ダルビッシュ有とドジャースにとって”悪夢”のような2回だった。 10月27日、ヒューストン…

 ダルビッシュ有とドジャースにとって”悪夢”のような2回だった。

 10月27日、ヒューストンのミニッツメイド・パークで行なわれたワールドシリーズ第3戦。1勝1敗のタイで迎えた大事なゲームで、ドジャースの先発マウンドに上がったダルビッシュへの期待は大きかった。シーズン中まで含めて、過去5戦では4勝0敗、防御率0.88という数字を見る限り、初のワールドシリーズは最高の舞台になるかと思われた。



2回途中で降板し、肩を落とすダルビッシュ

 しかし――。初回こそ、先頭のジョージ・スプリンガーに2塁打を許しながらも無得点に抑えたが、ダルビッシュの制球が定まっていないのは明らかだった。そして、2回表が早くも決定的なイニングとなってしまう。

「(真っ直ぐは)全体的に4シームも2シームも悪くなかった。ただ、スライダーがよくなかった。スライダーがよくないとカーブも投げられない。それで速い球に合わされてしまったかな」

 ダルビッシュが試合後にそう話した通り、変化球のコマンドが乱れたことが命取りになった。シーズン中の平均打率と得点がメジャー1位だったアストロズは、限られた武器でごまかせる打線ではない。この回、5番ユリエスキ・グリエルに豪快な一発を左翼に叩き込まれたのを皮切りに、ジョシュ・レディックに左翼への2塁打、エバン・ガティスに四球、マーウィン・ゴンザレスに左越え適時打、ブライアン・マッキャンに中前適時打と、驚くほどのメッタ打ちを食らった。

 打順は先頭に戻り、迎えたスプリンガーは二塁ライナー、2番のアレックス・ブレグマンはセンターへの犠牲フライでやっと2死を奪うが、この2本の打球もバットの芯で打たれたもの。結局、3番のホセ・アルトゥーベに左中間2塁打を打たれて降板するまで、この回はほぼすべての打者にきれいに捉えられた。

「有は感覚がつかめず、リズムを見出せていなかった。アウト5個で0-4とリードされ、ブルペンに後を託すしかなかった」

 2回途中に早くもダルビッシュを交代させたことを問われ、デーブ・ロバーツ監督はそう説明した。実際には4点で済んだのはラッキーだったし、逆にあの段階まで続投させたことが不思議に感じられたほどだった。試合はこの2回のビッグイニングが決め手となり、ドジャースは3-5で手痛い星を落とした。

 この日のダルビッシュの投球内容を振り返ると、にわかには信じがたい数字が並んでいる。10人の打者に対し、6安打、1四球。49球を投げて奪った空振りはわずか2球(そのうち1球はバント失敗)だけ。シーズン中の9月13日以降の5試合では、31回3分の2を投げて自責点は3だったのが、27日は1回3分の2で自責点4を許した。

 打球の速さを測る指標として用いられる「Exit Velocity(打球の初速度)」を見ても、2回表のグリエル(104マイル)、ゴンサレス(99)、スプリンガー(105)、ブレグマン(103)、アルトゥーベ(108)の打球はすべて100マイル前後という速さ。これらの数字からは、このイニングのダルビッシュはアストロズ打線に文字通り”完璧に捕まっていた”ことが見えてくる。

「ドジャースはヒューストンでは簡単には勝てないよ。ミニッツメイド・パークでのアストロズは別のチームなんだ。地元スタジアムでプレーすることを想定して組み立てられた打線だからね」

 第3戦のスタジアムに向かうウーバー(一般人が運転手となるタクシー配車アプリ)の車中で、運転手が自慢げに筆者にそう話しかけてきた。単なる地元ファンの身びいき発言と言うなかれ。ダルビッシュを打ち込んだ27日の勝利も含めて、ポストシーズンに突入して以降のアストロズは、ホームで7勝0敗と圧倒的な強さを誇っている。過去にミニッツメイドパークで通算4勝1敗、防御率2.16という好成績を残していたダルビッシュも、地元ファンの熱狂的なサポートを受けたアストロズの勢いを止めることができなかった。

 果たして今シリーズ中に、ドジャースの背番号21にリベンジの機会は巡ってくるのか。順番通りにいけば、ダルビッシュの次の先発機会は11月1日の第7戦となる。泣いても笑っても今季最後となる一戦は、復活の舞台としては最高だ。

 ただ……シリーズ第6、7戦が開催されるロサンゼルスにドジャースが戻れるかどうかは定かではない。

 第2戦の逆転劇に続き、地元に戻っての第3戦も快勝したアストロズは明らかに上り調子だ。第3戦では12安打と、自慢の打線が勢いを取り戻した感がある。タイミングよく第4、5戦もヒューストン開催とあって、アストロズは一気にシリーズの流れを掴もうとしている。

 一方、ドジャースは第3戦に敗れただけでなく、ブルペンをほぼフル回転させて合計19個のアウトを取らなければならなかった。なかでも、中継ぎの軸となっている前田健太は2回3分の2で42球を投げたことで、ロバーツ監督は次戦に前田を起用しないことを明言した。

 そんな苦しい台所事情で、第4戦は今季16勝3敗、防御率2.72を残した先発左腕、アレックス・ウッドへの負担が大きくなる。オールスター以降に防御率3.89とやや調子を落としたウッドが序盤で崩れれば、ドジャースはまたも厳しい戦いを強いられることになる。

 2戦終了時に1勝1敗となった過去通算59度のワールドシリーズで、第3戦を制したチームが世界一になった例は37度。第3戦が優勝のカギを握ってきた歴史は再び繰り返されるのか。それとも、ドジャースに巻き返す底力は残っているのか。

 アストロズは第5、6戦でダラス・カイケル、ジャスティン・バーランダーという左右の両エースをつぎ込めることも考慮すれば、休みなしで迎える第4戦の勝敗が意味するところは大きい。ドジャースにとって、明日は早くも”マスト・ウィン(絶対必勝)”に近い一戦と言っても過言ではなさそうだ。