(21日、第107回全国高校野球選手権大会準決勝 日大三4―2県岐阜商 延長十回タイブレーク) 69年ぶりの決勝進出は…

 (21日、第107回全国高校野球選手権大会準決勝 日大三4―2県岐阜商 延長十回タイブレーク)

 69年ぶりの決勝進出はならなかった。県岐阜商は、準決勝に進んだ4校のうち唯一の公立校。私学の強豪を倒して快進撃を続けたが、あと一歩届かなかった。3年ぶり31回目の出場で地元でも特別な存在感を放つ「古豪」の奮闘に、スタンドも沸きに沸いた。

 同点で迎えた五回、坂口路歩(ろあ)選手(3年)が右前適時打を放ち追加点を挙げると、三塁側アルプススタンドを埋め尽くした大応援団から割れんばかりの歓声と拍手が上がった。

 坂口選手は、祖父も父も同校の野球部出身という「県岐阜商一家」。応援に駆けつけた祖父の清貴さん(73)は、1969年の選抜大会に出場した経験があるという。孫の一振りに「流れがこちらに来そうだったところで、一気に引き寄せてくれた。このまま流れに乗ってほしい」。父の輝光さん(43)は「ここというタイミングで4番の仕事を果たしてくれた。重圧があるだろうが、試合ごとに成長している」と笑顔で話した。

 岐阜市にある県岐阜商は県内では一般的に「ケンギショー(県岐商)」と呼ばれる。市立岐阜商(市岐商=シギショー)があるためだ。野球部は今年で創部100周年。春夏通算61回目の甲子園で、戦前に計4度の優勝を誇る。中日の故高木守道元監督や和田一浩さんらプロ野球にきら星のごとく選手が輩出した。創部以来ほぼ切れ目なく甲子園出場を続けている。

 岐阜県の公立校は全県一学区制度。「ケンギショーで甲子園へ」という思いを胸に県内各地からえりすぐりの選手が集結する。県内にも大垣日大など私学強豪が存在するが、県岐阜商は「別格」だ。

 「岐阜の高校野球は昔から県岐商。うちに来たらレギュラーになれる子がスタンドでメガホンを振っている。それでも納得しているように見える」(私学強豪監督)。「(岐阜の高校球界では)古き良き時代のジャイアンツみたいな存在」(他校の野球部関係者)という。

 メンバー20人のうち19人は県内出身だが、大半は岐阜市以外で、学校近くで下宿や借家住まいをする選手もいる。県東部の土岐市出身のエース柴田蒼亮投手(2年)は「毎年のように甲子園に出ている姿をテレビで見てきた。地元で全国制覇を狙えると思った」、郡上市出身の渡辺大雅投手(2年)は「岐阜でいちばん甲子園で勝てる学校。甲子園に出場して郡上を盛り上げたかった」と話した。

 チームは昨秋、監督が交代した。鍛治舎巧・前監督が鍛え上げた選手たちを、現在の藤井潤作監督が自主性を尊重して才能を伸ばした。のびのびと躍動するチームは私学強豪を次々と下し、準々決勝では春夏連覇をめざした横浜(神奈川)を破った。

 試合後、藤井監督は「(歴史ある学校の重圧に)しんどさはあったが、甲子園のグラウンドに立つと、『よしやろうぜ』っていう気持ちになった。よくここまで結果を出してくれて、本当にありがたいです」と選手の頑張りをたたえた。(高原敦、松島研人、原晟也、岡田健)