藤浪は復帰登板となった17日の中日戦で笑顔もあふれた(C)産経新聞社 野球評論家の佐野慈紀氏が現在の野球界を独自の視点で…

藤浪は復帰登板となった17日の中日戦で笑顔もあふれた(C)産経新聞社

 野球評論家の佐野慈紀氏が現在の野球界を独自の視点で考察する「シゲキ的球論」。今回は中日戦に先発し、NPB復帰を果たしたDeNA・藤浪晋太郎にフォーカスを当てる。

 藤浪は8月17日の中日戦(バンテリンドーム)に先発登板。この試合では中日打線が「左オーダー」を組んできたことも話題を呼んだ。

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 そして藤浪自身も5回5安打1失点、5奪三振、最速156キロの速球を軸に変化球とのコンビネーションも冴え、"合格点"の投球内容。勝ち星こそ付かなかったがしっかりとゲームを作った。

 佐野氏は「ボールが抜けるのは本人も分かっている。右打者がいたほうが藤浪もプレッシャーになるんですよ。それが全員左打者だったら、思いっきり投げられるじゃないですか」と結果として、中日の左オーダーは右腕を助けることになったと見る。

 さらに投球内容に関しては「メジャーにいた時とそれほど変わっていないですね。本人が次の登板にどう備えるかが注目です」と指摘。

 ただ緊張の復帰登板でしっかりとゲームを作ったのは評価に値するところ。

 「初戦にしっかりと結果を残せたのは本人も安心しているでしょうね。次のゲームからは相手チームも左打者ばっかりということもないでしょう。どういう風な登板になるのか楽しみになりましたね」と続けた。

 一方で課題とされている制球力に関しては「引き続きチェックしたい」と話す。「NPB時代、メジャー時代、そして今回の復帰と通して投球を見ても、特別何も変わっていない」とメカニックは変わらないとしながら、課題の制球難の背景にも思いをはせた。
 
 「僕の見立てでは、長い腕をうまくたたんで投げている時は安定している。1番の球が抜ける要因はバランスを崩した時に、長い腕が遠回りに出てくるところです」とずばり。

 さらにバランスが崩れる要因については「下半身なのか、頭の位置がずれて、バランスが崩れることもある。それは近くで投球をじっくり見てみないと分からないことでもあります」としながら、自身の経験を踏まえて、こう語る。

 「僕の場合は、崩れるときは大体、パターンが一緒。頭から突っ込んでいってしまう。そうなると、身体のラインにそって、まっすぐ降ろさなくてはいけない手が、ちょっとだけズレてしまうんです」とコメント。

 「その分だけロスが出る。あくまで推測ですが、藤浪投手も頭から動いてしまうことで、腕が離れてしまい、いい時はうまく腕をたたんで投げられていたものが、ロスをカバーしようとすこしだけ腕を回してしまう。それで球が暴れているんじゃないですかね」と制球難に考察を加えた。

 その上で「長年見てますが、力を入れる場面での投球は腕を振ることに頼っているんです」としながら、改善策としては「腕を振ることに頼るのではなく、いわゆる足を中心に使っていくという感覚を持った方がいいと思います」と、下半身主導でピッチングを行っていく意識を持ったほうがいいとした。

 戻ってきた剛腕がいかに道を切り開いていくか。今後も注目となりそうだ。

【さの・しげき】

1968年4月30日生まれ。愛媛県出身。1991年に近鉄バファローズ(当時)に入団。卓越したコントロールを武器に中継ぎ投手の筆頭格として活躍。中継ぎ投手としては初の1億円プレーヤーとなる。近年は糖尿病の影響により右腕を切断。著書「右腕を失った野球人」では様々な思いをつづっている。

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