日本では首都・東京にある3つのクラブがJ1で戦っているが、その中で最も苦戦しているのが、FC東京だろう。現在、3クラブ…

 日本では首都・東京にある3つのクラブがJ1で戦っているが、その中で最も苦戦しているのが、FC東京だろう。現在、3クラブ中で一番下の「15位」に沈んでいるが、先週末のリーグ戦では、名門・鹿島アントラーズ相手に丁々発止の好ゲームを演じた。それは、今後の「上昇の兆し」なのか? サッカージャーナリスト後藤健生が、試合を中心に徹底分析する!

■「相対外だった」負傷による交代

 鹿島の鬼木達監督はハーフタイムの2人の交代の後、66分にチャヴリッチに替えて田川亨介を入れ、75分にもレオ・セアラを樋口雄太に替えている。つまり、後半に許されている3回の交代回数を使って、79分までに5人の交代枠を使い切った。

「後半に交代選手を使ってパワーを上げる」という戦略通りの交代だった。

 一方、FC東京のほうは52分にアクシデントによる交代はあったが、最初の戦術的交代は78分の2人の交代だった。

 もちろん、前半のパフォーマンスが良かったし、この日はそれまで続いていた猛暑が途切れていたこともあって(公式記録によれば気温は26.5度)、選手たちの足も止まっていなかったから、交代を急ぐ必要もなかったのではあるが、交代という面で後手を踏んだことは確かだ。

 FC東京の松橋力蔵監督は、「(最後の時間に)まとめて交代することでパワーを上げたかった」のだと言う。

 次々と繰り出してくる鹿島の交代策に対して、我慢して守り切って終盤にフレッシュな選手を一気に投入して、勝負に出るというのがプランだったのだろう。

 その意味では、室屋成の負傷による交代はFC東京にとってはプランを狂わせる不運だったような気がする。

■鹿島に勝利をもたらした「勝負の綾」

 左サイドに入った室屋は、右サイドの長友佑都に比べて攻撃参加が少なかった。むしろ、ドリブルで仕掛ける俵積田晃太のカバーをし、また遠目から精度の高いアーリークロスを入れるのが役割だった。

 だから、室屋がそのままプレーできていたとすれば、終盤にバーグンナガンデ佳史扶を左サイドに投入して、長友に替えて室屋を右サイドにコンバートして、両サイドから攻撃を仕掛けるようなことができたかもしれない。

 だが、早い時間帯で負傷のために室屋を退けなければならず、予定より早い時間に急に投入されたことでバーグンナガンデがゲームに入り切れていなかったのも、FC東京にとってはマイナス材料だった。

 そもそも、交代要員の層の厚さという意味では鹿島のほうが上だった。そのうえ、アクシデントによる交代を余儀なくされたことで、FC東京は後手を踏むことになってしまったのだ。

「鹿島アントラーズらしいしたたかさ」と、ひと言で片づけてしまいがちだが、このゲームの勝敗はそうした微妙な“勝負の綾”によって、もたらされたように思うのである。

■今後につながる「4万人満足」の試合

 戦略通りの戦いによってアウェイでの難しい試合で勝点3を獲得した鹿島は、この時点で首位に躍り出た。まだ、10試合以上が残っている時点での首位はそれほど大きな意味はないかもしれないが、「選手交代を駆使しての勝ちパターン」は、今後の戦いでも有効に機能することだろう。

 一方、FC東京は、この日は勝点を積み上げることができなかったが、6月25日の横浜F・マリノス戦(第15節延期分)以降、リーグ戦では3勝2敗と勝ち越しており、天皇杯でも準々決勝進出を決めている。このまま順調にいけば、残留争いから完全に抜け出す日も近いことだろう。

 それよりも、雨の中の鹿島戦に集まった4万人以上の観客を満足させられるだけの試合ができたことは今後につながるはずだ。

 日本では、常に若手の活躍への期待が大きいが、鹿島戦のFC東京を見ているとベテラン勢の落ち着いた試合運びも魅力的に感じることができる。

 もうすぐ39歳の長友も最後まで足が止まらなかったし、タッチライン際での相手選手との駆け引きを見ていると、その引き出しの多さに感心せざるをえない。ちょっとした動きで相手の動きを止めて確実に味方ボールのスローインを取る。そんな動きを見ているだけでも、サッカーの面白さを堪能することができる。

「また見に行きたい」。この日のFC東京のサッカーは、人々にそう思わせるに十分なものだった。

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