上の兄、昂征(こうせい)さん(27)がいる。物心つく頃から「このシーン面白くね?」と言っては、タブレットでドラえもんを見せてくれた。のび太くんが、馬鹿にされながらも「いい男」になっていく姿に2人で目を潤ませた。
中学卒業を前に、東京都東村山市を出ることを決意した。家では服を脱ぎっぱなし。家族に頼ってばかりの自分を変えたかった。
入寮して1カ月、警視庁に勤める兄に電話した。「きついわ。警察学校のときのお兄ちゃんの気持ちがわかったわ」。親に頼れないつらさが身にしみていた。兄は励ましてくれ、最後に「せいぜいな」と言った。
せいぜいがんばれ。心を軽くしてくれる、2人だけの昔からの合言葉だった。
抱き枕も、筆箱も、置き時計も。寮の自分のスペースはドラえもんグッズでいっぱいだ。ドラえもんを見ることで心を落ち着かせ、猛練習を乗り越えてきた。兄は電話やLINEのたび、「せいぜいな」と言ってくれた。
準決勝で出番はなかった。出塁した仲間の装具を受け取りに何度も走った。九回2死になっても淡々と。「苦しいときも関係なくやる」。3年間、磨いてきたことだ。
アルプス前で「ごめん」と泣き崩れる萬場翔太を、「お前のせいじゃないよ」と赤い目をしながら抱き起こした。
その姿を最前列から昂征さんは見ていた。「かっこよくなった」。心を打たれたように言った。(内田快)