10月28日の午前11時過ぎ(現地時間)から行なわれた、グランプリ(GP)シリーズ・スケートカナダの女子フリー。前日のショートプログラム(SP)ではミスの連鎖から抜け出せず、52.60点で10位という予想外の結果に終わっていた本田真凜…

 10月28日の午前11時過ぎ(現地時間)から行なわれた、グランプリ(GP)シリーズ・スケートカナダの女子フリー。前日のショートプログラム(SP)ではミスの連鎖から抜け出せず、52.60点で10位という予想外の結果に終わっていた本田真凜は、第1滑走に登場した。

 丁寧に一つひとつの要素をこなした本田は、ほぼノーミスで演技を終えると、両手で何度もガッツポーズ。観客も、スタンディングオベーションで讃えた。



フリーで3位と挽回して5位入賞した本田真凜

「最初から、どんなジャンプを跳ぼうかなというのをずっと考えていて……。今日は本当に守る必要がないと考えていたので、どういう構成がいいのかなと考えていました」

 こう話す本田は、最初の3回転ルッツを危なげなく跳ぶと、次の3回転フリップ+3回転トーループも確実に決め、スピードのあるスピンを披露。後半には3つ目の3回転サルコウの後に連続ジャンプを成功させた。

 濱田美栄コーチはこう明かす。

「3連続ジャンプをどこにつけようか迷っていたようです。最後のダブルアクセルにつけようかとも考えていたようですが、ダブルアクセルは昨日のショートでパンクしていたこともあったので、早めにつけてしまおうと考えたようです」

 結果的に、後半に入ってすぐのふたつのジャンプ、ダブルアクセル+3回転トーループのセカンドと次の3回転フリップは回転不足を取られたが、SP後の大きな課題だったスピンは3種類ともレベル4を獲得した。

「こっちへ入ってからあまりたくさん練習ができなかったので不安はありましたが、ジャンプも、昨日ダメだったスピンの改善もできたのでよかったと思います」(本田)

 フリーの得点125.64点は、自己ベストには7.77点届かなかったが、結果的にはケイトリン・オズモンド(カナダ)とマリア・ソツコワ(ロシア)に次ぐフリーで3位の得点。合計を178.24点とし、SP10位から合計5位まで上げる健闘を見せた。

「昨日は本当によくない演技をしてしまったので、その反省をして、気持ちの部分でどう持っていったからよくなかったのかなど、今朝の練習までずっと考えていました。こっちへ入ってから思ったような練習ができなくて、自分が望んでいたレベルアップした構成も何もできなかったので、それは次の課題になったのかなと思います。でも、今日に関していえば、今の自分ができることはすべて出せたのではないかと思います」

 実は、大会期間中の本田の体調は万全ではなかった。カナダ入りした時はよかったが、少し張り切って練習をし過ぎたせいか、2日目の練習の途中から左臀部に少し違和感を感じるようになり、それが徐々に痛みとなって出てきていた。そのため、競技初日からは公式練習の途中から入ってきて、すぐにリンクからあがるような状態だった。

 それでも「出ると決めたのは自分なのだから」と濱田コーチとも相談して出場。この日も、試合前に痛み止めを服用して臨んだという。そんな影響もあってか、この日の演技は、本人は納得しているものの、ジャンプやスピンなどの要素は確実にこなそうと意識しすぎたのか、全体的にメリハリに欠けていたのも確かだ。

 雄大な曲のイメージに比べ、演技自体にやや軽さを感じさせてしまう部分もあった。それについて濱田コーチは、「やはり大人のスケーターになるにはまだまだ(時間がかかる)かなと思って見ていました」と苦笑する。

「スピンは丁寧にやっていましたが、トランジションは省いているところもあって、振付師に悪いなと思うくらいでした。本来はもう少しメリハリのあるプログラムですが、それを自分流にし過ぎている部分があった。芝居でもそうですが、役者が自己満足で陶酔し過ぎてしまうと、なかなか相手(観客)に伝わらなくなる。振付師の意図を十分に汲んだうえで、自分流の滑りに合わせていく必要があると思います。その点で、この大会の評価は40点。演技内容だけではなく、ここまでくる過程として、まだシニアで戦うような練習ができていない。シニアで戦うためには、努力でしか積み上げられない、底上げが最も大事になる」(濱田コーチ)

 本田はこのあと、中国杯に向けてカナダから直接北京入りする。3日間は治療に専念するため練習はオフにして、水曜日午後か木曜日の公式練習から氷上にあがる予定だ。その間にどこまで気持ちを切り換えられるかが、次戦へのカギになるだろう。

 昨季の世界ジュニアで201.61点を獲得したように、本田が大きなポテンシャルを持っているのは間違いない。出だしでミスをしないでうまくハマれば、一気にトップ争いに食い込む力を持っている。スコア的にもSPで70点弱を獲得できる可能性は高く、フリーで気持ちの乗った滑りになれば、今回は1.00点が最高で他はすべて0点台だったジャンプのGOE(出来映え)の加点もつくだろう。

 また、5項目すべてが7点台で計60.91点だった演技構成点についても、USインターナショナルクラシックではトランジションは7.85点、他の4項目が8点台だったことを考えれば、まだまだ伸ばせる。合計で200点以上を出せる確率は高いといえる。

 本田が総合で5位になった今大会、200点を超えたのは優勝したオズモンドのみ(212.91点)。グランプリシリーズ初戦のロシア大会・ロステレコム杯では、優勝したエフゲニア・メドベデワ(ロシア)は231.21点、3位の樋口新葉が207.17点だったことを考えると、点数としては全体的に低い大会だった。

 今後、本田が本当の勝負をできるようになるためには、得点を210点以上にしていくことが必要になってくる。そのために重要なのは、濱田コーチが力説する「シニアで戦うことへの心構えを持って、そのための練習をちゃんとすること」になる。

 悔しさが大きかった今大会、本田がこの結果をどう受け止め、次への糧にするか。彼女の今季のこれからはその心構えにかかってくるのだろう。

【フォトギャラリー】羽生結弦『グランプリシリーズ』初戦 ロシア大会直前>>

Sportiva フィギュアスケート特集号
『羽生結弦 いざ、決戦のシーズン』
好評発売中!

★詳しくはこちらから>>